第六話:鳥取城包囲網!「絶対に火は使うな!!」の厳命
「火気厳禁! 焚き火禁止! 禁を破った奴は即座に首を刎ねると思え! 鳥取の町を一筋の煙でも包んでみろ、ワシ自らがお前たちを八つ裂きにするぞーっ!」
慶長五年(1600年)九月。因幡国・鳥取城を包囲した陣中で、赤松広秀の怒号が響き渡っていた。
兵士たちは「殿はなぜそこまで火を恐れておられるのだ……?」と首を傾げ、隣陣の亀井茲矩にいたっては「あのお方は火の妖怪にでも取り憑かれているのでは……」と恐怖に震え上がっていた。
「赤松殿……落ち着いてくだされ。鳥取城は名城。1500の城兵が籠もっております。火も使わずにどうやって落とすおつもりか?」
冷や汗を拭いながら尋ねる茲矩に対し、広秀はドヤ顔で胸を張った。
「亀井殿、甘いな。城を落とすのに火など要らん。『宴会と精神攻撃』があれば十分だ!」
「えんかい……!?」
広秀の仕掛けた「絶対に火を使わない鳥取城攻略作戦」は、実にバカバカしくも苛烈を極めるものだった。
第一に、城下町の防衛である。広秀は赤松軍の半分を「消防隊」として編成。万が一、城内から火の手が上がったり、不審火が起きたりした瞬間に消火できるよう、水桶と濡れ筵を持たせて町中に配置した。
第二に、徹底的な兵糧攻め。鳥取城への補給路を完全に遮断し、兵糧の搬入を遮った。
そして第三に、前代未聞の「昼夜問わずの城外大宴会」である。
「野郎ども! 鳥取城の奴らに向けて、肉の焼ける美味い匂いと、楽しげな歌声を浴びせるのだ! 酒を飲め! 踊れーっ!」
広秀は城の目と鼻の先に大やぐらを組み、但馬から取り寄せた牛肉を(風下に配慮して煙を出さずに)じっくり蒸し焼きにし、酒を酌み交わしながら連日連夜の大どんちゃん騒ぎを繰り広げた。
城外からは楽しげな太鼓の音と、香ばしい牛肉の匂い。
一方、城内は補給を絶たれ、日ごとに米が減っていく絶望的な状況。
「くそっ……外の奴らは肉を食べて酒を飲んでいるというのに、なぜ我らは雑草をかじっているのだ……!」
「赤松の軍勢、羨ましすぎるだろ……」
城兵たちの士気は凄まじい勢いで削られていった。
「赤松殿……まさか『美味い匂い』で城兵の胃袋と精神を破壊するとは……何という恐ろしい男だ……」
茲矩は広秀の思いもよらない嫌がらせの才能に、ただただ舌を巻くばかりだった。
そんな中、広秀は本陣で秘かに「日誌」を書き綴っていた。
『本日、鳥取城下は快晴。我が軍による放火被害ゼロ。亀井殿も火をつけておりません。町民から『赤松様は優しい』と感謝の柿をもらいました。家康公、ワシは無実です』
「殿……その日記、毎日家康公への報告書と一緒に送るおつもりですか?」
呆れる小野木に、広秀はニヤリと笑った。
「当たり前だ! 証拠は多ければ多いほど良い! ワシの危機管理(危機回避)策は止まらんぞ!」
(そう、未来の『濡れ衣切腹』を完全に粉砕するまでな!)
絶対無傷で鳥取城を落とす――広秀の奇妙な執念が、城内の宮部軍をジワジワと追い詰めていくのであった。




