4ー3「売れたいしチヤホヤもされたいが面倒臭い事はしたくない。」
宛先:ももえ☆ダイアリー
件名:202X年4月24日!
本文:
今日は朝からスタジオ!
終わった後は前から行きたかったカフェに行ってきました!
お目当てはバナナモカフラペチーノ!
甘くて美味しかったー!
銀座近郊でおススメのお店があったら教えて下さいね!
ーMOMOEー
とし子はブログ用に書いた文章に誤字脱字がないかを古いビー玉の様な感情の宿らぬ目つきで軽くチェックし、鮮やかな黄色が映えるバナナモカフラペチーノの画像を添付してブログの投稿用アドレスへと送信した。
5年前に買ったとし子のスマホは長きにわたる酷使によるCPUの劣化で動作が重く、タッチパネルの操作をキビキビと受け付けてくれない。粗暴な舌打ちが無自覚に出る。
このブログは今から5年前、エゴサーチをしていたらYahoo!知恵袋の「雛沢ももえさんって引退してますよね?」という質問を見つけ、それに「とっくの昔に引退してますよ」という回答が沢山付き、「アニメ監督の達川の肉便器だった事がバレて引退しました。他にも色んなスタッフや男性声優を食い散らかす性豪だったらしいです。」という回答がベストアンサーに選ばれていて流石にマズいと焦り、始めたものだ。
が、声優としての新規の仕事など殆ど無い今のとし子は基本的にバイト先のコンビニと家とを往復する毎日を送っているので目新しい出来事など何も起きないし、同業者の友達もいない(理由もなく嫌われて一方的に共演NGを突き付けられている相手はいるが)ので売れっ子声優との交友をひけらかしてその尻馬に乗る事も出来ない。
ならばせめて日常のささやかな出来事を面白おかしく膨らませてしたためでもすればよいのだが、その為の文章力やユーモアセンスもなければ、それ以前にまず日々の生活の中からブログのネタを見つけようなどという殊勝な努力をする気がそもそもない。売れたいしチヤホヤもされたいが面倒臭い事はしたくない。
今日の記事は数少ないギョーカイ人の知人への見栄(仕事もプライベートも充実してますよアピール)と「どうせ誰も見てねえんだろ」という開き直りにより、記事のほとんどが嘘で塗り固められているこのブログに於ける、久しぶりの実話となった。まぁ、実話は「スタジオで仕事をした」という部分だけだが。且つ、そこで録った素材も恐らくお蔵入りになるが。
大体とし子にはオシャレなカフェなんていう金のかかる場所で鳥の餌の様な味気ないメシや名前が長くて覚えられない&発音もできない(それは声優としては大問題であろうが)飲み物を、2000円近く払ってモサモサ食う酔狂な趣味はない。このバナナ何とかという胃のもたれそうな代物の写真も、何処ぞかで拾った写真をトリミングして色合いを少し変え、盗用と一目でバレないように加工した物だ。若い頃からこういった悪どい事をやる時だけは妙に頑張れるのだ。
銀座は若い頃にパチスロで大勝ちして気が大きくなり人生初のブランド品を買う為に行った事があるが、老舗デパートの店員のオバハンのバカ丁寧な対応に『何チョーシこいてテメーみてーな下層市民が我が大角百貨店で買い物なんぞしようとしてんだ、あぁ?小汚いパーカーとジャージ姿でブランドバッグに触れんなこの虫野郎、次に変な真似したらこの大角印の高級ボールペンの先っぽをテメーの虫頭に突き刺して薄汚え脳みそ掻き出してやっかんなボケ』という蔑意を感じ取り、衝動的にそのまま逃げて来て以来近寄っていない。
これだけの労力(?)を割いているにもかかわらず閲覧数は一日中10回前後で50行けば御の字と、もはやクラスメイトにブログを書いている事を言いふらしている自己顕示欲旺盛な中学生なぞと大差ない。とし子が懸命に捏造…否、演出した「実録・雛沢ももえの華麗な日々」は世間に広く届いているとは言い難い。
長文を書くのがかったるくなってTwitterのアカウントを作った事もある。が、アチラは同年代&後輩の声優が活躍する様子がトレンドやタイムラインに紛れ込むフォロワーの書き込みからダイレクトに伝わって来ていたたまれなくなってしまい、ものの数日で辞めた。
やはり自分にはマイペースで更新出来るブログの方が性に合っているのだ。
決して現実逃避などではない。決して、だ。
日記を投稿した後、ふと数日前の記事に新着コメントが1件ついている事に気がついた。
《キューティ☆フレイルの頃からのファンです!これからも頑張って下さい!》
存在をほとんど知られておらず訪問者数も少ない雛沢ももえのももえ☆ダイアリーだが、たまにWikipediaなどから辿り着いたと思しき奴がコメントを残していく事がある。大概はコイツの様な「魔法少女キューティ☆フレイル」のファンだ。
この手の書き込みは25年にわたり代表作が更新されていない現実を突きつけられる様で、有り難みよりも心痛の方が勝ってしまう。コイツのメッセージもとし子の一発屋感をむざむざ際立ててしまうかの様に無作為で無邪気で、転じて乱暴でデリカシーに欠けている……様にとし子には感じられた。不意にコンプレックスをかき乱されたとし子は溜め息をつきながら乱暴に舌打ちをした。
……………………うるせぇ。
言われなくてもアタシは頑張ってんだよ。
てめぇがもっとアタシの事を応援しなかったから、アタシは今こんな惨めな境遇にいるんだろうが。
お前ら、もっとアタシに貢献しろよ。
お前らが頑張れよ、バカ共が。
この手の使えねぇ連中の使えねぇ応援メッセージに対して、これまで何千回、何万回の呪詛を唱えただろう。
毎回毎回頭をキリキリさせながら気の利いたメッセージの返事を考えはするのだが、大概脳の思考の大部分が書き込みの主への罵詈雑言の抽出に割かれていて、そちらまでリソースが回らず何も思い浮かばない。
しょうもない事を考えていたらあっという間にバイトへの出発時刻になってしまった。時間を損した。
しょうもないブログのしょうもないコメントの事は後にしよう。




