過去①
とても時間が空いてしまいました…本当にごめんなさい。
ですが、一生懸命書いたので読んでいただけたら嬉しいです。
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湧き上がる硝煙と立ち込める砂埃。視界は狭く、あたりでは銃声と爆発音が立て続けに鳴り響いている。
私…浅田光里は廃ビルの物陰から敵の様子を窺った。このビルは今私が所属している隊の隠れ家になっている。
すぐ10数メートル先では味方の隊が銃撃戦を繰り広げている。私は後方支援の役回りとなっているので、銃身の曲がってしまった銃を取り替えたり、エナジーバー(棒状の栄養補給食)を戦闘員に与えたりしていた。
「いつになったら終わるのかな、この戦争」
隣にいた、同じく後方支援役の女の子が話しかけてくる。名前は知らない。私たちはただの派兵なのだ。
「終わらないかもしれないね、私たちが死ぬまでは」
想像したくもないが、私はそう言ってしまう。
私の住んでいる国が戦争を始めたのは数十年前らしい。最初は外交でやりとりしていたところから、まどろっこしくなったのか敵対国が一発のミサイルをこちらの国に打ち込んだのが始まりだった。
始まった年数に対して「らしい」としているのは外交していた時点から戦争の開始と定義するか、武力によるやり取りの開始を戦争の始まりとするかで考えが分かれるからである。
自分が生まれる前から行われていた戦争。
国は勿論国民を一塊の兵としか思っておらず、老若男女問わず徴兵している。
最近はスパイ兵が紛れ込んでいるケースが増えているらしく、自らの名前を名乗ることが禁止されている。名前が分かっているとその名前を騙る者が現れてもおかしくないからだ。
だから私たちは、左の二の腕に掛けられた腕章によって敵味方を判別している。
「74A大丈夫ですか?」
今まさに私の隣の女の子が兵に声をかけたように。
この番号はA隊の74人目という意味である。
「待ってて下さい、今包帯を巻きますから」
ちなみに私は80A、隣の女の子は91Aである。
91Aは献身的だった。私が与えられた仕事をただこなすだけだったのに対し、91Aは頼まれていないことも相手を気遣って世話していた。
脚に大怪我を負い、唸り声をあげる兵士を励ましながら包帯を巻く91A。
治療が終わる頃には、先ほどまで辛い表情をしていた74Aも笑顔が溢れていた。
「こんな美人な後方支援が2人もいる戦場にいられるなんて幸せだよ、俺は。ありがとな…」
74Aが感慨深そうに言う。
「美人だなんて、そんな…」
照れたように91Aが返す。壁の向こうでは激しい戦いが続いているが、この空間は唯一平和で和やかな空気が流れていた。
「いま負傷者は何人くらいいるんだ?」
74Aがきく。
「貴方だけですよ、この戦場は安泰ですね」
次は私が返答する。
「マジか、俺だけなのかよ。畜生、情けねぇな…」
「情けなくなんかないです。74Aはよくやっていましたよ。こんな大怪我を負うくらいまで…」
91Aがそう言う。
74Aはその言葉を聞いてどこか安心したようだ。笑顔が漏れる。
私たちは、そろそろかな、と目配せをする。
「もしよかったらさ、隊番を教えてくれないか。後でお礼がしたいんだ」
男の声からは誠実さがありありと読み取れた。下心のない純粋な善意。それ故、私は辛かった。
「お礼なんて、しなくてもいいですよ。74A、目が殆ど見えてないでしょう? 運ばれてきた時も足元がおぼついてなかったし」
91Aが言うと、74Aは驚いた顔をした。
「気付かれてたのか…余計に情けなくなるから言わないでおいたんだがなぁ」
「だって、もし目が見えているなら隊番を教えて貰わずとも目で見れば分かる筈ですから。無理しなくていいんですよ。今は休んでください」
91Aに宥められ、74Aは脱力したようだった。
「そっかぁありがとな…それで実際番号は?」
「教えなきゃダメですか? ナンパですか?」
私は笑いながら言う。
「いや、ちょ、違うわ! 俺はホントにお礼がしたいだけで下心なんて微塵も…」
「分かってます、私は80A」
「私が91Aです」
私たちの言葉を受けた、男の顔が凍りつく。
「な…なんて……?」
「もう一度言いましょうか? 私が80Aで」
「私が91Aです」
男の顔が一気に青ざめていく。何か聞いてはいけないことを聞いたような表情に。
「お前らそれって…まさか…」
「はい、そうです」
91Aは淡々と返すと、腰から刃渡り10センチ程のナイフを取り出し、正確に74Aの心臓を突いた。
一瞬で男の身体から力が抜けるのが分かる。確実に絶命している。
「なんか悪いことしたかなぁ」
91Aは一切思っていないであろうことを言う。
しかも心なしか口元には笑みが浮かんでいる。
「ホント、91Aは悪いやつだよ」
「ふふっ、だってさ、見た? 私たちの隊番聞いた時の74Aの顔! あれが見られるからこの仕事やってるまであるよ」
「私は好めないなぁこの仕事」
「そんなこと言って、ノリノリの演技だったのに?」
「やっぱりバレちゃう?」
「そりゃあ付き合い長いからね」
私たちは笑いあう。心臓を突かれ死んでいる男の目の前で。そこには狂気とも言える笑顔がある。戦場の濁った空気などその空間のなかでは押し負けてしまうほどに芳醇な香りが2人の少女からは漂っている。
そう。
濃厚で、蕩けるように、甘美な……
「 死 」の香りが。
最後までお読みいただきありがとうございます。
次は過去②を書く予定です。
次回まで、乞うご期待。




