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「おっじゃまっしまーす!」
そう言いながら東雲が放送室の扉を蹴破る。
「がっ!?……っ、一体、何が、」
吹っ飛んだ扉に直撃したらしく、ベコベコになって倒れた扉の下から敵が出てきては銃を構えて乱射し始めた。
が、東雲は臆することなく、チャンバラを手に、敵の頭めがけて突貫する。敵の銃弾は、動揺もあるのか、東雲に掠ることもなく明後日の方向へ消えていく。
「ひ、ひぃ……っ、」
ついに眼前まで来てしまった東雲に、敵は怯えながらも懐からトランシーバーを取り出す。
助けを呼ぼうって魂胆だろう。賢い選択だな。
でも、東雲の前でそれは無理がある。
「しばらくおやすみ!」
「っ、……」
首にチャンバラを打った瞬間、敵は気絶した。
首に手刀を当てて気絶させるシーンが戦闘系のアニメで結構あるけど、リアルでそれを見ることになるとは。
……厳密には、オレは流れ弾を受けないために壁に隠れているから、見てるんじゃなくて『聞いた』だけだけど。
「さすがだな。あっさり制圧できた」
「でしょー?あたしにとってはよゆーだよ!」
ドヤ顔してみせる東雲の頭を軽く撫でてから、オレは倒れている敵の手元や懐を探る。
正直、東雲が戦闘で失敗するとは思っていない。
もちろん、戦闘のプロとかになると話は別だが……素人同然の集団にタイマンで戦闘を仕掛ける条件下なら、こいつに負けはないだろう。
そして東雲は『身体強化』の『不適合性』所有者。
だからこそこいつは『害』では『執行官』。
諜報部長も手に負えないとされているのは、強すぎて持て余しているのかもしれない。
そんなことを考えていると、無事にトランシーバーと銃を見つけた。
ピストルはオレの護身用だ。東雲に持たせるか一瞬悩んだが、こいつにはピストルが軽すぎてむしろ扱いに困るとみた。
オレにとっては充分重いけどな。
トランシーバーの方は、やり取りを聞いているだけでも情報源として有効だな。
ただ、テロリストHからの通信が一定時間ないと流石に怪しまれそうだ。
幸いここに監視カメラは無いから、すぐバレる心配はないが。
仕方ない。一か八か、少し芝居をするか。
口元に人差し指を当て、口をチャックにするような仕草をとる。
こうすれば東雲は静かにしていてくれるのだ。1ヶ月間でそう学んだ。
東雲が理解して口を噤んだのを確認し、オレはトランシーバーを起動する。
『どうした、H』
トランシーバーがジジ、とノイズを一瞬だけ鳴らし、ボスとやらの声がした。
オレはさっきのHとボスのやり取りを反芻して、口を開いた。
「おいおい、誰だよ人質逃がしたやつ。ここまで来やがったんだけど?」
『Aが言っていた『ジャンプして逃げた』輩のことだな。FとGからも報告を受けているが……聞いていなかったのか』
やべ。そりゃそうだよな、オレたちのことなんか情報共有はとっくにされてるよな。
ただ、怪訝に思われているが疑われていない。まだ挽回はきくか。
「あー。あれ?間抜けすぎて聞いてなかったわ。使えねーよな、AもFもGも」
『H、お前というやつは……、まあいい。それより、そこまで大言を吐くなら、相応の仕事をしたんだろうな』
「モチのロンよ。俺にかかればあんなガキ二人、余裕のヨッチャンってやつ。今は床と熱烈なキスをしてるぜ?物言わぬ屍らしくなあ」
『ふむ。……ならばよろしい。捜索命令を取り消しておこう。引き続き放送室を頼んだぞ』
「へいへい。ボスもしくじんなよ?これで雲行きが怪しくなるなら、手が滑っちまうかもしれねーからな」
『言われるまでもない』
雑に通信が切れたのを確認し、息をついた。
心にも思ってないことをポンポンというのは疲れる。
というか、声マネとか微塵もしてないんだが……意外とバレなかったな。
仲間同士で関わりが薄いのか?
まあいい。上手くいってくれたおかげで、しばらくオレたち二人を探し回ろうとはしなくなるから動きやすくなるはず。
監視カメラは避けられないが……まあ、監視カメラの作動音も分かるから、それも意識して動けばいいか。
これからもトランシーバーは持ち歩き、必要に応じて対応しておこう。
6階でやりたいことはほぼ終わった。
そして、爆弾解除の前準備もこれで終わりだ。
つまり。
オレはヘッドホンを片耳だけ外し、少し集中する。
……1個目は多目的トイレ付近だな。
「どうするー?」
まるで遊園地で次のアトラクションを決めかねている子どものような顔で、東雲が次を催促する。
「そうだなぁ」と相槌を打ちながら、今度は監視カメラの作動音を集中して聞き取る。
……あっちなら監視カメラが少なくて死角も多そうだ。
「こっちから行こうか」
「わかったー」
オレがヘッドホンを外しっぱなしなのを見てか、東雲は先導することなく、オレの傍から離れずにひょこひょこ着いてくる。
オレのペースに合わせた方が良いとこいつなりに判断したのか、ただ単にオレが倒れないか心配しているのか。
どちらにせよ、ありがたいな。
そんな感じで、時々立ち止まり、時々ダッシュして、多少遠回りにこそなったものの監視カメラを上手い具合に避けていくこと五分。
多目的トイレ前にやっと辿り着いた。
とりあえず追手が来ている様子はない。
監視カメラも無事に回避できたようで、時折聞こえるトランシーバーの会話は変わりない。4階が制圧されたということくらいか。
……急がないとな。テロリストはなるべく各個撃破したいのに、このままじゃ1階で4人も相手する羽目になる。
幸い、6階担当と思しきテロリストGは多目的トイレには不在だ。ここからは対角線上の位置にいることが足音からわかる。割と遠いな。
しめしめ。今のうちに爆弾処理を済ませてしまおう。
「ここで何するの?」
「爆弾処理だ。各階に1個ずつ爆弾があるから、それを解体するぞ」
「そーなんだ。ながれならきっと出来るけど、ダメだったら教えてね。窓から全力で投げるから」
「……そうなったら昼間に花火が上がるなあ」
確かにそういう解決法もあるにはあるが……無関係の人もいる所の上空に爆弾を投げるのはなるべく避けたいところだ。
ただ、それはそれ、これはこれ。
東雲がそう言ってくれるなら、オレも安心して生まれて初めての爆弾処理に臨めるというものだ。
「まあ、いざとなったら頼むな。それまでは見張りをしててくれ。敵が来たらぶっ飛ばしていいから」
「おっけー」
「ただ、ここからあまり離れないでくれ。この辺は良いが、廊下に出たら監視カメラにすぐ映る」
「りょーかいだよっ」
そう言って東雲がオレに背を向けて、多目的トイレの入口に仁王立ちする。
それを見届けて、オレは爆弾のある多目的トイレへと足を踏み入れた。




