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報告書の完成度を諜報部長に褒められた後、数日。
『近接戦闘』と『戦闘支援』、『特殊工作』の特別特訓プログラムを受けつつ、監視官としての仕事を一通りやってみる、いわば実践研修を受けていた。
いきなりハードワークすぎだろ、と当初は思ったが、意外とスムーズに進んでる。オレ、社畜の適性あったのか……。
任務内容は大きく分類して5つある。
1つ目は『終了』。率直にいえば、指定された対象を処分すること。
東雲は近接戦闘最強格。タイマンなら負けないし、囲まれてもオレが敵の位置を知らせたり、装備品として支給された、サイレンサー付きの麻酔銃を使用することで不意を打たれることが無い。東雲にはうってつけの任務だな。
それに、殺しまでしなくていいらしい。社会人生命を絶って身動きを取れなくすれば充分だそうだ。
これならオレでもやりようはある。
弱みを握って、東雲に寝かしつけを頼んで、警察に突き出す。
そうすれば条件を満たせて任務達成だ。
「前に、殺しがどうしても負担な相方がいたのです。同じ轍を踏まないために、殺しの代替手段を選択できるようになりました」
とは御崎さんの言。御崎さんは何も言ってないが、多分御崎さんの功績だと思う。誰でもそう思う。
次に『護衛』。言葉の通り、要人を護衛するのだが……あまりそう言った依頼は来ないらしい。来ても全員で共同任務になるようだ。
そりゃそうか。一組だけに依頼して失敗した時のリスクは相当だろうし。
3つ目、『制圧』。敵勢力のアジトに潜入して、現場を落とせってことだな。これも東雲向きと言える。
ただ、オレが足手まといになりかねないから……はぁ。嫌だが、任務の幅を広げるために、基礎体力と護身術くらいは身につけるか。
東雲も時々は暴れたいだろ。
一方、とんでもなく不向きなのが『工作』。ものや情報を回収したり、指定の地点に配置したり、情報操作をしたりなど。
オレが単独で出張る方が成功率が高そうだ。東雲には護衛を任せるくらいになるか。
交渉も『工作』任務に含まれるらしい。コミュ障のオレには無理だな。
あと、現場の証拠隠滅。御崎さんがついてる執行官の苑生というのが率先して受けているようだ。
東雲曰く、「死体をモグモグしてくれるの!人のにくをよく食べてるよー」とのこと。カニバリズムか、それともそういう『不適合性』なのかは分からないが、オレから御崎さんに聞く勇気はない。
絶対本意じゃない気がするからな。
だから。
「だからね、ながれ。あたしたちも、おしごとで人の死体が出ちゃったら、そのちゃんにあげたらダイジョーブ!」
「……うん。オレたちはなるべく、死人を出さないやり方をしような。オレの精神衛生的な意味で」
うわぁ……と引いたオレは悪くない。
とりあえず東雲は一旦黙ってくれ。
最後に5つ目、『解決』。
要するに、事件を解決してこいってことだ。オレと東雲がテロリスト事件を解決したのもこれに該当する。
これの向き不向きは状況によって変わるが……まあ、あんな突発的に事件に巻き込まれることは少ないからな。下調べから始まることがほとんどだろうし、いざとなれば、途中まで調査してから、得意そうなバディに引き継ぎをすることもできる。
受けるだけ損はない。そんな任務だな。
そういう訳で、受領するのは大体『終了』『制圧』『解決』になる。
……だが、『終了』『制圧』は結構取れている反面、『解決』はなかなかめぼしいものが見つからない。どうしたものか。
まあ、見つからないものは仕方ない。今日も東雲が片付けてくれた『終了』任務の山の報告書を返すか。
1つ目。密輸人。取引の場所を耳にしたのでそこに潜入して取引の光景を撮影。東雲が奴を落として、写真と一緒に警察へ突き出した。薬物所持の罪状もそっと添えて。クスリよりシャバの空気の方がずっと美味いって知れてよかったな。
2つ目。ヤクザ。丁度別の組と喧嘩していたので、東雲に仲裁……というより両成敗してもらい、2つの組は仲良く牢獄入り。良かったな、和解出来て。ずっと仲良くしろよ。
3つ目。ストーカー。月羽雨とかいう『救』専属アイドルの同担拒否、強火担とかいう厄介な中年。
月羽雨をそもそも知らないんだが、アレか?一時期ネットを騒がせた、自称公式歌い手の亜種か?
よしんば本当に公式だとしても、オレは『しののん』の常連だから他のアイドルは推さないって決めてるんだ。
捕獲する時にそう話をしたところ、『テレビにいつも出ているあの月羽様を知らない……?』と銀河を背負ったような顔で硬直していた。
テレビか。『しののん』の声以外は聞いててしんどいから、付けないんだよなあ。
東雲達『害』と関わるようになって初めて知ったんだが、『不適合者』だけは比較的マシな模様。
マジで何でだ。オレは社不がお似合いってか。うるせえわ。
……と、まあ。
そんな調子で報告書を捌いていく。
当初は東雲の命令違反を心配されていたが、オレが監視官になってからは全然そう言った気配がないとザワつかれている。
主に諜報部長と御崎、ついでに榛原から。
「マジでどうやって躾けたの?スゲー」と榛原に感心された。オレが知りたい。
「盟も益々嫉妬するなー」
だからなんでだよ。勘弁してくれ。
……いや、それはどうでもいい。
そんなことより仕事仕事。
背後から見られてる気がするけど気のせい気のせい。オレは『しののん』の配信と仕事で忙しいからな。現実逃避しよう。
『しののん』が配信で今日の晩御飯の話をしているのを聞き流しつつ、但し時々『オレはハンバーグですね』などスパチャするのも忘れない。
そして『しののん』が「常連さん!いつもありがと〜♪ハンバーグ美味しいよね!」と返してくれる。
それを脳内再生余裕なレベルで頭に叩き込みながら、報告書を捌いていく。『しののん』の声はオレにとっては仕事を円滑に進めるバフのようなものだ。効率はダンチ。ノーライフノー『しののん』。
あっ、『しののん』が質問してる。答えとこ。
えー、案の定壁を破壊して部屋を合体させやがった東雲の分も含めて、『自分で作ります』っと。
『常連さん、お料理できるの?すご〜い!』
あー、耳がホワホワするんじゃ〜。
「ちょっと!仕事中に何見てるの!?」
「うおぉ!?うるさっ!」
突然背後から爆音で叱られ、思わず跳ね上がった。
なんなら椅子から飛び上がって尻餅をついた。
耳も頭も尻も痛ぇ。
後ろを振り向くと、仁王立ちする、少し年上の生真面目そうな女が、装着している目隠し越しでも分かる、というか貫通しそうなほどにキッとした、刃物のような目線を向けてそそり立っていた。
自己紹介されなくてもわかる。絶対、榛原や諜報部長が話していた先輩監視官の臨波だ。
「鈍臭。それで本当に東雲の監視官?仕事回ってないんじゃない?もしくはイカサマ?」
「……背後に立つまでは良しとして、いきなり大声で話しかけてくんな。鼓膜が破れるだろ」
「あっそう。大袈裟だね。ごめんあそばせ?」
「心にも思ってないだろ」
オレの言葉など何処吹く風、女は偉そうな、上から目線な態度で名乗った。
「ボク、臨波盟。元々は東雲の監視官をしていたんだ。今は榛原朔の監視官をしてるけどね。……宜しくするつもりは無いから」




