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ACTorDIE!〜声優業界下層階級哀話〜  作者: 野乃々田のの
第六章 雛沢ももえの憂愁
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6-4「全国の劇場を股にかける大舞台女優サマ」

 タイタニアレコーズから舞い込んだ「魔法少女キューティー☆フレイル25周年記念イベント」への出演オファーを勝手に受諾したマネージャー・谷地に、赤波真麻は目を剥いて激怒した。


「てめぇ何やってんだよ!こんな仕事、絶対行かねえかんな!」

「だってさあ、コレはこないだのと違って、当時の制作関係者からのちゃんとしたオファーなんだよ!受ければいいじゃんか!」




 遡る事三日前。

 事務所に立ち寄った赤波に、見るからに不潔な見知らぬ男が挨拶をして来た。

 何用かと尋ねると、不潔男は「キューティーフレイルのイベントの件で打ち合わせに来たっす。マネにはOK貰ってるんで」と、聴く者全てに嫌悪感を催させる特徴的な声色と語調で答えた。同じ部屋に居合わせた谷地に目線をやると「最近忙しそうだから、もうココで打ち合わせ始めちゃおうと思って」なぞと悪びれずしれっとほざいた。

 赤波の意志はハナから無視、であった。


 挙句、不潔男に肩書きを尋ねたら一介のADだという。冗談では無い。

 もはや赤波真麻は一介のキモオタ媚びアニメ芸者ではない。全国の劇場を股にかける大舞台女優サマなのだ。卑しきオタクビジネス関係者なぞが気安く声をかけてはいけない存在なのだ。


「お前誰だよ!」


 赤波は制止に入る谷地に目もくれず、憤怒に任せて不潔男の胸ぐらを掴んだ。不潔男は怯まず抵抗もせず、直立不動のまま赤波に胸ぐらを掴まれ揺さぶられ続けた。その妙な度胸の座り方が赤波の怒りに油を注いだ。


「アタシにオファーするんなら、最低でもPか監督が直接出向くのがスジだろうが!」


 不潔男のケツを蹴り飛ばして事務所から追い出した赤波の背中に、谷地は「監督はもう業界にいないですよ。色々とアレしちゃったから。」と声を掛けた。無論、赤波には聞こえていなかったが。




 そしてその三日後の今日、今度はスケジュールの中に「キューティーフレイルイベント(仮)プロデューサーを交えての打ち合わせ」という一節が書き加えられているのを見つけ、改めてマネージャーに食ってかかっているのであった。

 打ち合わせに下っ端を寄越すという無礼を働いたオタク商売界隈の仕事を受けろというのか。どこまでアタシを侮辱すれば気が済むのだ、事務所も、オタク共も。


「だからぁ、アタシは女優なの!こんな声優なんてしょーもない仕事はもう受けないの!」

「声優だって俳優でしょうよ?何でそんなに拒絶すんのさ!」

「あんなもん、役者業でも芝居でも何でもねぇよ!あんなもん……」


 今アタシがやってる高尚な舞台演劇の仕事と一緒くたにすんじゃねえ、と凄もうとしたが呼吸が続かない。一旦、ひと呼吸置く。


「……あんなモンは面白おかしい声色で喋ってりゃ何となく成立するクソしょうもねぇ仕事だ!アンタだって知ってるでしょ!声優の仕事に見切りを付けて舞台に本腰を入れ始めた時期に、アタシがこの世界でどう扱われて来たか!」


 江波が声優という仕事にここ迄の敵意を向ける理由は、仕事を通じて接したアニメ畑の人間達やそのファンであるところの「オタク」という人種への生理的に受け付けがたい底抜けの嫌悪感だけではない。

 声優という仕事をある期間に経てしまった事による、その後の苦労も大きく影響していた。

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