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ACTorDIE!〜声優業界下層階級哀話〜  作者: 野乃々田のの
第六章 雛沢ももえの憂愁
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6ー1「フェードアウトした人」

 雛沢ももえこと安沢とし子が発起人として企画した「魔法少女キューティ☆フレイル」のメモリアルイベントが関係各所から黙殺される形で頓挫してからキッチリ3ヶ月後、雛沢ももえ・浅川奈央・阿松幸子・赤波真麻の4名に「魔法少女キューティ☆フレイル25周年記念イベント(仮)」の出演オファーが届いた。


 会場は都内某所の大規模商業施設内にあるキャパ50人程の多目的ホール。日時は3ヶ月後の第三週の日曜日である。

 主催者はタイタニアレコーズ。同作のビデオソフトやサウンドトラックを販売していたレコード会社だ。

 イベント内容は主要キャスト4人によるトークショーにプレゼントコーナー、そしてタイタニアレコーズが極秘に進めていたリマスターBDボックス発売のサプライズ発表。オンライン配信とアーカイブ視聴あり、配信プラットフォームは現在調整中。

 顧客は25年前にこの番組のファンであったと思われる現在30代後半〜50代の男性を想定。ちなみに10代〜20代が外れている理由は「作品の性質上、世代を越えて根強く支持されているとは考え難い」という、何ともシビアながら真っ当な分析からであった。



   ◆   ◆   ◆



「……こんなアニメのファンってどんな奴が来るんだろうな」

「ロリコンだろ。25年前にロリコン拗らせてた奴がそのまま25年トシとって来るんだよ」


 ボルケーノのマネージャー2人は雛沢ももえへのオファーメールと添付された資料に目を通しながら苦笑いを浮かべ、各々好きなことを言った。どうせ雛沢はここには居ない。だから何を言ってもいいのだ。


「うわあ、地獄だねぇ……」

「あの頃のロリコン大学生はロリコンおやじになってるし、あの頃ロリコンおやじだった奴はロリコンじじいにスライドしてるだろ。で、そういう奴らが当時の熱量のまま来るって事よ。」

「キモっ!俺、同行したくねえなあ………」

「1人で行かせりゃいいよ。規模自体はそんな大したイベントじゃないし、たかが雛沢ももえだろ?あれ?柳瀬、電話?」


 デスクの柳瀬はオファーのメールに目を通すなり、即座にタイタニアレコーズに連絡を取った。トチ狂った雛沢が例の恥ずかしい企画書をタイタニアに直接持ち込みやがったのではと危惧したのだ。


「お世話になっております、ボルケーノの柳瀬と申します。ご連絡頂きましたイベントのオファーの件で、幾つか確認させて頂きたい事がございまして……」


 程なく担当に繋いで貰いどうでもいい質問事項を2つ3つ程ぶつけた後、企画立案の経緯をそれとなくごく自然な流れで尋ねた。


-ああ、それはですね……事の発端は浅川奈央さんがレギュラーで出演されてるアニメの現場に、このイベントのプロデューサーを努める岸野が居合わせておりましてですね。

「はい。」

-その時に『浅川さんってもう25年もやってるんだよね』って話題になったんですね。するとその場に居た別の女性スタッフが、浅川さんのデビュー作が『魔法少女キューティー☆フレイル』だったんですよね、って言い出しまして。

「へー。」

-で、彼女から『浅川さん以外のメインキャスト3人みんな、引退してたり声優業界からフェードアウトしてるじゃないですかぁ。今全員が集まれればぁ、中々のレアイベントになるんじゃないですかぁ?』って提案がありまして。ちょうどブルーレイの発売もあるんで丁度いいねって事で、そこからはトントン拍子です、ハイ。

「ああ、そうだったんですか。」


 担当者はその女性スタッフに余り良い印象を持っていないのか、彼女の発言を悪意たっぷりのモノマネを交えながら柳瀬に伝えて来た。

 しかし驚きだ。言い出しっぺが女性スタッフだったとは。

 あんなアニメ、ロリコン男オタクしか観てないもんだとばかり思ってた。


-何か問題でもありましたかね?

「い、いえ、何も!」


 取り敢えず雛沢が単身でタイタニアレコーズに乗り込んだという事ではないらしかった。

 雛沢ももえが引退した阿松幸子や声優業界から距離を置いている赤波真麻と同じ様に「フェードアウトした人」として扱われているのにはモヤッとしたし、本人が知ったら大層怒るだろうが、近年の雛沢の仕事の頻度を考えれば無理からぬ事だろう。

 柳瀬は丁寧に礼を言い電話を置いた後、決して美味くはないが無いよりはマシなインスタントコーヒーを啜り、もう一度パソコンのモニターに映っている「ちゃんとした企画書」に目をやった。


(あのババアが1人でどうにかしようとして誰にも相手にされなかった企画が、ギョーカイ人の思い付きの一言でサラリと実現しちゃうなんてねぇ……。)


 数ヶ月前、手書きの企画書……とさえ呼べない低次元なナニカを手に事務所に現れた雛沢ももえの、必死ながらどこか滑稽な形相が脳裏に浮かび、すぐに掻き消えた。


(けどまぁ、世の中そんなモンだよね。)

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