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おはようございます。
こんな感じで、投稿できるタイミングで投稿していきます。
ヘッドホンを外した瞬間、途端に至る所から『爆音』がオレの鼓膜をビリビリと揺らす。音の濁流に襲われ、耳鳴りがして、頭がズキズキと痛む。
だが、その代わりに、より広く音を拾える。近くの音はどんな些細な音も聞き逃さない。否、聞き逃せない。
隣町で若いサラリーマンが電話で取引先に謝る電話まで聞こえてくるとか、本当病気だよな。
うんざりするが、『不意打ち』のタイミングを図る為にはヘッドホンを外した方がいい。
数年前はしょっちゅう外してたな。何も考えたくなくて、音の濁流に敢えて溺れて意識を飛ばしたかった。
『しののん』の配信を見てからは、寝てる時間が勿体なくてそういうことをしなくなった。
だから、ヘッドホンを外すのは本当に久々なことだ。
昔の話は置いといて。
さて、どう不意打ちを仕掛けようか。
とりあえず武器は、……部屋にあったこれでいいか。
数年前に衝動買いした、ごく普通のカッター。
まさか今ここで、他人に向けるために使うとは夢にも思ってなかった。
不意をついて、背後から首に当てればなんとか……なるのか?ドアを吹っ飛ばせるくらいの馬鹿力がある奴に?
あれ?もしかして素直に土下座して命乞いした方がいいのか?
いや、どっちでも変わらない?
ええいままよ。結果がどう転ぶにしても、足掻いた方が死に様としてはマシだろ、多分。
次は作戦だが、既に思いついている。
最近掲示板で見かけたスレッドに『サイコパステスト』を見かけた気がする。
なんでも、強盗が押し入った時、サイコパスなら自分が有利なようにドアの裏に隠れるとかなんとか。
今がまさにそんな状況、スレ民どもを信じてみるしかないな。
そういう訳で。
足音を忍ばせてドアの裏に隠れ、チチチ、とカッターの刃先を出し、息を潜めて待つ。
階段を上がり終えた殺人鬼が、こちらの部屋まで近づいてくる。
そりゃそうだ。
『しののん』の配信は流しっぱなしだから、ドアを閉めきっていても微かに音が漏れてる筈。
それに、野生の勘とか本能とか、そういった第六感で気配を察知するほどの手練かもしれない。
足音がどんどん大きくなる。
緊張でオレの心臓までバクバクと煩くなる。
パソコンの稼働音、外の空気が流れる音、子供が小学校のプールで泳ぐ音、色んな人の足音や話し声、社会人が忙しなく、あくせくと働いている音もずっと爆音としてオレの聴覚に届く。
頭が痛い。頭が痛い。頭が痛い。頭が痛い。頭が痛い。頭が痛い。頭が痛い。頭が痛い。頭が痛い。頭が痛い。頭が痛い。頭が痛い。頭が痛い。頭が痛い。頭が痛い。
絶え間なく、頭が締め付けられるように痛む。
本当は、ヘッドホンを今すぐにでもつけたい。
だがそれは安全を確保してからだ。今は耐えるしか。
……足音が、止まった。
だが、荒事は素人のオレでも分かる。
確実に、奴は今、オレの部屋のすぐ前にいる。
『こことかどうかな?誰かいそう』
奴は扉の向こうでそう独り言ちる。
トランシーバーがジジ、と音を立てる。
『また吹っ飛ばすつもり?』
『そうだよ?そっちの方が楽じゃん』
『楽って、貴女ねえ。少しくらい自重してよ。既に騒音で警察に何件か通報来てるじゃない。来なくていいって説明するの大変なんだから』
だから警察来ないのかよ、ファック。
今壁越しに知らされる衝撃の真実に、思わず小言が漏れた。
警察を呼んで助けを待つのは最初から無茶だったらしい。
そして警察にそんな説明できるとは、とんでもない奴らだ。
そしてオレはどうして、そんな権力を持ってる連中に狙われているのか。
ヒキニートは生きてるだけでお荷物ですってか、ははは。笑えないが。
『という訳で、どーん!』
頭痛と警察の無能さと相手の強大さに思わず顔を顰める。
冷や汗が滲む。
だが、どうも奴は待ってはくれないらしい。
そんな間抜けな掛け声と共にドアは簡単に蹴飛ばされて奥の壁にめり込んだ。
耳元で爆音がなった事で頭痛が激しくなる。眩暈までしてきた。
「あれ?誰もいない?」
キョロキョロと視線を右往左往させる奴はバズーカ並にデカイ銃を片手で担ぎ上げている。
中学を卒業したかどうかも怪しい年代の、黒い髪にピンクのインナーカラーで、背中あたりまで伸ばした少女。
ゴリラみたいな体型どころかその辺の女子中学生くらいにヒョロヒョロしてるのに、どっからそんな馬鹿力が出てるんだ?
それだけじゃない。
扉越しではなくちゃんと同じ部屋で声を聞いてみると、『しののん』ほどでは無いが中々『ノイズ』が少ない。
なんでだ?
いや、観察してる場合じゃない。
不意打ちには絶好のチャンスだ。
オレはすうっと息を吸って、吐いて、カッターを握り締めて……いざ、覚悟。
一歩踏み出したその瞬間。
ーーー何もない床で躓いて転んだ。
さっきの不意打ち作戦は我ながら穴だらけだが、まだ欠陥があった。
高校中退から今までの二年間、全く運動してないヒキニート。
尚、高校中退までは不登校か帰宅部一筋だったとする。
その運動神経の劣化具合を全然考えてなかった……!
それだけでも火が出るほど恥ずかしいのに、よりによってコイツはオレが転んだ音で漸く気づいたらしく、オレの方を振り返る。
そのせいで派手に転ぶなんてド間抜けな姿をガッツリ見られてしまった。
痛い。恥ずかしい。穴があったら入りたい。
多分間もなく墓穴に入ることになるけどな!クソッタレ。
本当に、普通じゃない耳をもって生まれてから今日死ぬまでどうしようもない奴だな、オレは。
「つんつん、つんつん」
少女は、頭痛と恥ずかしさで床に突っ伏したままのオレを指で突く。
「やめろよ」
「あ、生きてた」
このままだと一生ツンツンされそうなので、なんとか起き上がる。
あー、マジで頭痛い。恥ずかしい。寝たい。横になりたい。生き恥が過ぎる。
いっそ突っ伏した状態で撃ってくれりゃそのまま寝れたのに。まったく、コイツは。
そう毒づきながら、少女を見る。
不意打ちは失敗。失敗も失敗、大失敗だ。
ならせめて、オレを殺すやつの顔くらい拝んだって減るもんもないだろうという、もはやそれは達観だった。
最後は一思いに殺しやすいように棒立ちしてみた。
少女は全然微動だにしない。
フリーズでもしたのか、お前は。
多分逃げるチャンスなんだろうが、逃げたところでこいつの後釜に追われて殺されるのが目に見えているので、大人しく待つ。
少女はずっと、桃味の飴玉みたいな、しかし暗く澱んでいるその両目を壊れた人形みたいにぽっかり開けて、オレをただじっと見つめている。
標的ごときに随分とご執心だな。『本命』とやらを殺せるのがそんなに感慨深いのか。
オレとしては、さくっと殺してさっきの光景は是非とも忘れて欲しいが。
そう思うのも束の間。
オレを見る少女の瞳は段々と、星の如く澄んでいって、軈て微塵の濁りも見えなくなり、視線の温度も熱を増した。
なんだこいつ。
今からぐちゃぐちゃにして愛するってか?尊厳破壊も勘弁してくれ。
「ねえ、ふうちゃん。『本命』見つけたよ」
少女がやっと声を発した。
やっぱりノイズは家族やクラスメイト、今まで会った全ての赤の他人と比べると全然少なかった。
トランシーバーから声がする。
『あら、そう。良かったわ。『耳が良い』から今までの騒ぎで逃げ出してるかと思ってたけど、居残ってくれたみたいで運が良かったじゃない』
割と切実に音を気にしていたらしい。
あー、うん。警察とどういう繋がりなのかは知らないけど、揉み消しに苦労しそうだな。オレの殺しの揉み消しもせいぜい頑張れよ。
『あとふうちゃんじゃなくて『諜報部長』ね』とトランシーバーの声は付け加え、更に続けた。
『それで?もう終了させた?』
「いや」
『ふーん、珍しい。じゃあ、さっさと仕事を終わらせ』
「いやだ」
……、……。
……???
一瞬、その場の空気が凍った。
ついでにオレは意味がわからなくてフリーズした。
『いや、この男をぐっちょんぐっちょんのぎったんぎったんにぶち殺してくれるだけでいいのだけれど』
「いやだ」
??????
『え、なんで?』
トランシーバーの向こうが困惑したように声を震わせる。
そうだよな。『ぐちゃぐちゃにして愛してあげるもん』とかなんとか言ってた奴が命令拒否って意味わかんないよな。分かる、分かるぞ『諜報部長』とやらよ。オレも意味わからない。
少女はその質問に、こう答えた。
「カッコイイから」
「え、なんで???」
今度はこっちがそう漏らす番だった。
いや、コイツが部屋に入ってから今まで、一度もかっこいいところなかっただろ。むしろクソダサかったし、そもそも初めましてだぞ。
あんなズッコケてるだけの場面を見て一目惚れとか無い無い。
「ねーねーふうちゃん。めーれーとか無視しようよー。あたし、この人殺したくない。ぐちゃぐちゃもいやだ」
『出来るか!私ら二人とも飛ぶわよ!?クビが!物理的に!』
「えっ、しっこー部長と戦ってぐちゃぐちゃにできるの!?」
『喜ぶなあああああああ!?』
なんだコイツら。
収拾がつかなくなりつつある状況。
それがあまりに気が抜ける光景で……、
……。
あー。
まあ、取り敢えず。
「頭、痛ぇ……」
限界に達して、オレは意識をあっけなく飛ばした。
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