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第6話 総理、豪遊する

《神崎総理に新たな疑惑》

《豪遊する神崎総理》


そこには高級クラブで豪遊する神崎の姿があった。

ガラスのテーブルの上には、ブランデーやシャンパン、フルーツがあり、神崎の両脇にはホステスが侍っている。


「ありゃ、また凄いのがでてきたね、孝ちゃん」


智恵が海斗のスマートフォンを覗き込んでいた。


「う〜ん、こんなところ、行った記憶ないんだけどな」


「そ、総理……私、これ以上出てきたら、胃が持たないんですけど、」


遥は胃薬を握りしめて言った。

海斗が神崎に非難する目を向け、


「総理、不潔です!」


「お風呂には入った!」


神崎が頓珍漢に返すのに、由香はくすりと笑った。


「でも、これ本物っぽいよね……」


画像を見ていた遥が言った。

海斗と富田も手元のスマートフォンで画像確認した。


「AIかな?」


「いや、これは……すまない、電話だ……はい」


「由香さん、僕じゃないからね」


神崎の訴えに由香は


「大体、あんた下戸だし、こんな所に行くなら甘未処に行ってるよ。まぁ、無理やり連れて行かれたって言うなら分かるけどね」


「そうだね。それにさ、豪遊っていう割に料理がお通しだね。小鳥のエサなような量しかないのはいけないよ。山盛りの大皿十皿位はないと許せないね」


智恵がぷりぷりと怒っている。

怒るところそこなの、智恵さんと遥は心中で思った。

胃に手を当てた富田が先程からスマートフォンで何やらごそごそと話している。


「……はい、総理は無事です。えっ、場所?……それは……」


顔に脂汗を流し、しどろもどろと言葉を濁していた。

極妻の迫力で由香から『うちの客だ』といわれ、神崎からは『言わないよね』と言われていたが、『言ったら左遷だからね』という含みがありそうな無言の圧力をかけられているようで、一公務員に抵抗する術はなかった。

由香はそんな富田の手からスマートフォンを取り上げると、


「うるさいね、個人の自由だ。ほっといてくれ」


そう言ってぶつリと通話を切ったあと、富田に返した。

富田は顔面蒼白になり、いまにも倒れそうになっていた。


「できた!見てください、これ」


海斗が無邪気にスマートフォンの画面を見せつけた。

そこには神崎の顔が海斗になったものがアップ映っていた。


「海斗君、空気読もう?」


それを見た遥は胃痛が増した気がした。


「ふ〜ん、上手いもんだね」


神崎が感心したように言うと、海斗は喜んた。


「えへへっ。AI使ったら簡単に作れちゃいました。こうして……」


海斗がスマートフォンを操作する。


「ほら、こんなのもできちゃうんです」


海斗が由香に画面を見せた。

神崎の両脇にはティラノサウルスとトリケラトプスがビールを持って座っていた。

遥と神崎が笑った。


「……海斗、それSNSに流しな」


「へっ?」


「いいの?おばあちゃん。大炎上しない?から揚げ食べてる写真は止めたよね?」


「あの時とは、ちょいと違うんだよ」




官邸は何ともいえない空気に包まれていた。

鈴木や官邸スタッフはもはや放心状態だった。

その中で山中だけは元気に働いていた。


「山中さんは凄いな……」


誰かがぽつりと漏らした。


(そうだ。私は凄いんだよ……そこで腑抜けになっている鈴木よりな)


認められたことに山中はほくそ笑んだ。

鈴木がぼんやりと山中を見て、


「山中さんは元気だなぁ……」


山中には鈴木の言葉が妬んでいるように聞こえた。内心で、山中は優越感に浸る。


「こういう時ですから、元気に見せておかないといけませんからね」


山中はにこやかに答えた。


バン!


と大きな音と共に強面の幹事長が部屋に入ってきた。

つかつかと鈴木に詰め寄ると、怒りを滲ませて声を荒げた。


「これはどういう事だ、鈴木!」


「幹事長……」


「私設秘書のお前が付いていながら、なぜ、こんなことになった!」


喜怒哀楽が激しく、憎めない一面もあるが、怒っている時は厄介な一面もある幹事長に誰も声をかけない。

山中の中に


”ここを押さえ込めるのは自分しかいない”


そんな考えが、ふと浮かんだ。


「幹事長、落ち着いてください」


幹事長が山中を睨み、


「誰だ、お前は!」


「公設秘書の山……」


「たかが、公設秘書如きが黙っていろ!儂は鈴木に聞いているんだ!!」


山中の顔色がさっと変わった。

鈴木がおっとりと、


「幹事長、お忘れですか?神崎は下戸ですよ」


幹事長は虚を突かれたように一瞬、固まり、急に怒りが解けた。


「……そうだったな……神崎が酒を片手になど有り得んな……」


「ええ、これも悪質な悪戯です」


「おい、大丈夫なのか、あいつは。こんなに次から次に出てきては、いくら何でもヤバいだろう」


「幹事長、神崎は大丈夫です。私が支えます」


幹事長は鈴木の肩をぽんと叩き、


「すまんかったな。慌てた」


「いえ、幹事長が心配してくれたことの方が大きいです。ありがとうございます」


一連のやり取りを見ていたスタッフが、一斉に鈴木へ憧憬の眼差しを向けた。

その傍らで山中は怒りに蒼白となっていた。


(たかが、公設秘書如きだと……)


ポン


という着信音と共に一斉に投稿された画像が流れてきた。

どれも投稿されていたあの豪遊していた画像だったが、真ん中に座っている人物が違っていた。


『豪遊中な(草)』


『両脇にワンコで豪遊』


ホステスが犬になっている。真ん中は飼い主だろう。


『息子が豪遊www』


次から次へと加工した画像が投稿される。


『下戸の総理が豪遊ってウソくさい〜。やるなら、これくらいやらないと』


投稿されていたのは、から揚げに埋もれて笑っている神崎と両脇にティラノサウルスとトリケラトプスを侍らした神崎の姿だった。


ぶはっ……


誰かが吹き、それは次々に伝染していった。

幹事長も大笑いしている。

だが、山中だけは暗い目をして笑っていなかった。


「よし、みんな、会見の準備するよ」


「「はい」」


空気が変わった。

山中は誰にも見つからないようにそっと部屋を出た。

廊下を歩きながら、山中はぶつぶつ呟いていた。


「……邪魔だ……やっぱり邪魔だ……邪魔なものは廃棄するしかないよな……」


山中はスマートフォンを取り出した

画面には鈴木の名前があった。


『削除していいですか?』


『はい』


を押す。


「ふふふ……要らないものは廃棄だ……」


天井の照明に映されていた影が不穏に揺れていた。




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