第九話:拝啓、徳川家康様。完璧すぎる論功行賞と龍野への帰還
慶長五年(1600年)十月。広秀は小野木らわずかな供を連れ、徳川家康の待つ伏見城へと足を踏み入れていた。
史実において、ちょうどこの時期に「鳥取城下焼討ちの罪」を問われ、切腹を命じられていた運命の十月である。
(ゴクリ……。いくら報告書で完璧な予防線を張ったとはいえ、相手はあの天下のタヌキ・徳川家康公だ。油断すればどこで足をすくわれるか分からん……!)
広秀は喉の渇きを覚えながら、伏見城の大広間へと進んだ。平伏する広秀の左右には、他の大名たちもズラリと居並んでいる。その中には、どこか気まずそうに目を泳がせている亀井茲矩の姿もあった。
やがて、重厚な足音とともに、貫禄に満ちた徳川家康が大広間へ姿を現した。
「面を上げよ」
家康の重厚な声が響く。広秀がおそるおそる顔を上げると、家康はニヤリと悪戯っぽい笑みを浮かべ、広秀を指さした。
「赤松広秀! お主から届いたあの巨大な行李いっぱいの報告書、しかと読んだぞ! 弁明と証拠が過剰すぎて、途中で読むのが嫌になるほどであったわ! ガハハハ!」
大広間に家康の大爆笑が響き渡り、緊張の糸がふっと切れた。
「恐れ入ります! 家康公への忠義の姿勢を形にいたしましたところ、ついつい筆が走りすぎてしまいまして……!」
広秀がすかさず完璧なドヤ顔と礼を尽くすと、家康は表情を引き締め、頷いた。
「いや、見事であった。関ヶ原の本戦前より東軍への意を示し、但馬の西軍勢力を迅速に無血開城させ、さらには鳥取城攻めにおいて一筋の火も放たずに町を守り抜き、宮部家を降伏させた。戦後の治世まで見据えたその配慮、実に見事な働きである!」
家康は脇に控える本多正信から一巻の書状を受け取ると、高らかに読み上げた。
「赤松広秀! その抜群の戦功と、領民を慈しむ仁徳を称え……但馬竹田2万2千石より加増! 旧領である播磨龍野・10万石への転封を命ずる!」
「じゅ、10万石……っ!?」
広秀は思わず素の声を上げた。
2万2千石から一気に10万石への大昇格! しかも、羽柴秀吉の播磨征伐で奪われ、涙をのんで去った想い出の故郷・「龍野」への劇的な帰還である!
「か、感謝感激にございます家康公! 赤松家、子々孫々まで徳川家に忠誠を誓い続けまするーっ!」
広秀は畳に額をこすりつけ、心の中で「勝った! 完全大勝利だーっ!」と絶叫した。
一方、広秀の横で平伏していた亀井茲矩は、ガタガタと震えていた。史実では広秀を陥れて手柄を横取りするはずだったが、今や「完璧な聖人君子」として家康に絶賛される広秀の横で、何も手出しができなくなったのだ。
家康は茲矩にも視線を送り、ニヤリと笑った。
「亀井茲矩。お主も赤松と協力して鳥取城を落とし、誓約通り城下町を傷つけなかったこと、褒めて遣わすぞ」
「は、ははーっ! 恐れ入りまする……!(くそう、赤松の野郎、何から何まで先回りしやがって……!)」
茲矩は悔し涙を噛み殺しながら頭を下げた。
謁見が終わり、伏見城の廊下を歩く広秀の足取りは、まるで雲の上を歩いているかのように軽やかだった。
「殿! やりましたな! 10万石に加増になり旧領・龍野へ帰れるとは……! 夢のようです!」
小野木が感極まって涙を流している。
「ふふふ、見たか小野木。これが『ワシの生き残り戦略』よ! 10万石へ大加増。旧領・龍野に戻れる。嫌なタヌキ(亀井)の鼻もあかした! 完璧すぎる!」
広秀は腰の刀をポンと叩くと、西の空を見上げた。その先には、懐かしき播磨の山々と龍野城が待っている。
「さあ帰るぞ、我が故郷・龍野へ! ここからが本当の始まりだ!」
赤松広秀の波乱万丈な生存劇は、最高の形で完結編へと向かう!




