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静寂のトリガー  作者: 桜油
1章
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8/21

8

「ぜえ……はあ……ぜえ……はあ……」

「ながれ、カメさんみたいだよ?日が暮れちゃう」

「うっせえ。間に合うっての。お前が速い、だけだから……」

「そう?」

「あ、そこは、右」

「みぎだね、おっけー」


久々の外出。東雲がズンズン進む中、オレはひいひい言いながらなんとかついて行っていた。

こいつの足は速い。競歩に出ても優勝できるんじゃないかってくらいスタスタと先を歩くが、時々立ち止まってオレを待っててくれる。

おかげで、なんとかギリギリ、東雲が迷子になる事態を避けられている。


そもそも、東雲はパソコンを持ってるはずなのに、なんでそんな速く歩けるんだろうか。

馬鹿力だけじゃなく、身体能力全般が高いのが東雲の『不適合性』ということか?

力加減さえ覚えたら便利すぎるだろ。羨ましいことこの上ない。

それに比べてオレはどうだ?耳が良いだけじゃないか。こんなの強くなっても、余計頭痛に悩まされるだけで何もいいことない。

現に、ヘッドホンしててもやっぱり耳と頭が痛いし。


軽く鬱になりながら歩を進めること数十分。

やっとの思いで大型ショッピングモールにたどり着き、店内に入った瞬間に深く息をついた。


「着いた。さすがに冷房がしっかり効いてるな。生き返る……もう外に出たくないな」

「ながれがもうちょっと速く歩けば、10分くらいで着いたと思うけど」

「だまらっしゃい」


オレがダラダラ歩きすぎたわけでは決してない。無いったら無い。


駄弁るのもそこそこに、とりあえずさっさと用事を済ませるべく、家電量販店に向かう。

テレビやら洗濯機やら様々なものが並んでいる。

パソコンのコーナーもあるが、修理のほうが安いはずだ。修理できそうになかったらパソコンを新調しようと考えながら、修理受付を探す。

ここでパソコンを購入したはずだし、まだギリギリ保証期間は過ぎてないし、保証書も持ってきたから修理できないことはないと思うが……どっちのほうが安上がりだろうか。


修理受付を探していると、商品のテレビがニュース番組を映しているようで、そのニュースの内容が耳に入ってくる。


『最近巷で噂の連続殺人事件。またもや白昼堂々の殺人が発生しました。死亡したのは高校の化学教師。これで9件目になります。検察は、同一犯による犯行と見て調べています』

『なお、今回は硝酸カリウム入りの瓶や一部の実験器具が盗まれており、殺人強盗の罪で捜査を進めています』

『被害者同士の関連性についても捜査しています』

『続いてのニュースです。警視庁や警察庁のデータベースがハッキングされた事件について……』


物騒だな。

……そういえば、東雲と初めて会った日にもそんなネットニュースを見た。


「東雲。最近この街で殺人事件が多発しているんだが、どう思う?」

「あー。それ、ふうちゃんが『もほーはん』?って言ってたよ」

「模倣犯か……」


その言葉に、先月に諜報部長がトランシーバーの向こうで話していた内容を思い出した。


『この街でも随分と暴れてくれちゃったから……それにほら、警察の通報まで揉み消してるせいか、『真似しとけば捕まらない』と思ってるのか、模倣犯まで出てくる始末』


東雲がその連続殺人鬼じゃなかったことに驚いてそれっきり何も考えていなかったが……、今こうして見ると、なるほど確かに東雲はこんなことしないだろう。

物欲があまりなく、盗む理由もないし。

そもそも、『害』がもみ消すんだから、ニュースでこうしてお茶の間を騒がせることも無いはず。

多分あれだろ。東雲が暴れすぎて現場を見られて、それで何か勘違いしたんだろ。知らんけど。


しかし、結構被害者も増えたな。

まあ、だからと言って正義感を燃やせるほどオレはお人好しじゃないし、そもそも何もできない。冥福を祈っとけば充分だろ。


……この模倣犯をどうにかしないと一生回収されない、とかじゃないよな???


「ながれ。しゅーり受付、見つけたよー」


東雲の言葉に思考を中断して指を指された方向を見ると、修理受付と書かれた看板のすぐ近くに、カウンターテーブルとスタッフが数名立っていた。


早速そのスタッフに声をかけ、東雲が持ってきたパソコンを見せる。


すると、まずは東雲に持たせていたことに若干引かれた。

仕方ないだろ、オレより東雲の方が力があるんだから。


そして、パソコンがコーラまみれなのを見て更に引かれた。

仕方ないだろ、コーラの噴水がかかっちゃったんだから。


なんとか見積もり額を出してもらえることになったが……こりゃ、新調したほうが早くて安上がりかもしれない。


東雲を連れて休憩スペースまで向かい、そこにあった自販機でコーラを2本買う。


「ながれ。既に一本あるよ?」

「そりゃあ、二本買わないとだろ。オレも東雲も、何だかんだコーラ飲めてないんだから」

「ほえ?あたしのも?」


こてんと首を傾げる東雲に、「そらそうだろ。コーラ飲んでみたいって言ってたし。ほら、今度は振るなよ?」と手渡した。

彼女はしばらくポカンとした後、目を宝石のようにキラキラとさせた。


「ありがとー!」

「……おうよ」


東雲は今度は慎重に蓋を開け、噴き出さないのを確認するとにんまりと笑みを浮かべて、「いただきまーす」とコーラを飲み始める。

が、直ぐにペットボトルから口を離し、舌を出した。


「いひゃい……」

「炭酸だ。このシュワシュワがいいんだが……口に合わないか?無理して飲まなくてもいいぞ」

「ほへー……あ、シュワシュワの後はおいしい……」

「そうか。それなら良かった。ああそうそう。急がなくてもいいけど、今日中に飲みきれよ?炭酸が抜けるからな」

「わかったー」


ちびちびと、でも美味しそうにコーラを飲み進める東雲を見て、オレもコーラを開ける。プシュッと小気味いい軽い音が立つ。

今日もコーラ美味いなぁ。

東雲が飲み終わるの待ちで、ぼんやりと店内を眺める。


お盆休みということもあってか、店内はかなり混雑している。

家族連れ、カップル、友人同士……人生楽しそうだ。

誰も、まさか、殺人鬼と標的が二人組で仲良く買い物に来ているなんて思いもしないだろうなあ。


あ、いや、あそこの集団はどうだろう。

パッと見はフードを目深に被り、黒ローブ、仮面を身につけている痛々しい仮装集団。

だがオレには分かる。音から推察するに、金属製品を隠し持ってるな。多分ピストルだろう。……東雲の持ってるバズーカみたいなものしか実物を見てないから確信は持てないが。

それに、後生大事そうに抱えている鞄の中からはチクタクと音がする。爆弾だったりして……みたいな。


なんだ。明らかにテロリストみたいな奴らも使ってるんじゃないか。うんうん、このショッピングモールはしばらく潰れないだろう。安泰だ。


そんな訳ないです、明らかにテロの前兆ですねありがとうございました。


「あー、東雲。コーラは家に帰ってからでも飲めるし、とりあえず」


外で時間を潰さないかと言いかけたところで、シャッターが閉まる音が轟いた。


うげ、閉じ込められた。

東雲も異変に気づいたらしく、「なんか起こってるね」とコーラを飲み込んでから呟く。

いや呑気か。


仕方ない。

せめてどこか、多目的トイレの中とかに避難をしようと考えて立ち上がり……かけて、止まらざるを得なくなった。

銃口が、後頭部に突きつけられる。


「動くな」

「……」


テロリスト集団がこっちに来ていたことが足音で分かっていた。逃げたら絶対撃たれるのが、所々から聞こえる銃声で嫌でもわかるので、動くに動けなくなってしまった。

正直、ここで生き延びても東雲の代理に殺されるだけなので死ぬのが早いか遅いかの違いしかないし、撃たれたところで別にどうでもいい。

だが……東雲もパソコンを抱えてきたから丸腰だ。

こいつを巻き込んでまで死にたいとは思ってないんだよ。


東雲も持ち前の身体能力があれば逃走は容易なはずだが、何を思ってか無抵抗で降伏していた。


こうして、オレたちはあっさりと、ショッピングモール占拠テロ事件の人質となった。

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