第八話:関ヶ原の本戦終了! 東軍大勝利と広秀の「ドヤ顔報告書」
「九月十五日、関ヶ原にて東軍大勝利!」の吉報が鳥取城下に駆け巡った瞬間、広秀は本丸の濡れ縁で「勝った……! 完璧に勝ったぞーッ!」と拳を突き上げた。
史実では、関ヶ原の大敗を知って恐慌状態になり、亀井茲矩の甘言に乗せられて鳥取城下を火の海にし、その濡れ衣を着せられて十月に腹を切る羽目になったのだ。
だが、広秀の目の前にあるのは、一筋の煙すら上がっていない美しき鳥取の城下町と、但馬・因幡を完全平定したという揺るぎない実績である。
「殿! 伏見の徳川内府(家康)様へお送りする報告書の準備が整いました!」
小野木が恭しく持ってきたのは、和紙を何十枚も繋ぎ合わせた巻き物……どころか、小さな行李にギッシリ詰まった「極大ボリュームの報告書」であった。
「よし、確認するぞ小野木。抜かりはないな?」
「ハッ! 目録を読み上げます!」
小野木は胸を張り、朗々と読み上げ始めた。
第一巻: 『関ヶ原以前より赤松家は終始一貫して東軍であった件』についての詳細な弁明および誓約書(※宇喜多家の姫との超高速・円満離縁証明書つき)。
第二巻: 『但馬国平定記録』。兵700+国人衆200にて八木城・豊岡城・出石城を無血開城せしめた実績(※爆音筒と案山子と宴会の詳細は「高度な兵法」として美化)。
第三巻: 『鳥取城攻略および城下町完全防衛記録』。火気厳禁を徹底し、建造物・民家への被害ゼロ、死傷者ゼロを達成した証明書(※鳥取城下の町名主全員による「赤松様は火を使いませんでした」という血判署名つき)。
第四巻: 『亀井茲矩殿との共同戦線における念書(写し)』。「火は使わない」と亀井が納得して署名した誓約書。
「素晴らしい……! 完璧だ! 鉄壁の証拠集だ!」
広秀はうっとりとその書類群を眺めた。
そこへ、浮かない顔をした亀井茲矩がトボトボと歩み寄ってきた。
「あ、赤松殿……伏見の家康様へのお届物ですか? 奇遇ですね、実は私も『赤松殿と共に鳥取城を落としました』という報告書を書いたのですが……なんだか私の報告書より箱が十倍くらい大きくありませんか?」
広秀はニタリと悪代官のような笑みを浮かべ、茲矩の肩を組んだ。
「亀井殿ぉ〜、報告書というのはね、『量と客観的証拠』が命なのですよ。あなたが家康公に『いや〜赤松がちょっと手違いで火をつけちゃいまして〜』なんて後から告げ口しようとしても、無駄です。なぜなら! 町民全員の署名と、あなた自身の『火を使わない誓約書』が揃って家康公に届くからです!」
「なっ……!? な、なにを仰るのですか! 私がそんな卑劣な告げ口をするわけがないでしょう!?(ゲシッ! なぜ私の企みがそこまで読まれているのだ……!?)」
茲矩は冷や汗をダラダラと流しながら、引きつった笑顔を浮かべるのが精一杯だった。
「さあ小野木! 早馬を飛ばせ! 誰よりも早く、家康公の手にこの行李を届けるのだ!」
「ははっ!」
飛脚は爆風のような勢いで伏見へと走り去った。
数日後。伏見城。
天下人となった徳川家康は、西軍の残党処理や論功行賞の書類の山を前にして、頭を抱えていた。
「うーむ、但馬や因幡のあたりの報告はどうなっておる? あのあたりの小大名どもは西軍についたり東軍に寝返ったりでややこしいのう……」
そこへ側近の本多正信が、巨大な行李を抱えて入ってきた。
「家康様、但馬竹田の赤松広秀より、膨大な成果物と報告書が届いております」
「ほう、赤松とな? あやつは確か宇喜多の親戚ではなかったか? 西軍についたのではないのか?」
家康が行李を開け、ぎっしり詰まった書状を検分し始めると、その表情は次第に驚きと感心へと変わっていった。
「な、なんだこれは……! 『我、関ヶ原の前より東軍なり』……? 宇喜多家の姫と即座に離縁した証文まであるぞ。さらに、但馬一国をわずか数千の兵(※実際は700+国人衆200)で無血平定し、鳥取城攻めでは城下町を一切傷つけずに宮部家を降伏させただと……!?」
本多正信も書類を覗き込み、感嘆の声を上げた。
「恐るべき手際の良さですな。町民の血判状まで揃っております。亀井殿からの連署もあり、一切の落ち度がございませぬ。他の寝返り組とは覚悟と準備が違いすぎますぞ」
家康は「ガハハ!」と大声を上げて笑い出した。
「面白い! 面白いぞ赤松広秀! 勝ち馬に乗る手際が良すぎるわ! 城下町を焼き払わずに穏便に治めたというのも気に入った。戦の後の領地経営が分かっておる男だ!」
伏見城で家康の評価が爆上がりしているとは露知らず、鳥取城で「これで腹を切らされずに済むかな……?」とドキドキしながら干し肉をかじる広秀であった。
いよいよ物語は、運命の謁見へと向かっていく!




