第四話:但馬最大の難敵・出石城! 小出6万石を騙し討ち(合法)
但馬平定の最終障壁、出石城。城主の小出吉政(6万石)は西軍に属し大坂城の警護などに赴いていたが、城には弟の小出秀家を筆頭に1800の精鋭がぎっしりと詰めていた。
2万2千石の赤松軍(700+国人衆200)に対し、出石城は二倍の兵力と堅牢な堀を誇る。ハッタリや偽手紙程度で落ちる相手ではない。
「殿、出石城は別格ですぞ。使者を出してハッタリをかまそうにも、小出の留守居は『赤松ごときが何をぬかすか、来られるものなら来てみよ』と鼻で笑っているそうですぞ」
小野木の報告に、広秀は腕を組んでニンマリと笑った。
「ふふふ……強気だなあ。だがな小野木、強い奴ほど『自分は騙されない』と信じ込んでいるから隙ができるのだ。今回は正面から攻めるフリをして……『西軍の味方』として城に入り込む!」
「はい!? 殿、何を言っておられるのです! 我らは東軍として立ち回っているのでは!?」
「バカ言え。『今だけ西軍のフリ』をするんだよ! 名付けて……大宴会乗っ取り作戦だ!」
翌日。広秀はわずか30名の供だけを連れ、丸腰に近い姿で出石城の目と鼻の先へ姿を現した。そして出石城へ一通の「悲痛な手紙」を送った。
『出石城代・小出秀家殿。実はワシも西軍として宇喜多家に味方したかったのだが、内府殿に大きな借財があり返済猶予と引き換えに内府殿の味方に付かざるを得なかったのじゃ。が、内心ではいつ西軍に攻められるのかと恐怖に震えておる! ついては同じ但馬国内の領主同士、手を取り合って今後の対策を練りたく、酒と肴を山ほど持参した! 共に大宴会を開き、団結を深めようではないか!』
出石城の小出秀家は、届いた大量の肉、酒、そして青ざめた顔で平身低頭する広秀(の演技)を見て高笑いした。
「ハハハ! あの赤松広秀め、八木や豊岡を落としたとイキっていたが、我が小出家の威光に怯えて命乞いに来たか! 良いだろう、城内へ入れよ!」
まんまと城内に招き入れられた広秀は、持ち込んだ極上の酒とごちそうを惜しみなく振る舞った。
「いやあ小出殿! 西軍の勝利は間違いなし! 乾杯しましょう! 飲んで飲んで!」
広秀は道化を演じ、自ら酌をして回り、小出家の重臣たちを片っ端から泥酔させていった。赤松側の供は酒が飲んでいるように見せかけて水を煽っていた。
宴が盛り上がり、小出秀家をはじめ重臣全員が「うい〜っ、赤松殿は良い奴じゃのお〜」と千鳥足で床にひっくり返った、その瞬間――。
広秀の目がキラーンと鋭く光った。
「……よし、今だ。縄を持ってこい」
「殿、本当に縛るのですか!?」
「当たり前だろ! 宴会で泥酔した重臣を全員縄でグルグル巻きにして、城主の間を占拠する! これぞ平和的(?)占領だ!」
泥酔して起き上がれない小出の重臣たちは、何が起きたかも分からぬまま全員芋虫のように縄で縛り上げられた。
広秀は即座に本丸の楼閣へ駆け上がり、城内に向かって叫んだ。
「出石城の兵ども、聞けーっ! 城代の小出秀家殿をはじめ重臣全員、我が赤松軍の手中に落ちた! 抵抗すればこの者たちの命はない! 降伏しろーっ!」
城内にいた1800の兵たちは絶句した。
まさか味方だと思って宴会を許した赤松広秀に、城代や重臣全員を人質に取られるなどという「前代未聞の乗っ取り作戦」をやられるとは夢にも思っていなかったのだ。
「ひ、ひでえ……悪鬼だ、赤松広秀は悪鬼だーっ!」
城代や重臣全員を盾に取られては戦いようがない。小出家は泣く泣く武器を捨て、出石城はあっけなく開城となった。
こうして、美濃国・関ヶ原の本戦が始まる前に、赤松広秀は「被害ゼロ・死傷者ゼロ・使った費用は酒・肴代と爆竹代のみ」という奇跡的な手腕で、但馬国全土(八木城・豊岡城・出石城)を完璧に平定してしまったのである。
城主の間で、縛られた小出秀家が涙目で睨みつけてきた。
「赤松……! お前のような卑怯者が徳川様に評価されると思うなよ! 武士の面汚しめ!」
広秀は扇子でパシッと己の膝を叩き、満面の笑みで言い放った。
「面汚しで結構! どんな卑怯な手でも使って生き残る! これで但馬は完全に我が東軍の手中に落ちたのだ!」
「殿! 大変です!」
そこへ、息を切らせた小野木が飛び込んできた。
「隣国・因幡の鹿野城主、亀井茲矩殿から使者が参りました! 『共に因幡の西軍・宮部家の鳥取城を攻めよう』との誘いにございます!」
広秀の笑顔が、一瞬で凍りついた。
(出たな……! 史実でワシに濡れ衣を着せて切腹させた、あのドス黒いタヌキ・亀井茲矩!!)
広秀はポキポキと指を鳴らし、悪代官のようなニヤリ顔を浮かべた。
「ふふふ……来たか亀井。二度目の人生、今度はお前の企みをすべて先回りして、コテンパンにしてやるから覚悟しろよ……!」
次なる舞台は因幡国・鳥取城。因縁のライバルとの爆笑頭脳戦が始まろうとしていた。




