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番外編の執筆に集中しすぎて少し遅れました。
胃薬をポチッた後、オレが真っ先に始めたのはぶっ壊された扉や壁の修理だった。
家の外壁がボコボコに穴だらけだから、冷房は全然効かない。お陰で暑くて仕方ない。
それに、外から侵入し放題だ。……殺人鬼と同居を強いられてる時点で防犯もクソもないか。
何はともあれ、なんとか穴を塞がないと今晩寝る宿すらない。
数年間、ほとんど太陽光を浴びていなかったオレに木材とか工具とかを扱えるとは到底思えない。だが、業者を呼んだ時に東雲が何をやるか分からない以上、迂闊に人は呼べない。
それに金も心配だ。死んで早々に同居人の口座から引き出すのも躊躇われる。というか、東雲を独りにしたくない。目を離したら何をしでかすか分かったもんじゃないので。
というわけで。
手持ちの金で足りますようにと祈りながら、泣く泣くこの炎天直下の真昼間、ホームセンターへ出かけたが。
「あづい……」
ホームセンターに辿り着くどころか、徒歩一分ももたずに引き返した。
「あ、ながれ。おかえりー。早かったね。ながれって音速で買い物できるの?」
東雲は遺体が転がってる血の池のリビングで、まるで自分の家のように寛いでいる。
人の家で、同居人を殺したあとに、人がしまってたポテチ食うとかどんな神経してんだよ。
アホなのか?
そういやアホだった。
いや待て。そもそもの元凶はこいつなんだから、こいつに修理させるべきでは?
殺し屋だからそこそこ稼いでるだろ。あと、ゴリラみたいな馬鹿力だったし木材とか工具も持てるはず。
そんな迷推理と共に、暑さで脳がやられていたオレは東雲に声をかける。
「木材と工具買ってこいよ。元はと言えばお前がぶっ壊したんだから、弁償しろや」
「いいけど……いいの?」
「はぁ?当然の摂理だろ。いいのってなんだ、いいのって」
「あたし、直す以前にもっと壊すよ?多分」
「……確かに」
こいつに正論言われるとなんか悔しい……。
「とにかく。じゃあどうするんだ、コレは。お前が無駄にぶっ壊したんだから、ちゃんと考えろよ」
「ぎょーしゃさん呼んじゃダメなの?」
こてん、と首を傾げた東雲に「あのなぁ」と諭す。
「業者なんか呼べるわけないだろ、金もないのに」
「金なんかなくてもダイジョーブ!」
東雲はサムズアップして、自信満々に言い放つ。
どんな迷案が口から飛び出るやら。
「『この銃が火を吹くぜ?』って言えば、みんな言うこと聞いてくれるから」
「アウト。それはもう脅迫だろ。どこで覚えたんだ?そんな台詞」
「はいばらが教えてくれたよ?」
「誰だよ『はいばら』」
多分『害』の構成員の誰かだろうけど、倫理観バグってるこいつに変な台詞を教えてやるなよ……。
「えー、『はいばら』知らないの?あの『はいばら』だよ?」
「どの『はいばら』でも知らねえよ。会ったこともないし、名前を聞いたこともない」
「『はいばら』はね、面白いんだよ?毒飲んでも、窒息させられても、ヘーキそうにしてるんだ」
「えぇ?何だよそれ」
無敵じゃないか。
それともオレの聴覚がおかしいみたいに、免疫がおかしい人も存在しうる……のか?
「他にもね、寝なくてもヘーキな人とか、遠くまで見える人とか、いろんなものに変身できる人とかがいるんだよ」
「はぁ。意外といるもんだな」
オレだけおかしいのかとずっと思ってたが。
家の外壁のことより東雲の話の方が気になってきた。
「そんなにオレみたいなのが集まってるなら、『害』では、そういう『普通じゃない』ところについて何か分かってたりするのか?」
「ふうちゃんはねー、『ふてきごーせー』?って言ってたよ。『トリガー』のふくさよう?みたいなものなんだって。あたしが力持ちなのも、ながれの耳がいいのも『ふてきごーせー』だよ」
「なるほど」
『トリガー』の副作用で聴覚過敏とか身体能力の強化とかが起こり、それを『不適合性』という。
『不適合性』を持つ人が『害』に集まる。
東雲の話を聞いて、そういうことだと解釈した。
『普通』じゃないから社会に適合しにくい、社会不適合者の持つ『不適合性』。
ネーミングが皮肉すぎるだろ。
それはさておき。
「で?外壁はどうするんだよ」
「えー。ツケにすれば良くない?」
「後払い……まあ、いいか。それにしても、ツケって言葉もどこで知ったんだよ」
「寝なくていいからずっと働いてるおじさんが教えてくれた!」
「ずっと働いてるから寝れないんじゃなくて???」
本当に変なやつばっかりだな、『害』ってのは。
そういう訳で、業者に任せて支払いは『害』に押し付けることにした。
オレはどうせ代わりの人材が手配されるまでの命だし、そもそも東雲がぶっ壊したんだから、保護者責任として『害』が何とかしてくれ。切実に。
そもそも業者を呼ぶことが危ない?そんときゃそん時だよ、知らんけど。
……ああ、でも。
業者を呼ぶならもう一つ問題があるか。
「遺体はどうするかな。葬式のやり方とか全然わかんねーんだけど。ググれば何とかなるか……?」
「そうしき?何それ、面白いの?新しい遊び?」
「面白くは無いな。死んだ人を弔う行事だ」
「とむらう?」
「えっと……」
何だろう。どう説明しても、こいつに『弔う』なんて概念は絶対理解できない気がする。
どうしようかと考えあぐねていると、「あっ、でもダイジョーブ!」とまた自信満々に東雲は笑う。
東雲の『ダイジョーブ』ほど信用出来ない言葉もないよな。さっき学んだ。
「にんげんのお肉っておいしいんだって」
「やめとけ。マジで。いや待て、そもそもどこから聞いた?」
「色んなものに変身できる子だよー」
「『害』は頭のネジ飛んでないと採用されないのか???」
そんなこんなで結局、清掃業者を呼ぶことにした。こっちも『害』が色々誤魔化してくれるだろ。知らんけど。
業者って凄いよな。数時間で壁の穴を塞ぐし、血の池も綺麗さっぱり跡形も無くなるから。
最初、家の惨状を見た瞬間通報された。
そりゃそうだよな。誰だってそうする、オレだってそうする。
しかし、もう警察に話は通されていたようで、あしらわれた上に一方的に通話を切られた業者が困惑していた。
スマンて。
でもこれもオレの残り少ない余生のためなんだ。勘弁してくれ。
そして代金を請求されて、『救』名義にしてくれと言えば忽ち縮み上がって、心臓をアホみたいにバクバクと言わせながら、『やっぱタダでいいっす!すんませんしたー!!!』と言って逃げ帰ってしまった。
スマンて。さっさとそれを言えばよかったよ。
尚、この一連の流れで東雲はずっとポテチを食べて、足をプラプラと振りながら寝っ転がっていた。
ここオレの家だよな???




