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静寂のトリガー  作者: 桜油
1章
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10/25

10

「ふーんふーんふふ〜……あっ、ながれ!」


オレの姿を見つけてぶんぶんと腕を振る東雲に、オレは軽く手を挙げ応えつつ近くまで駆け寄る。


東雲の鼻歌のおかげで、あっさり合流できた。

上機嫌なおかげで助かった。一応心臓の鼓動音とか、オレや望愛は『ノイズ』が小さいことを利用すれば合流は可能だが、鼻歌の方が聞き取りやすく、負担が少ない。


「悪い。待たせたな」

「あたしは全然。それよりながれはだいじょーぶ?」


東雲が心配そうに眉を下げて尋ねてくる。


「まあな。目潰ししてきたから少しは動けないだろ」


オレの返事に、東雲はまるで戦隊モノを見ている子どものように目をキラキラとさせて、「おー!ながれ、かっくいー!」なんて、ふんすと鼻息を荒くした。


むず痒い。そんな大したことしてないのにな。


その視線が眩しくて、なんとはなしに目を逸らして頬を掻いた。

東雲は暫く「さすがながれ」とか色々言っていたが、オレを見ていて何を思ったか、「そういえば、」と話を切り替えた。


「6階までジャンプしたけど、この後はどーするの?」


……そういや、まだ何も説明してない。

とにかく6階に飛べとしか言ってなかったか。

軽く咳払いして、オレは説明を始めた。


「とりあえず、百貨店に行こう。たしか6階にあったと思うんだよな」

「百貨店?何か欲しいものがあるの?」

「ああ」


具体的には、工具をそこで入手したい。

爆弾処理班を待ったところで、2時間なんてタイムリミットが短すぎて御陀仏だろう。

それよりはオレが解除した方がマシな結果になるだろ。


専門知識はないが、音を聞けばなんとか解除できるかもしれない。

最悪、今までのヒキニート生活で数多のゲームに触れてきたーーー当然その中に爆弾処理のゲームも含まれていたーーーその経験に縋るしかないな。


「おっけー。百貨店はどっち?」

「たしか……」


数年前までの記憶を手繰り寄せながら、道案内を始めた。

数年前に行ったっきりだったが……数年くらいじゃ大して変わらないらしい。念の為に看板も確認しながら、先導する東雲に道を教えていたが、記憶と大差がなかった。


勿論、東雲にいざと言う時の護衛を頼みつつ、時折ヘッドホンを片耳だけ外して警戒を怠らない。


「時々片耳外してるけど、頭が痛いのへーき?」

「ちょっとだけだから、問題ねえよ」


そんなやり取りもありつつ、誰にも見つかることなく無事に百貨店に辿り着く。

『百貨店としては万能すぎるぐらい何でもある』と耳にタコができそうなくらい聞かされてきた店だ。工具くらいあるだろ。

そう考えつつ探していると、無事に工具コーナーに辿り着く。とりあえず手当り次第に手に取り、鞄に詰め込んだ。こうしているとまるで万引き犯みたいだな。

ただ、金は無いし、非常事態だし、代わりに爆弾処理をしてやるから、それで勘弁な。


内心で店員さんに謝りながら工具を一通り揃えて、ふと東雲がどうしているかと気になって辺りを見渡す。


東雲は玩具コーナーで何やらはしゃいでいた。


……こいつを見てると、無事に爆弾が解除できるかとか、テロリストどもに見つかってしまわないかとか、それを気にしてる自分が馬鹿らしくなってくるな……。


「おい?」

「あっ、ながれ。用事終わったの?」

「終わったけど……」


今はそれどころじゃない、と言いかけて、ふと思いついた。


「BB弾じゃお前の強みを活かしきれない。チャンバラにしとけ。東雲が振り回してるだけで強いから」

「……、わかった!」


東雲はオレの言葉に一瞬ぽかんとしたが、破顔して頷き、チャンバラを手に取った。

怒られることをしている自覚はあったんだな、多分。

まあ、武器の回収もついでにやったと思えば悪いことじゃないな。怒るほどではない。

それに、この百貨店は本当になんでも取り扱っているらしい。幼馴染が太鼓判を押すわけだ。まさか液体窒素まであるとは、ここは本当に百貨店なのか?

爆弾は冷やしたらいいってネットに書いてあったからな。頼りにさせてもらおう。


「それで?ながれ、次はどーする?」

「ああ。次は放送室に行くぞ。あれも確か6階だったはずだ……えー、確かあっちだったか」

「ほーそーしつ?なんで?」


再度記憶を掘り返していると、東雲が不思議そうに首を傾げる。

うーむ、これは聞いた情報を共有した方が説明しやすいな。


「小耳に挟んだことだが、どうやら敵は9人いるらしい。各階に1人ずつ、恐らく人質回収目的で配置。広場にいた見張りで1人、ボスは……多分警備室か。監視カメラを見て全体を把握したいんじゃね。まあ、後でちゃんと音を聴けば位置は確定できるから置いとくぞ。あと、ほら、BGMとか流れてないだろ?だから放送室を占拠してる可能性があると思ったんだが……6階に来たことで確信できた。1人駐在してる」

「……、……」

「どうした?」


説明していると、東雲はあんぐりと口を開けていた。

早口過ぎたのか。

そう思い説明し直そうと口を開いた瞬間、「やっぱすごい」と東雲は笑った。


「『いざなみ』も似たことはできるんだ」

「『いざなみ』と言うと……なんでも透けて見える奴か。そりゃあこの位の情報は取れるだろ。オレよりきっと精度が良いな」

「確かにそーかもしれない。けど、ながれは『いざなみ』よりいっぱい敵のことが分かるよ?話してることを聞き取れるもん」


東雲は何故か躍起になって、腕をぶんぶん上下に振って、如何にオレの耳が凄いかを力説している。

凄い認めてくれてるところ悪いが、イマイチピンと来ないんだよな……。

だって、有効活用できたって、間に合わないことがあるじゃないか。

今はただ『間に合う』から行動してるだけでしかない。


そうだ。

大事なことに限って『間に合わない』んだよ。


オレが浮かない顔をしていて、東雲の熱弁も糠に釘だと思ったのか、「うー、」とこいつまで浮かない顔になる。

ただ、直ぐに「あっ、あとねあとね!」とまた腕をブンブンと振る。


「ながれと一緒にたたかうの、すっごい楽しいよ!」

「……そうか」


その言葉に、頻繁にここのショッピングモールに連れ回してくれた幼馴染……このヘッドホンの贈り主を思い出す。

彼奴も似たことを言ってたな。

『流くんと一緒にいるの、私は好きだよ』って。

家にいたいのに無理やり連れ出されたオレの機嫌を取るかのように雑で、でも心から言っていることは充分伝わるほどに間抜けな笑顔で。

お陰で今、店の地理が分かるから立ち回りやすくなっているのは皮肉だろうか。


ああ。本当に。

こういう奴といると、腐る暇もない。


「はあ……とにかく。放送室に行って、そいつを落とそう。トランシーバーとピストルをせしめるぞ」

「るーじゃー!」


溜息をついて説明を締め括ると、東雲はこれまたどこで覚えたのか綺麗な敬礼をしながら、チャンバラを手にまた先導し始めた。

それは助かるけど、『るーじゃー』って何だ『るーじゃー』って。


内心ツッコミつつ、歩を進めると順調に放送室に辿り着く。

前は物見遊山しすぎてはぐれた『彼奴』を拾うのによく寄ってたところだ。ここのモールは放送室が迷子センターも兼ねてたから、『彼奴』は決まってここでオレを待っていた。

迷子センターが今どうなっているかは知らないが、放送室には機材もそこそこあるし、そう易々と移動しないと楽観していたが……本当に変わってなくてよかった。

まあ、最悪、聞くのに集中すれば、呼吸音で特定した人の居場所からルートを逆算できるが。

耳は後で使うから、今はなるべく消耗したくない。


放送室前でヘッドホンを外し、聞き耳を立てる。

……周りに敵なし、室内は想定通り1人のみ。

トランシーバーで通信中のようだから、その通信が終わってから突入したいところだな。異変を察知されるにはまだ早い。


「東雲。予定通りここを制圧するが、ちょっと待ってくれ」

「おっけー」


小声でそんな会話をした後、オレ達はただじっと息を潜める。

すると放送室内から声がする。


「それにしてもボス。こんなに大々的に動いて、マジで俺ら無罪になるわけ?」

『なる。現に私は見た……白昼夢のような現実をな』

「それいつも言ってるけど、マジなの?白昼堂々と人を殺して、警察は動かない、マスコミも動かないなんてありえなくね?このご時世だよ?」

『見たものは見たのだ。私はそれを立証してみせる』

「立証もクソもねーわ。あんたの人殺しは散々騒がれてんじゃん」

『……』

「まーいーや。合法的に人を撃てるとかサイコーと思って参加したけど、雲行きが怪しくなるなら逃げればいいだけだし」


……聞けば聞くほどクソみたいな会話だな。

というか東雲。テロリストどものボスはお前の模倣犯で確定らしいぞ。そして諜報部長の予想も的中。

これほど的中して欲しくなかった予想、『アホみたいな犯行動機』もないけどな。

下っ端の方がまだマシと思いきや、そいつはそいつでサイコパスなことが分かったし。


通信が終わったことを確認すると、東雲はオレをチラ、チラと見てはソワソワして落ち着かない。

……そうだな。これだけ言っとくか。


「東雲。こいつらの為に手を汚す必要はないからな」

「なんで?」

「態々、クズと同じ土俵に上がらなくていいってことだよ。気絶させるくらいでいい」

「あたし、殺し屋だよ?」

「だから何だ。東雲はこいつみたいに無差別ってわけじゃないだろ」

「ほぇー」

「……あと、人が死ぬ音は聴きたくない」


東雲はオレの言葉に納得した様子で、「そーゆーことなら、おっけー!」とサムズアップした。

これで手加減してくれるな。良し。

オレはヘッドホンをつけ直し、目配せして合図する。


東雲にはそれで十分だった。

彼女はドアを蹴っ飛ばし、突撃していった。

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