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静寂のトリガー  作者: 桜油
2章
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17/23

17

【悲報】万年ヒキニートのオレ、『害』に就職してしまう。


勢いでああは言ったものの、今更ながら仕事したくない。

そう思いつつ、「アジト、さっそく行ってみよー!」と東雲に引き摺られること十分。

そろそろ暑さで溶けそうと思っていた時、東雲が足を止めた。

嘘だろ。もう着いたのかよ。近すぎだろ。

いや、信号待ちか、もしくは迎えの車が出ているとかだな。そうだろう。寧ろそうであってくれ。こんな物騒な組織が徒歩十分圏内にいたと思いたくない。


「じゃーん!ここが『害』アジトだよっ!」

「ジーザス!」


思わず頭を抱えながら、東雲が指す方向へ視線を向ける。

一見すると、それは七階建てのビルだった。

真っ白な塗装に『天栄製薬』『天栄食品』『天栄製菓』などの会社名が並んで、テナントを使用しているかのように主張している。

国内一、世界でも有数の大財閥、天栄グループ系列の会社が、いくら都心に近いといえど、こんなチンケな街でテナントを借りる必要はない。恐らくダミーだろう。

ただ、だからこそ、会社の名前をダミーとして借りられるということが恐ろしいのだが……天栄グループは『救』のスポンサーだ。『救』直属の『害』にとっては天栄グループから名前を借りる方がやりやすいのかもしれない。


……本当、オレ、とんでもない所に入ったな。

ヒキニートが公務員になるなんて、誰が信じるのか。

コネ就職もいいところだな。


「ちなみに、今日からここがながれのお家だよ」

「嘘だろお前」


サイフとスマホだけでいいって何だったんだよ。寮生活とか初耳なんだが。

……まあ、大して服も金も、なんなら荷物もゲーム機くらいしかない。後で回収しよう。東雲に引きずってもらう必要はあるが、仕方ないか。


「来たわね」


オレ達の正面に、薄紫の癖っ毛の女が、腕を組んで立ち塞がった。

この声、もしや。


「あっ、ふうちゃん!ただいま!」

「ふうちゃんじゃなくて諜報部長ね」


手を振った東雲に常套句で返した諜報部長は、オレと目が合うとキッ!と睨みつけた。


「正直に言うわ。私は貴方を歓迎しない」

「おお」


奇遇だな。オレも働くのはごめんなんだ。

マジで帰りてぇ。クビにしてくれたら諸手を挙げて喜ぶのに。


「はぁ……上の意向はアンタを終了させるの一択なのに、陣代も御崎も意味がわからないわ……」

「だよな。オレも意味がわからない」

「誰のせいだと思ってるの。元はと言えば、アンタがこの狂犬を従えちゃったからじゃない。まさか飼い主の私が手を噛まれるとは、想定外よ」

「それを言うなら最初から想定外だろ。なんだよ、カッコイイからオレを殺したくないって。何回考えても分かんねえよ。そこから既に意味不明だろ」

「……たしかに」


諜報部長はそう言うと深くため息をついた。酷くお疲れのようだな。そりゃそうか。


「まあいいわ。この狂犬の面倒を見てくれるなら、私の負担も減って大万歳。精々頑張ってね」

「既に引き摺られてるから多分無理だぞ」

「それで、」

「聞けよ」


オレの訴え虚しく、諜報部長は話し始めた。


「何も、私は貴方を出迎える為だけに出てくるほど暇じゃないの。東雲のナビゲートじゃ不安も残るでしょ。案内するから、ついてきなさい」


なるほど。道案内役か。

確かに、『害』内部についてはしっかり説明を聞いておきたい。お言葉に甘えて、オレは諜報部長の後をついていく。


「このビルだけど、『トリガー』に反応して開くシステムになっているわ。登録してない『トリガー』の持ち主が入ろうとしても、決して開かないの」

「おお」


高度なセキュリティシステムだな。

『トリガー』と個人を紐づけられるのは、国家権力の為せる業ということか。


「外部から人を招く場合は?」

「事前に『トリガー』を登録しておくか、インターホンを鳴らして合言葉と要件を言ってもらう形ね。貴方は前者に該当する」

「おい後者」


合言葉と要件とか、あまりにもアナログすぎるだろ。ハイテク要素はどこいった。

説明は続く。


「1階がインフォメーション、ラウンジ、2階が総司令室、3階がワークブースとトレーニングルーム。4階が生活共用スペースや娯楽室、5階が男性寮個室、6階が女性寮個室、7階が倉庫になっているわ」

「……東雲がオレの部屋に突撃する為に床をぶち抜いてくると思うが、大丈夫なのか?」

「大丈夫よ。そう思って、東雲の部屋は5階の貴方の部屋の隣にしたの。これなら、部屋を繋ぐために壁を一枚壊されるだけで済むわ」

「それはそれで別の問題があるだろ」


主にオレのプライバシーとか、東雲の貞操とか。

念の為に言っておくと、オレは『そういうこと』はする気はないが。

だって、いくら可愛くてもゴリラみたいな力だろ?何かの間違いで手を出しても秒殺される自信がある。

……ああ、だから『大丈夫』なのか……。

なんてこった。オレの基本的人権はおろか、プライバシーすら尊重されないらしい。


じゃあな、オレのプライバシー。『害』にいる限りは二度と拝めないだろう。

その代わり、またよろしくな、胃薬くん。


胃薬の購入を密かに決意しつつ、オレはその後も説明を受け続けた。


☆☆☆


やっと建物内部の道案内が終わった。

簡単にまとめると、2階の総司令室は共同任務やブリーフィングの時に使用し、普段の業務は3階ワークブースを使用するらしい。

あと、4階の主要な設備と5階の個室は無駄に快適だった。なんでだよ。もうちょっと牢獄とかをイメージしてたんだが。

7階は「基本立ち入り禁止よ。私か陣代しか入れないわ」とか言われるし。倉庫が倉庫になってないだろ。


あと、更に気になることがある。


「ここって、オレを含めても8人しかいないのか?それとも通勤している人もいるのか?」


さっきから、やたら人の物音が少ない。

そう思って尋ねると、「よく分かったわね。それともその耳なら余裕かしら。執行部長、私即ち諜報部長、監視官が貴方含めて3人と、執行官がそこの狂犬含めて3人の計8人が在籍人数よ」と返答された。

「それでいいのか国家権力」


少なすぎだろ。絶対ブラックだ、違いない。


「仕方ないじゃない。『害』に加入する条件は『不適合性』がある事よ」

「なんでまた、そんなマイノリティだけ採用するんだ?」

「それは知らない。気にしたこともない。強いていえば、『不適合性』を持つ人達に居場所を与えている、若しくは『不適合性』を有効活用しているんじゃない?」

「はぁ。それで、仕事は回るのか」

「そこは大丈夫よ。御崎が何とかしてくれるから」

「またかよ」


三十徹のおじさん、マジで何者なんだ。

そして御崎という人だけが頼りか。やはりブラック、逃げたい。


「さて、案内も終わったから次は研修ね」

「何をするんだ?」

「とりあえず、加入してきた人には例外なく『適正テスト』を実施しているのだけど……貴方は除外でいいわ」

「おお」


『適正テスト』が何か分からないが、割愛してくれるなら助かる。面倒くさそうだからな。


「何で除外なんだ?」

「丁度いい試金石になる事件があったからよ。ほら、あのテロ事件。貴方が解決したって東雲から聞いたから……後でその報告書も、チュートリアルがてら提出してもらうわ。念頭に置いておくのよ」

「ゲェ……仕事したくないです、ふうちゃん!」

「ふうちゃんじゃなくて諜報部長。東雲に目をつけられたんだからサボれないわよ、観念なさい。ほら、結果渡すわよ」


半ば強引に紙を胸元に押し付けられたので見ると、通知表形式だった。


『百夜 流(所属……諜報部)

適正テスト結果

情報支援……S

近接戦闘……D

戦闘支援……B

特殊工作……B

精神衛生……C』


あれ?意外といい。ボロクソだと思ったんだが。


「その耳で索敵、敵勢力把握、地理把握、情報収集が容易。それに作戦も目を見張るものがある。だから、文句なしのS。逆に近接戦闘はダメダメね。あとで特殊特訓プログラムを組むわ」

「監視官配属なら近接戦闘とか要らないだろ?」

「要るわよ!一緒に現場に入ることだってあるんだから」

「お、おう」


たしかにテロ事件の時も、巻き込まれる形ではあるが現場に一緒にいたな。


「戦闘支援はB。東雲に守られっぱなしじゃなくて、自分なりに、素人なりに動いてたからそこを評価したわ。特殊工作はB。爆弾解除や敵勢力に成り代わった辺りよ。もう少し演技力とか特訓すればAも夢じゃないわね。精神衛生は……協調性のみ評価したけど、何故Cかは分かるでしょう?」

「まあ」


さっきまで死のうとしてたしな。東雲の乱入がなかったら、今頃永遠のヒキニートになっていたところだ。


「さてと。じゃ、これから研修ね。ワークブースに移動するわよ。貴方のワークブースの場所と端末のログイン方法から説明するわ」


そう言う諜報部長の後をまたついていった。

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