第二話:但馬電撃戦開幕! 兵数700で挑む八木城・爆破(?)大作戦
「殿! 八木城には450の兵がおります! 我ら700(+国人衆200)の兵で力攻めなどすれば、城の頑強な縄張りに阻まれ、返り討ちにあいますぞ!」
竹田城の大広間にて、小野木が必死の形相で広秀に詰め寄っていた。
無理もない。兵数の上では勝っているとはいえ、城攻めは「3倍の兵力が必要」というのが戦国の常識である。
しかし、広秀はのんきに干し柿をかじりながらニヤリと不敵な笑みを浮かべた。
「小野木よ、頭を柔軟にしろ。正面から矢を射かけ合い、石を投げ合うのは脳みそまで筋肉でできた脳筋武者のやることだ。ワシらは『文化人』らしく、知恵とハッタリで勝つのだよ」
「は、はったり……?」
「そうだ。敵の守備兵450のうち、本当に死ぬ気で城を守ろうとしている奴が何人いると思う? 天下の大戦と言えど行方は誰も分からない。そんな状況で『死んでも城を守るぞ!』なんて思っている奴は10人に1人もいれば良いほうだ。残りの9割は『命さえ助かるなら良い。生き残りさえすれば何とかなる。』と思っている!」
広秀は干し柿の種をペッと吹き飛ばすと、机の上に一枚の地図を広げた。
「いいか、八木城の弱点は『夜間』と『音』だ。八木城は山城で音がよく響く。今夜、我が軍の精鋭(というか声を張れる声量自慢の足軽)50名を城の背後の山に潜ませる」
「背後の山に……? そこから夜襲をかけるのですか?」
「バカ言え、夜襲なんて危ない真似をするか。夜襲のフリをするのだ! 50名全員に爆竹……いや、大量の空き竹筒に硝薬を詰めた『爆音筒』と、巨大な和太鼓を持たせる。そして城の正面には、国人衆の200名を配置し、篝火を百本炊かせろ!」
広秀の作戦はこうだった。
第一段階(視覚効果): 正面の大軍に見せかけた篝火で、城兵の目を奪う。
第二段階(聴覚効果): 背後の山から爆音筒を爆発させまくり、和太鼓を連竹のごとく打ち鳴らし、「敵の大軍に裏をかかれた!」と錯覚させる。
第三段階(精神攻撃): 大声で「徳川内府殿の密命を受けている赤松家の軍勢である! 降伏すれば命は保証するが、抵抗すれば全員打ち首!」と叫び散らかす。
「これぞ名付けて……『爆音筒で恐慌大作戦』だ!」
「殿、妙な作戦名はおやめください! しかし……そんな子供騙しのような策で城が落ちますでしょうか?」
「落ちるね! なぜならワシが前世で……いや、昨日の夢で見たからだ! 人間、暗闇ででかい音が鳴ると思考が止まるものだよ!」
その夜。八木城。
別所家は、重苦しい空気の中で夜警を立たせていた。
美濃に集結していると聞く両軍の戦いがどうなっているのか、情報が交錯して何もわからない。不安が城内を包み込んでいた、まさにその時である。
ドドドドドドドドドンッ!!!
ドカーン! パラパラパラッ! ズドオオオン!!
「な、なんだ!? 何が起きた!?」
突如として八木城の背後、誰も登れないはずの険しい山から、耳をつんざくような爆音と雷鳴のような太鼓の音が響き渡った!
山全体が揺れているかのような錯覚に、城兵たちはパニックに陥った。
さらに、城の正面を見下ろせば、見渡す限りの松明と篝火! まるで1万の大軍が城を包囲しているかのように見えた。
「敵襲! 敵襲ーッ! 背後から東軍の刺客だーッ!」
「馬鹿な! 1万の軍勢がいつの間に但馬に入ったのだ!?」
混乱を極める城内に、山の上から巨大な筒状の紙製拡声器を通した広秀のダミ声が朗々と響き渡った。
「八木城の者たちよ、聞けぇー! ワシは東軍総大将・徳川家康公より但馬平定の全権を委ねられた、赤松広秀である! すでに天下は徳川様の勝利で決した! いま抵抗すれば、お前たちの郷里の村ごと焼き払う(※絶対やらないけどハッタリ)! だが! 今すぐ門を開けて降伏すれば、命はもちろん、私財も保証しよう! 期限は明日の朝まで! 生き残ってこそじゃ。命、大事に。賢明な判断を望む!」
城兵たちは青ざめた。
背後からは謎の爆音と煙、正面には大軍の火。城は小さく城兵は僅か。勝てる要素がどこにもない。
「だ、ダメだ……勝ち目がない……!」
「命だけは助けてくれーッ!」
翌朝。
太陽が登った頃、八木城の城門はあっけなく内側から開け放たれた。
赤松軍の被害、ゼロ。使ったのは竹筒の硝薬と太鼓、そして広秀の喉の筋肉だけであった。
「ふはははは! 見たか小野木! 戦わずして勝つ、これぞ孫子の兵法……いや、赤松の兵法よ!」
八木城の開城を成功させ、悠々と城に入った広秀は大威張りで高笑いした。
「殿……恐れ入りました。まさか本当に一滴の血も流さずに八木城を落とされるとは……」
小野木は感服の面持ちで頭を下げた。
「ふふん、まだまだこんなものは序の口よ! 八木城を落としたという噂は、今ごろ隣の豊岡城(杉原家2万石)にも届いているはずだ。杉原の奴らめ、今ごろガタガタ震えているぞ!」
広秀は腰の刀をポンと叩くと、次の目標である豊岡城の方角を指さした。
「間髪入れずに次行くぞ、豊岡城だ! 次は『嘘予告と虚報大作戦』で落ちてもらう!」
(見ていろよ家康公! 焼き討ちどころか、但馬の文化財と建造物を一切傷つけずに完璧に平定して見せますからね! だから後で10万石ちょうだいね!!)
赤松広秀の調子に乗りまくった但馬平定戦は、さらに加速していくのであった。




