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「ボク、臨波盟。元々は東雲の監視官をしていたんだ。今は榛原朔の監視官をしてるけどね。……宜しくするつもりは無いから」
「草」
職場にすげー私情持ち込んでるじゃん。
なんだこいつ。
そう思ってのオレのこの返答だったが、臨波は気に食わなかったようで、ブツブツと文句を垂れている。
「東雲が素直に言うこと聞く意味がわかんない……ただのモヤシ男じゃん」
それなすぎる。
臨波の独り言は止まらない。
「それに、コイツがそこそこ実力あるのも気に食わない。何なの?ちゃんと任務こなしてるし、仕事早いし、東雲に無理させてないし、報告書も翌日には上がってるし、完成度高いし、定時上がりなのに仕事溜まってんの見たことない。報告書に埋もれてるボクへの嫌味か何か?てか本当に新人?怪しすぎるんだけど。敵勢力のスパイなんじゃないの?」
「草²」
あまりにも散々な言われようだ。
いや、何だかんだ褒めてるように聞こえる。すげーオレのこと見てるじゃん。貶してるのか褒めてるのかハッキリしろよ。
……というか、オレの耳のことは知らないんだろうか。
全部聞こえてんだが。
このまま臨波の愚痴を盗み聞きする趣味もない。
いや盗み聞きしたつもりは無いが、とりあえず本題にさっさと入ってもらおう。
さっきのは聞こえなかったことにする。
「臨波。挨拶の為だけに来たのか?」
「そんな訳ない。誰が好き好んで、生意気な後輩のところに自分から挨拶しに行くの?」
「だろうな」
プライド高そうだし。
「諜報部長からの命令だから、本当に、誠に、すッッッッッッッッッごく不本意ながら!共同で任務に入ることになりました!!!」
「あー」
確かに諜報部長、研修の最終段階で榛原や臨波と一緒に任務に入ってもらう、みたいなこと言ってたな。
えー。コイツとか。
能力を疑ってる訳じゃなくて、多分、確実に、オレより優秀なんだろうけど……何だろう、榛原と東雲に振り回されてるイメージしか湧かない。
東雲を御することが出来なかったから、東雲の担当から外れて榛原と組んでるわけで……いや、榛原が東雲より制御できるのかと言われると困るけど。
そう考えると臨波、すげぇ。野次馬の榛原と仕事してるのか。後で臨波にも胃薬差し入れよう。
「えー、はい。よろです」
「はあ???」
しまった。FPSで部屋を立てた時、ボイチャありでやってる弊害が出た。
いや、仕事もFPSみたいなもんか。
違うが???
「因みにどんな任務なんだ?」
「監視官だけで話しても仕方ないでしょ。執行官も揃ってから話をするから、総司令室に来て」
「詳細はそれでいい。だが、その前に分類だけでもいいから教えてくれ」
「……分かった」
吐き捨てるような返事の後、臨波は言った。
「『解決』。しかも、アンタが解決したテロ事件関連」
ーーー
「ほんっと、何なのこいつ……社会人としての常識に欠けてるじゃん。折角御崎さんが太鼓判を押してるのに、勿体ない……配信見てなかったらもっと仕事も捌けるでしょ……てかテロ事件の報告書マジで可笑しいって。爆弾解除?音だけで知識もなく?それにメントスコーラとか、つまり現場にあるもので武器を用意したってこと?そりゃ特殊工作B、戦闘支援Bにもなるっての。……榛原の玩具増えて最悪……そういや情報支援Sって何でボクと同じ?『不適合性』が絡んでるの?」
まだ独り言続いてんのかよ。
地味にうるせえ。しかもその実褒め言葉だし、本人は聞こえてないつもりだから指摘するのも申し訳ない。
無自覚ながら新手の嫌がらせじゃねえか。
榛原の玩具を増やした件はスマン。
てかなんで『適正テスト』結果が知られてんの?そっちの方が軽くホラーなんだが。
軽く引きながら、かと言って黙って移動するのも気まずいので、業務用スマホをポチポチしてみる。臨波が歩きスマホに気づいたのか振り向いたが……怖ぇよ。後ろに目でも付いてんのか。
いや、たしか臨波は『不適合性』が『千里眼』だったっけ?なんでも透けて見える、みたいな。
だから分かるのか、納得。
「歩きスマホは行儀悪いし危ないから止めて」
「危なくない。いざとなったら分かるしな」
「はぁ?」
「まあ、行儀悪いのは確かだが。調べ物があるんだ」
「歩きながらしなきゃいけないほど急ぎなわけ?」
「急ぎも急ぎ。なんでオレの『適正テスト』結果が広まってんのかっていう。一般公開でもされてんの?」
「別に。……連携するには必要な情報だからって、諜報部長から榛原が貰ってきたのをボクも見たから。後でボクたちのも共有する。これで納得した?」
「へい、了解」
これで確信した。
榛原の奴。
絶対、わざと、オレの『不適合性』を共有してないな。
『不適合性』も連携には欠かせない情報だろう。諜報部長はそこも含めて榛原に伝えたはずだ。
なのに臨波は今も文句をブツブツと垂れている。そして榛原は愉快犯。東雲が天然なら榛原は養殖という言葉が適切な野次馬だ。そこから導き出される答えは一つだ。
臨波はまだオレに文句があるらしい。
「というか、ずっとヘッドホンしてるけど。まだ配信聞いてるの?仕事中くらい人の話をちゃんと聞いてくれない?」
「大丈夫、余裕で聞こえてるから。配信も終わってるし、何よりこのヘッドホンが無いとオレは頭痛と眩暈と吐き気で意識が飛ぶから勘弁してくれ」
「意味わかんない」
分かれよ。なんで分かんないんだよ。結構ヒント出しただろ。
アレだ。目に頼りすぎて、目で見えるもん全てを盲信して、ほかの五感から得られる情報をそんなに信用してないタイプだ。考察とかほぼしなそう。
やっぱめんどくせぇ。それでも監視官か?
監視官だったわ。
一周まわって、逆にオレが面倒な奴というパターンですねありがとうございます。
「お待たせ」
なんやかんや話している間に総司令室まで辿り着き、臨波が扉を開くと……そこは真っ白な空間だった。
カルピスソーダのペットボトルの山と、カルピスソーダを振ってロケットにしたのだろうと推測が出来るほどに床に散らばってる白い液体と同じく白い泡。
ついでに白い液体まみれのPCたち。
……あー。
お盆の時にコーラでPCが壊れたの思い出す。
あれからもう一ヶ月?時が経つの早えな。ニートだった時は一日すら長くて、無限な気がしてたのに。
じゃなくて。
「東雲と榛原。懲りずにまたやってたのか?」
「おー。黒ばっかりじゃ飽きるから、炭酸飲料ならなんでもいいと思って白にしてみた。これはこれで映えるよねー」
「ねー」
ねー、じゃねぇよ。機械壊れるだろ。
「……東雲。少しの間怒られておけば実質自由なのはそうかもしれないが、それはそれとして、ロケットは外でやった方が怒られる時間を短縮できてお得だぞ?」
「ながれ……っ!やっぱ天才だね!はいばら、今度から外でしよう!」
「……っ、いいぞー……、っ、」
笑いを抑えながら、榛原も同意した。
何笑とんねん。
ちなみに臨波は、まるで猿が流暢に言語を話したかのような顔をしている。
それはそれでそんなにか?
いや、確かに珍百景かもしれない。
クソ、否定できねぇ。
……うん?またブツブツと、口をパクパクさせてるな。
「……なるほど、東雲にはそういう言い聞かせ方の方が有効、か……」
感心すんな。さっきまでの嫌いオーラどこに行った。最初から取り繕えてないけど、せめてそこは維持してくれよ。
「あー、盟?」
「何?朔、何か言いたいことでもあんの?」
「そーだけど。ちょいと耳貸して」
榛原が臨波の肩を叩き、耳打ちを始めた。
オレの前で耳打ちは無意味なの榛原は知ってんだろ。何やってんだ。
……いや、オレをチラチラ見てる。確信犯だ。
知ってた。
「百夜の『不適合性』、知ってる?」
「……確かに、何も聞いてない。朔は知ってるの?」
「おー。今教えとくわ。アイツは……『聴覚過敏』、つまり常識外れの地獄耳だ」
「えっ、」
榛原がやっと教えたら、臨波はギギギ、と壊れたブリキのおもちゃみたいな動きでこちらへ顔を向けた。
「え、え?」
「つまり、盟。お前のいつもの癖の独り言も、丸聞こえで盗聴されまくりってこと」
「言い方ひでぇな。好きで盗聴してる訳じゃなくて、聞こえるんだから仕方ないだろ。地獄耳って付け足すな。『聴覚過敏』で統一してくれ」
オレの反応に臨波は、暫くローディング中みたいにフリーズして、「え、あ、つまり、」と口をパクパクさせた。
とりあえず、サムズアップしとくか。
東雲も隣でサムズアップしてる。意味わかってないだろうけど、まあいいや。
「オレはスパイじゃなくてマジモン、国産の天然記念物な一般通過ヒキニートだから安心してくれ。……ていうか、発想飛躍しすぎだろ。オレみたいなモヤシがスパイ出来るわけないない」
「……、……。……!〜〜〜ッ!!!」
オレの肯定がトドメになったらしく、臨波は顔を真っ赤にして榛原をぶん殴ったり蹴ったりしている。
一方榛原は微動だにせずただ受け止めながら、手を叩いて爆笑している。もはや笑い死にそう。
無敵かよ。『完全適応』チートすぎるだろ。
榛原、今からでもオレの『聴覚過敏』とお前の『完全適応』交換しない?
ダメ?知ってた。




