第七話:お腹が空いたら戦はできぬ。宮部家、降伏へのカウントダウン
「赤松殿……お願いだから、あの肉を焼く匂いだけはやめさせてくだされ! 城内の将兵が『匂いだけで飯が三杯食える』と涙を流して発狂し始めております!」
包囲から二週間。鳥取城の使者として広秀の本陣にやってきた宮部家の老臣は、やつれ果てた顔で平身低頭していた。
広秀の徹底した兵糧封鎖と、城外での「但馬牛&地酒大宴会」は、鳥取城内の士気を完全にゼロへと撃ち落としていた。歴史に名高いかつての「鳥取の飢え殺し」の恐怖が城内を支配する中、外からは楽しげな歌声と香ばしい肉の匂いが昼夜問わず、途切れず流れてくるのだ。精神が崩壊しない方が無理というものである。
「ふむ。ワシはな、別に命まで奪おうとは思っておらんのだよ」
広秀は扇子をパチリと閉じると、極上の笑顔を浮かべた。
「城を明け渡し、降伏すると誓うなら、今すぐその香ばしい肉と温かい米を城内に差し入れよう。もちろん、城下町には一火も放っておらん。民の暮らしもそのまま保証する。どうだ? 悪い話ではないだろう?」
「ほ、本当でございますか……!? 城下を焼き払うこともなく、命も助けていただけるのですか……!?」
「当たり前だ! ワシは文化と平和を愛する男・赤松広秀だぞ! 火をつけるなんて野蛮な真似をするのは、隣にいる亀井のハゲ……いや、亀井殿くらいなものだ!」
「私を巻き込まないでくだされーっ! 私は何も言っておりませぬ!」
横から青ざめた顔で割り込む亀井茲矩をスルーし、広秀は使者の手を固く握りしめた。
「さあ、城兵たちに温かい飯を食べさせてやりなさい。戦は終わりだ」
翌日。鳥取城の巨大な城門が重々しい音を立てて開いた。
出てきた宮部家の将兵たちは、赤松家が用意した大量の握り飯と料理に群がり、「赤松様は神だ!」「仏の再来だ!」と涙を流して感謝した。
史実では城下町が激しい火の海に包まれ、悲惨だった鳥取城攻略戦。
しかし今回は、「誰一人死なず、建物一つ焦げず、ただ城兵のお腹がいっぱいになって終わる」という、歴史上類を見ない超・平和的無血開城となったのである。
「殿! 宮部家、完全に降伏いたしました! 鳥取城の接収、完了です!」
小野木の報告を聞き、広秀は天を仰いで大爆笑した。
「勝った! 勝ったぞーっ! 炎上ゼロ! 犠牲ゼロ! 亀井のハナクソ……じゃなかった、亀井殿の冤罪工作も完璧に回避したぞーっ!」
「あ、あの……赤松殿? なぜ私をそんな嫌悪感に満ちた目で見つめるのですか……? 私はただ、一緒に鳥取城を落としただけなのですが……」
ひたすら困惑する亀井茲矩の背中を、広秀はバシバシと力任せに叩いた。
「ハハハ! 気にするな亀井殿! お主には感謝しているぞ! (※絶対に許してはいない)」
その時、美濃の関ヶ原方面から、伝令が風のように駆け込んできた。
「報せ! 報せーーっ! 9月15日、美濃国・関ヶ原にて大決戦が発生! 徳川内府様率いる東軍が、わずか半日で石田三成ら西軍を粉砕! 東軍の大勝利にございますーーっ!」
陣中に歓声が上がった。
広秀は不敵な笑みを浮かべ、懐から分厚い「ある書類」を取り出した。
「ふっ……来たか、この時が。小野木、すぐに飛脚を立てろ! 家康公のもとへ、ワシの『完璧すぎるドヤ顔実績報告書』を届けるのだ!」
関ヶ原の本戦終了と同時に、広秀の「天下分け目の成果物提出レース」が幕を開ける!




