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IT幽霊  作者: 葵むらさき


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「幽、霊が……何て言って連絡して来るんですか?」私は質問した。

 それは、幽霊からスマホに着信が来るって、それも電源オフにしたらそれが来るって、大嘘の出鱈目ですよね? と確認したい気持ちと、でもまさか本当にそれが来るんなら、何故そんな現象、まさに心霊現象がごく普通に今このように、あたかも日常茶飯事であるがごとく教示されてしまっているんですか? という好奇心と、いやまさかありえない、だいたいこのスマホこれからずっと私が持つことになるものなんですよね? いやないない無理ですよ、そんな怖いことがすぐ近くというか手元で起きるなんて、どうにかして下さいよ、という否定願望ないし拒絶願望とがごちゃ混ぜになり発せられた問いかけだった。

「彼らはね」熱田さんは、彼女にしてみれば最低音レベルだろう声音で答えた。「この先どうしたらいいのか、問い合わせてくるのよ」

「──」私はその回答文言を頭の中で整理しなければならなかった。

 幽霊からの着信はつまり、幽霊からの問い合わせである──

「皆死にたてだから、自分がこれからどうなるのか、何が起きるのかわからなくて、不安なの。だから電話で問い合わせてくるの」

「問い、合わせ」私は掠れた声で復唱した。

 ふと、大分前に動画サイトで視聴したホラーゲーム実況の一場面が脳裡に浮んだ。古びた電話ボックス。錆び付いた緑色の公衆電話。その送受話器を取り上げる手──

「そう」熱田さんが頷く。まさか私が思い出したゲーム画面のことを肯定した訳でもないのだろうけれど。

「わ」私は質問を続けた。「私、たちは、その問い合わせに、応じるん……ですか?」

「そうです」熱田さんの声は元の超高レベル音に戻った。「あ、大丈夫よ、ちゃんとトークマニュアルがあるから、それの通りに話せばいいわ」

「あ」私はほっとした──思わず。そう、私は思わず、ほっとしてしまったのだった。

「これす」森下さんが、恐らく特に何にも怖れていないのだろうけれど掠れ声で言いつつ、私にホッチキス留めの数枚のA4用紙束を差し出した。

「は、はい」私は両手で恭しく受け取った。

 A4用紙の束──後で数えてみたらそれは九枚綴りだった。

 表紙らしきものは、残念ながらというのか付けられていない。

 第一頁目には、一番上にゴシック体の横書きで

『死んだ事を知っている場合』

と、書かれてある。

 それを最初に見た時点で、私は頭皮にざわり、という刺激を感じた。頭髪が逆立つような、とでもいうのだろうか。

 とにかく、ざわり、とした。

 その下には、二行の項目が中黒を付され並んでいる。

『・成仏してあの世へ行くか

 ・地縛霊としてこの世にとどまるか』

 そしてその下にもう一行、括弧内に

『(死後選択)』

と、書かれてある。

 それを見た時点で私はうなじの辺りにざわり、を感じた。

 さらにその下には、米印を付され

『※どう違うか?』

と続いている。

 そこまでを確認したところで熱田さんが、

「よし、じゃあ一丁やってみましょう。ロープレよ」

と、甲高く宣言した。

「えっ」私は顔を挙げ、それから周りを見回した。「ここで、ですか?」

 そう、私たちが立っているのは朝礼が行われた広い一室、大会議室のような部屋の中で、入り口ドアはあけ放たれ──それは巨大な観音開きの造りで、屋外に向け大きく開放されている──室内外を問わず少なくない人々が、並んで話しながら歩いたり、何か書籍や箱などを運んでいたり、スマホで──恐らく先ほど私が渡されたのと同じようなもの──誰かと話していたいたりまた何かを打ち込んでいたり、にぎやかな様子だ。皆の出立はオフィスカジュアルからジーンズ姿、果てはスウェットスーツまで、実に自由なように見える。

「ああそうね、立ったまんまじゃ疲れるわよね」熱田さんは超ピンクに塗られた唇をすぼめ「じゃあこっち来て」といいながらすたすた歩き出した。

「あ」私は思わず森下さんを見、彼が黙って頷くのを確認した後「はい」と返事をして小走りについて行った。

 連れて行かれたのは、いってみれば小会議室のような部屋で、六~七人が囲んで座れるサイズのスチールテーブルと椅子が置かれてあった。

 熱田さんが最初に座り、その隣に森下さんが座り、最後に私が二人の向かい側に座る。

「じゃ、森下君幽霊役やって」熱田さんが指示する。

「はぇ」森下さんは『はい』と『はあ』の中間のような返事を小さく返したあと「じゃあまずは、自分が死んだことに気が付いてる人の方、やるすね」と私に告げた。

「あ、はい」私は改めてマニュアルに目を落とした。

『死んだ事を知っている場合』だ。

 森下さんはごく小さく席払いをした後「すいません、あのぼく、なんか死んでしまったみたいなんすけど」と小声で言った。

「あ」私がマニュアルに書かれてある内容を元に返事をしようとする前に、

「上手いわよねえ!」と、熱田さんが叫ぶ。

「え?」私は驚いて目を見開き顔を挙げた。

「いやあ、森下君ってほんと、死人の話し方にそっくりなのよ」熱田さんが、まるでお芝居を観劇した後感動のコメントをするかのように、森下さんを褒めたたえる。「何回聞いても惚れ惚れするわあ。ほんとに、死んだ人そのまま!」

「──」私も森下さんも、返す言葉がなかった。

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