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称号世界の混ざりモノ  作者: 浮谷柳太
第一章 田舎暮らしの幼少期
10/30

第10話 親バカ、ここに極まれり

「え、称号スキルを?」


 それはある日の昼食後のことだった。

 家族が揃っている時を見計らって、僕はステータスに起きた変化を告げた。


「あの騒ぎの後だと思う。称号は変わってなかったけど、いつの間にかスキルが増えてたんだ」


 言う間でもなく騒ぎとは僕の誘拐未遂だ。一向に変わる兆しを見せない称号をどうにかしたいと思ったのが事の発端だが、思惑とは外れた形で変化が表れた。


「その<種族選択>? というスキルを、フィー君はまだ試していないのよね?」

「うん、まだ使ってないよ」

「そう。いい子ね、フィー君は」


 母さんに頭を撫でられた。面映(おもは)ゆくて首を縮めるが、母さんは満足のいくまで解放してくれなかった。


 手に入れたばかりのスキルを無断で勝手に試すのは危険だし、二人に悪いと思ったから、自分一人で試していないのは本当のことだ。

 それに手に入れたのは普通の一般スキルではない。未知の称号スキルなのだ。



 一般スキルが努力によって手に入れられるものなら、称号スキルは心のありようや状況によって変化するもの、と言えばいいだろうか。


 たとえば母さん。いかにも花を愛でて生きる優しそうな雰囲気をしていて、実際に優しいのだが、ステータスには<隠し身>や<透明化>などという用途に疑問を覚える称号スキルがある。

 これは父さんとの駈け落ちの際に、心から逃避行を成功させたいと願ったことにより、称号の変化を伴って得たものだという。

 そして今もその願いは消えておらず、スキルはステータスに残り続けている。


 また父さんも、以前は強さを追い求めて修行を重ねてきたらしい。強さへの渇望は称号となって表れ、結果として戦闘寄りの称号スキルをたくさん持っていたという。

 まあ、称号含め多くは母さんを連れ去った時にあっさりと変わってしまったそうだが。<刹那>、<背水>はその際に手に入ったのだとか。


 言い換えればこの世界では、それがまさしく真実の願いでさえあるならば、願ったスキルを手に入れられるともいえる。もちろん、称号を変えるほどの強さでなければならないが。

 これはそう簡単なことではない。なぜなら称号はその人の本質を表す名前であって、人の本質はそうそう変わるものではないからだ。

 

 僕が混血であって、日本人の魂を持っていることは紛れもなくフィージル=バラメントという人間の本質であって、それを上回るほど強い願いなんて、それこそ死の間際でもなければ抱くまい。

 称号は行動によっても変化するが、人の本質を変えるほどとなると、なにかしら偉業でも打ち立てるくらいでないといけない。そこに至るまでは結局心が大切なのだから、言っていることは大差ない。



 つまりは、まあ、僕が真っ当に称号を変えるのはかなり難しいということだ。

 それでも称号スキルが表れたということは、先の事件が僕の心に与えた影響はそこそこ大きいということだろう。


「うーん……当たり前かもしれないが、聞いたことのないスキルだな。名前の通りなら種族を選べるってことか?」

「フィージル、詳しい説明を教えてくれるか?」

「わかった」


 頭を悩ませる父さんと母さんに触れて、僕は脳裏にステータスを呼び出した。

 そこから<種族選択>スキルをピックアップする。



==================



『歪な混ざりモノ』

 個体名:フィージル=バラメント

 種族 :混血種

 スキル:一般

     <演技><高速思考><家事><見切り>

     称号

     <種族選択>

     特殊

     <冥界神の加護>



==================



==================


<種族選択>

 混じり混ざった種族的要素を選択的に分別し、それを基に体を再構築する。

 ただし真の姿は混血種のそれとする。


==================



「分かりにくい言い方をしているが……好きな種族を選んでその姿に変身できる、という解釈でいいのか?」

「私もあなたと同じ考えだわ」


 口には出さないが僕も同じ解釈だ。時間制限はあるみたいだけど、特に危険もなく別の種族に姿を変えられるのだと思われる。

 といっても、説明の最初からは僕の中に含まれている種族しか選ぶことができないみたいだけど。つまりは白狼の獣人種か、妖精種だ。


 これが僕の心を強く反映して出現したスキル。自覚はなかったけど、僕は心のどこかで強くこうした能力がほしいと思っていたのだろうか。


「危ないものではなさそうね。今使ってみてもいいと思うけど……あなたはどう思う?」

「ああ、いいだろう。フィージル、そのスキル、使ってみてくれないか?」

「うん!」


 是非もない。僕自身、早く使ってみたいと思っていた。

 僕はスキルに、そして自分の体に強く意識を向けた。イメージは、強くたくましい白狼の体。


「お、おおお……」


 少しだけ体が大きくなっていく感覚。それに加え、全身からふさふさとした毛が生えてきた。側頭のとがった耳は引っ込み、口が大きく裂けて狼面へと変化していく。

 その変化が終わると、僕はぴっちりとした服を着た白狼の子供になっていた。


 ぺたぺたと全身を触ってその感触を確かめる。父さんのような長い体毛に尖った爪や牙。


「すごい、本当に変わってる」


 自分のやったことながら、驚きを隠せない。

 だが、それ以上に父さんと母さんは目を見張って驚いていた。


 強い視線を受けつつも、服が小さく体が窮屈だったためすぐに元に戻った。まるでスイッチを切り替えるかのような簡単さだった。


「じゃあ次は……!」


 高揚感を抑えきれない僕はもう一度<種族選択>を使用した。

 次にイメージしたのは妖精種の姿だ。


「おおお!」


 今度は逆に体が一回り小さくなったようだった。頭の上の獣耳と尻尾は引っ込み、まんま人間の子供のような姿を形作る。

 白さの目立つ両手の肌を眺め、その手を頭の横に持っていくと、特徴的な耳に触れることができた。


「これ、面白い。体の大きさまで変わるんだ!」


 このサイズ変更は何かに使えそうだ。これがあれば人攫いに捕まった時も体を小さくして縄から抜け出せたかもしれない。


 僕は少しぶかぶかした服を引きずりながら飛んだり跳ねたりしてみる。やはり身体能力は実感できるレベルで低下していた。

 この姿なら魔法を使えるのだろうか。試すのは母さんに話した後だが、実に夢が広がる話だ。


 ちなみにこの状態でステータスを見ると、きちんと種族の欄が妖精種に変わっていた。どうやら<種族変更>を使うたびにその都度変更されるらしい。


「フィー君……」


 スキルのことで頭がいっぱいになっていた僕は、目の前でゆらりと動いた存在に気づかなかった。


「もうフィー君、かわいすぎ!」

「うわっ!?」


 母さんだ。その不意を突いた接近に僕はあっさりと拘束されてしまった。

 っていうか、あれ……抜け出せない……!? 身動きも取れないし!? 母さん、どれだけ力込めてるんだ!?


 ……いや、違う。僕の体が小さくなったことですっぽりと母さんの腕の中に納まっている上に、僕の筋力が大幅に落ちたんだ。

 妖精種の身体能力はかなり低いと聞いていたけど、ここまでだったとは。獣人種の血があったからこそ、僕は前世の子供時代のように違和感なく生活できていたんだ。


「ふふふ……いつものフィー君ももちろんかわいいけど、こんな小さくなっちゃったら我慢できるわけないわ。妖精種のフィー君とお花畑でお散歩……うふふふふ」


 だ、だめだ、母さんがおかしくなった。僕のことに関してはよくあることだけど、ここまでおかしくなるのは初めてだ。


 そうだ、こんなときこそ種族を変えればいいんだ。母さんのホールドから抜け出すためには、妖精種の姿じゃ太刀打ちできない。

 それにこの姿でおかしくなったのなら、別の姿になれば……!


「よしっ……」

「あら、あらあら?」


 種族を変更。妖精種から獣人種へ。

 これで母さんは解放してくれるか、あるいは自分の力で抜け出せ……あ、あれ?


「も、もふもふふさふさのフィー君、かわいい! 草原で追いかけっこ! 川遊び! うふ、うふふふ」


 ダメだ! 全く変わってない! むしろひどくなってる!

 しかも、巧みに腕を入れられて抜け出せない。なんという拘束術……!


「父さん、助け……!」


 僕は父さんに助けを求めた。頼りにできるのは父さんだけだ。


「フィージル……立派な白狼になったな……」


 が、しかし。父さんは一人腕を組んで感慨深げに涙を滲ませていた。

 母さんのこの異常な様子を見ているはずなのに、何も反応がないことを疑問に思っていたけど。息子が自分と同じ種族の姿になったことで感動してたんかい!


 僕に味方はいなかった。


 父さんが現実に復活し、母さんが正気を取り戻すまで、僕は抵抗空しく撫でられたりもふられたりされ続けるのだった。




♢ ♢ ♢




「ふう、ひどい目に遭った」


 あのあと、暴走した二人からひとしきり謝られた。

 親バカという言葉があるが、さすがにいきすぎな気がする。そりゃあ、冷めた過程なんかよりはよっぽどいいけれども。


 それはそれとして、今僕は珍しく家の中に一人でだった。

 父さんはばあちゃんのところに行っており、母さんは菜園を見ているはずだ。菜園は母さんのスキル、<祝福の花園>によって精霊の過ごしやすい環境に作り変えられている。そのため僕が近づくことは決してできない。

 それゆえに、今の状況だ。


 とはいえ僕が家の外に一歩でも出ようものなら、すぐにでも母さんに察知されるに違いない。

 まだ僕が1人で森へ向かってから日が経っていないので、警戒心は抜けていないのだろう。

 もちろん勝手に家を出るようなことをするつもりはない。でも、僕はこの時をずっと待っていた。


「ふぅ……」


 大きく息を吐く。これからすることに危険はないと思うが、それでも家族には見られたくない。いや、見せてはならないという思いすらあった。


 実際にできるとは思っていない。ただ、僕だけが知る転生という事情を考えると、<種族選択>スキルに関してもしかしたらと思うことがあるのだ。

 できないならそれでいい。でも、できたとしたら。

 すでに納得をしたはずのあれこれが甦ってしまいそうで怖かった。


 意を決して混血種の姿から<種族変更>を発動する。


 思い描くのは遥か彼方の記憶にある姿。もう薄れかけているとはいえ、この体よりも長い時を過ごした体だ。


 そうして変化後、身長や体型は変わっていないが、明らか過ぎる変貌を自覚した僕は、半ば分かっていながらもステータスを開いて確認をする。






==================



『歪な混ざりモノ』

 個体名:高本壮也

 種族 :異世界人(日本人)

 スキル:一般

     <演技><高速思考><家事><見切り>

     称号

     <種族選択>

     特殊

     <冥界神の加護>



==================





 それはすでに消えてなくなったはずの、十七歳で階段から落ちて死んだはずの、前世の僕の七歳の姿だった。



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