第三話:豊岡城攻略! 嘘予告と偽文で翻弄される杉原家
八木城を「戦わずに音と煙だけで落とした」という快挙は、またたく間に但馬国中を駆け巡った。
「な、なんだと……!? あの赤松広秀が、徳川家康の秘密兵器を山ほど抱えて八木城を一夜で灰燼に帰した(※盛られた噂)だと!?」
豊岡城主の杉原長房(2万石)は、届いた報告書を握りつぶしながら青ざめていた。
杉原家は西軍に与しているが小勢力。城兵はわずか600である。八木城が呆気なく落ちた今、次の標的が自分たちであることは火を見るより明らかだった。
一方、八木城に入った広秀は、悠々と豪華な昼食を摂っていた。
「殿、豊岡城の杉原家は八木城の件で大混乱に陥っております。ですが、豊岡城は平山城で周囲の見晴らしが良く、八木城のような『背後の山から爆音を鳴らす作戦』は使えませぬぞ」
小野木が懸念を口にすると、広秀は干し肉を頬張りながら不敵にニヤリと笑った。
「小野木よ、同じ手を二度使うのは二流の策士だ。相手が『次は何の爆弾が飛んでくるのか』と怯えている時こそ、最も効く毒がある。……『偽情報』だ!」
「偽情報……?」
「嘘文だよ! 情報戦略というやつだ!」
広秀は筆を執ると、さらさらと流麗な筆致で何通もの手紙を書き始めた。
そこには、驚くべき内容が記されていた。
『美濃国・関ヶ原にて大決戦発生! 徳川家康公率いる東軍が大勝利! 石田三成は討ち取られ、西軍は跡形もなく壊滅した!』
「と、殿ーっ!? 両軍の大戦はまだ始まっておりませぬぞ!? これは何という大嘘ですか!」
「いいんだよ! どうせ来月の十五日には本当にそうなるんだから! 予言だよ予言! これぞ虚報大作戦だ!」
広秀の手腕はここからが本領発揮だった。
単に偽手紙を送るだけでなく、凝った小細工を仕掛けたのである。
第一に、わざと「徳川家からの極秘密書」を持った偽の飛脚を豊岡城の近くで走らせ、杉原方の物見(偵察)に捕まえさせた。飛脚は「頼む! これだけは奪わないでくれー!」と大迫力の演技で絶叫し、懐から『美濃国・関ヶ原で西軍壊滅! 東軍の但馬平定部隊(赤松軍)に補給命令』というニセ極秘文書を奪わせた。
第二に、周辺の国人衆や農民たちに小銭をバラ撒き、「美濃国・関ヶ原で東軍が勝ったらしいぞ」「赤松様の後ろには徳川の旗本5000がついているらしい」という噂を街中で大声で喋らせた。
そして第三に、豊岡城の目と鼻の先に「赤松軍の大陣営」を設営した。
ただし、本物の兵は700しかいない。そこで広秀は、竹林から大量の竹を切り出させ、兵士たちに「巨大な人間の形をした案山子」を大量に作らせた。
それに紙製の鎧を着せ、遠目からは1万を超える大軍がびっしりと布陣しているように見せかけたのである。
「ふはは! 見よ小野木! これぞ『ハリボテ兵1万の大陣』だ!」
「殿……私、殿の家臣であることが時々恐ろしくなります……」
豊岡城内。
「大変です! 捕らえた徳川の飛脚から恐ろしい密書が……! 美濃国・関ヶ原で西軍が壊滅いたしました!」
「な、なんだとッ!?」
「さらに城外をご覧ください! 赤松軍が……赤松軍が1万の兵で豊岡城を包囲しております! 地平線までぎっしりと甲冑を着た武者たちが……!」
楼閣から望遠で外を覗くと、確かに見渡す限りの赤松軍(※案山子)が蠢いていた。しかも、風に乗って流れてくる農民たちの噂話は「西軍壊滅」「家康公の怒り」「赤松は容赦無く叩き潰す」という絶望的な内容ばかり。
「だ、ダメだ……西軍が負けたのなら、我らがここで踏ん張っても意味がない……! 赤松に逆らえば、八木城のようにどんな恐ろしい目(※爆音)に遭わされるか分からん!」
完全に精神を折られた杉原家は、戦う前から白旗を上げた。
「赤松殿に伝えよ! 『城をお譲りしますので、どうか命だけは……!』とな!」
「殿! 豊岡城、無血開城いたしました!」
吉報を受けた広秀は、扇子をパンと叩いて大爆笑した。
「勝った! またしても戦わずに勝ったぞ! 兵の損害ゼロ! 矢の消費ゼロ! 使ったのは竹と藁とワシの嘘八百だけだ!」
「殿……凄まじい手腕ですが、これ、後で『美濃国・関ヶ原の戦いはまだ起きていなかった』とバレたら怒られませんか?」
「バカ言え、来月には本当に西軍が負けるんだから問題ない! ワシの予言が当たるだけよ! さあ、休んでいる暇はないぞ。残る但馬の大物は……最大にして最強の難敵、出石城の小出家(6万石)だ!」
広秀はニヤリと怪しい笑みを浮かべた。
「小出は6万石、兵力1800。流石にハッタリだけでは騙されん。……よし、次は『大宴会乗っ取り作戦』で行くぞ!」
赤松広秀の調子に乗りすぎた但馬制圧劇は、いよいよクライマックスへ向かう!




