過去②
前回の過去①の続きです。
とうぞ、お読みください。
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ひとしきり笑って、私たちは戦場に目を向ける。
私、80Aこと浅田光里と、隣にいる女の子91A。
本来ならここに戻ってきた兵士に与えるべき食糧と武器をリュックサックに詰め、建物の壁の影に隠れながら戦場へと歩みを進める。
「久々だよね、こんなに上手くいったの」
91Aが話しかけてくる。
「そうだね、兵士の目が見えてなくてよかった」
「見えてたらどうした?」
「すぐ殺すにきまってるじゃん、逆に91Aはどうするの? また嬲り殺し?」
するとその光景を想像したのか91Aは口元を緩ませる。
「確かにいいかもね。私たち2人で一本ずつ指切っていくの」
「はぁ…私はそういうの趣味じゃないって言ってるのに。と、着いたよ、準備して」
私がそう言うと同時に2人で息を潜める。
すぐ数メートル先では味方が銃撃戦を繰り広げている。
私が壁から様子を窺い、手で91Aに合図を送る。2人同時に戦場を駆け抜け、味方の陣の丁度真後ろに隠れる。
すると丁度銃撃の隙間から、弾倉の補填に隊列を抜け出した兵士が1人いた。
私は91Aとアイコンタクトを交わすとその兵士にそっと忍び寄り、刃渡り10センチ程のナイフで首の動脈を切り裂いた。銃声や爆発音が大きいとはいえ、叫び声をあげられると気付かれるリスクがあるので突き刺すように声帯ごと切るのがセオリーだ。
首を切った瞬間、血がブシュッと吹き上がる。返り血身体に浴びるが気にしている暇ではない。
兵士が1人減ったとなれば気付かれるのは時間の問題。ここからはタイムアタックだ。速やかに殺さねばならない。
私たちは全力で戦場を駆けた。
戦線から逃れていたり、負傷して後ろに下がろうとしている兵士がいたら速やかに殺す。余裕があれば普通に動いている兵士もバレない程度に殺す。
そうしているうちに沢山いた兵士はものの20人程度になってしまっていた。
人数が減ったことにより銃撃の幕が途切れ、確実に劣勢になっている。そうなれば倒れた仲間の事を気にする暇などなく、私たちの暗殺は気付かれる事はない。
銃を使うと弾の当たった位置で射線がバレ、音も鳴るし発砲によって光も発生する。
そして私たちはあまり銃が得意ではない。
そういうわけでひたすらナイフで殺している。
追い詰められ、行き場を失った兵士たちが一塊になっている。中には怯えた表情で諦めかけている者もいる。
相手側の銃弾や爆弾はすぐ目の前まで迫っていて、絶対絶命の状態だった。
私たちはその様子を隠れながら見ていた。
「そろそろ終わりかな、この場所も」
91Aが言う。
「そうだね、ほっといても死ぬだろうね。あの人たち」
私がそう言うと、91Aは追い詰められている兵士たちを見ながら私に耳打ちをする。
「あの人たち、一網打尽にできないかな」
「え?」
何を言っているのか分からなかった。どうするつもりなんだろう。
「91A、何するつもり? あんまりリスクのあることはしない方がいいと思うけど」
「だってさ、私今日30人も殺せてないよ?」
消化不良といった様子だ。
「だからさ、みて、これこれ」
91Aはそう言って、ポケットからあるものを取り出した。
それは手榴弾だった。
「なるほど、それを投げ込むのね。でも投げ返されたりしたらどうするの?」
「接地の瞬間に爆発するように投げるよ。いつまで手に持ってられるかだよね。チキンレース!」
「あたま悪いなぁ、91A。そんなことして目の前で死なれたら目覚め悪いよ」
「そんなこと言って、好きでしょ? スリル。一緒にやろうよ、ホラ」
91Aはもう一つ手榴弾をこちらに放ってくる。
「せーのでピン抜いたらスタートね」
私は手榴弾を受け取り、すぐそばで死闘している兵士たちを見る。
91Aがにこにこしながらこちらを見て、手榴弾をもてあそびながらピンに手をかける。
「いくよ? せーの」
2人で一斉にピンを抜く。あとは時間経過か大きな衝撃があれば爆発するのみだ。
投げる姿勢をとったまま、2人、爆発のタイミングをはかる。
背筋に寒気が通り、ゾクゾクッと興奮を刺激する。
まだだ、まだ、まだ…ここ!
私は瞬間、手榴弾を兵士が密集している真ん中に投げた。
隣を見ると、91Aも同じタイミングに投げたらしく、投げ終わった姿勢でこちらを見ていた。
バッチリ合った視線をすぐに前に戻し、着弾の瞬間を見る。
私たち2人の投げた手榴弾は全くと言っていいほど同じ軌道を辿り、一直線に兵士群の真ん中へ吸い込まれていき……。
地面に触れると同時に、2発とも爆発した。
ど真ん中で爆発したらしく、兵士たちが放射状に吹っ飛ぶ。高く中を舞った者もいれば、吹き飛ばされて壁に当たり身体がひしゃげた者もいた。
だが総じて、そこにいた兵士たちがもう二度と動くことはなかった。
私は身をぶるぶると振るわせると、隣を見る。
すると目が合う。
「いぇーい!」
即座に私たちはハイタッチをした。
「やった、やったね! 同率だよこれは!」
「そうだなぁ、91Aに勝てる完璧なタイミングで投げたと思ったら同時なんだもん」
私は少し不服そうな顔で話す。
「私も80Aに絶対勝ったと思ったよー」
終始笑顔のまま、興奮冷めやらぬ心の衝撃を共感しあう。
そして興奮もすこしほとぼりが冷め、私たちは近付いてくる車の音に気が付いた。
一瞬にして高まる集中力。建物に隠れながら様子を見る。
10数秒してその場に現れたのは、先程私たちが殺した兵士たちと戦闘していた相手だった。
私たちは警戒を解かぬまま車の目の前に出て行く。
手を頭の後ろに回し、降伏の姿勢をとったまま、車の前で膝をつく。
私たちの目の前に来た大きな装甲車の中から、司令官と思しき太ったおじさんが出てくる。
「お前たち、何者だ? 降伏宣言か?」
顰めっ面をしながら、ひざまづく私たちを見下ろす。
「いえ、私たち、80Aと91Aです。こう言えばわかりますか?」
私がそう言うと、太った男は目を見開く。
「あ、貴方がたが……! とんだ御無礼おば! 今しがた準備をいたしますので、しばしお待ちを!」
太った男はすぐに装甲車の中に戻っていく。開けっぱなしのドアから「はやくしろ!」と怒鳴り声が聞こえてくる。
そしてすぐに太った男は部下を数人連れて出てきた。
「今しがた連絡を取りお車を手配させましたので、到着までどうか、汚い車内ではございますがおくつろぎ下さい。ほ、ほら、案内して差し上げろ」
そう兵士に命令する。
私たちは彼の部下に案内されて車内に入る。こうしてやっと、私たちの今日の仕事は終わったのだと実感する。
▪︎▪︎▪︎
と、まぁここまでは私、浅田光里の回想だ。純粋な高校生たる樹田君に詳しく聞かせる内容でもない。
正直なことを言うと私の過去を織り交ぜないといきなり降ってきた隕石とそこにいた人間の説明はできないのだが……それはおいおいということでいいだろう。
さて私は、どこから話すべきだろうか。
私はいわゆる戦場スパイ、と言うやつだった。
スパイというにはアグレッシブすぎるかもしれないが、どちらかというと戦場をかき乱す裏切り者のような役割になるのが私たちの職だった。
91Aとはその後色々あって別れることになる。
そして色々あって今に至る。
……あれ? 隕石の云々を語ろうと思ったら私、必然的に自分の過去言わなきゃいけなくない?
「樹田君」
少し空いてしまった間を埋める為に目の前の男子の名前を呼ぶ。
「はい」
樹田君も真剣な目でこちらを見る。
くっ、この純朴そうな男子を今から騙すのか、心が痛いな……。だが仕方ない。
「あの隕石はな、実は……」
神妙な雰囲気が場に漂う。静謐な空気のなか、私は再度口を開く。
「宇宙からの侵略者なんだ」
キリッ。キメ顔で言う。
「……は?」
樹田君の反応も分かる。だが仕方ないんだ…! 許してくれ、少年。
「宇宙からの侵略者だぞ、分かるだろ? よくあるあのピロピロピローっとしたものを想像してくれて構わない」
「よくあるピロピロピローっとしたものを想像すればいいんですか?!」
「あぁそうだ。見た目は人型だが実際のところそんな奴らだからな、キミも今日からエイリアンバスターだよ」
「僕エイリアンバスターになりにきたんじゃないんですけど!」
「ふむ、まだ分からないか…地球防衛軍、と言った方が分かりやすいかな?」
「分かりませんねぇ! いきなりそんなこと言われても!」
樹田君、思ったより元気な子だな。ツッコミキャラみたいになっているじゃないか。
まぁ元気が戻ったと考えればいいことかな。
「ふむ、立ち直れたようで何よりだ」
「どこをどう見て立ち直ったと判断しました?!」
ふーむ、やはり男子は分からないな…。
▪︎▪︎▪︎
もう少し、国とかの陰謀みたいなものを考えていた。確かによくわからない言葉や、見たこともない技術を使っていたのは確かだ。あの生物たちが。
だがこの僕、樹田紀人。いきなり「宇宙からの侵略者」という言葉を受け入れられるほど、非常識に生きていない。
というか、話出しの数秒感までずっと無言で、とても神妙な顔をしていたものだから過去話でも出てくるのかと思っていた。
出てきたのはギャグにしちゃタチの悪い、リアルにしてはあり得ないとしか言えないものだった。
「あ、あのー、本当にエイリアン的なアレなんですか?」
「そうだぞ? あながち間違ってない。…超かいつまんで話してるけど……」
最後なにかボソッと言ったようだが、間違ってはいないらしい。間違っていて欲しかった。
姉さんはそんな得体の知れない者に殺されたのか。恐らく姉さんはただ怖がって逃げようとしただけだろう。そこを敵対行動と取られて殺されたのか。
いや、それなら死体を貪る必要はないし、あそこまでぐちゃぐちゃにもならないはずだ。
再び、怒りがフツフツと湧き上がってくる。
「浅田さん、宇宙人の話は理解できました。理解したくないけどしました。だから僕に、そいつらを殺す力をください。お願いします」
浅田さんがフッと微笑む。
「いいだろう。だがここからは辛いぞ? お前に耐えられるかな? 1人の普通の高校生に」
「姉さんを殺したやつを殺せるなら、僕はなんでもしますよ。当たり前です」
少し食い気味に僕は言った。やはり許せない。僕があいつらを殺すんだ。絶対に、絶対に。
「今、なんでもすると言ったな? 男に二言はないな?」
……嫌な予感がする。
「少しこっちにこい」
言われるがまま、僕は恐る恐る浅田さんに近付いた。
瞬間、僕のポケットから「姉さんの存在を定義している大切なもの」となる光の球が奪われていた。
「何するんですか!」
「黙ってみてろ」
僕の強い剣幕とは裏腹に、浅田さんはにっこりと微笑んでいる。
浅田さんは部屋の奥に行くと、壁紙を剥がして得体の知れないレバーを引き出すと、下に下ろした。
ガシャ、ガガガ…という音と共に壁の奥から何やら透明な箱が出てくる。そこには金髪で目を閉じたマネキンのようなものが入っていた。
マネキンといってもよく似ているだけでそうではなく、身体の一部が欠損した時の治療痕のように末端が丸っこくなっている。
浅田さんはその透明な箱を開けると、光の球をマネキンの胸にグチャっと押し込んだ。
明らかに硬い素材に見えていたマネキンの身体に容易に腕が入っていることにも驚いたが、まだ衝撃は続く。
浅田さんが手をマネキンの胸から抜くと、光の球が入っているであろう場所から光の波がマネキン全体に行き渡っていく。
すると、マネキンの体が変化していくではないか。
丸っこくなっていた末端がしっかりと指のカタチをとり、髪の毛が生えて、どんどん人間の姿になっていく。
それはまるで、まるで、姉さんのような…。
だが、何か違う。作り物のような、僕の知っている姉さんではない何かが、そこには出来上がっていた。
身体の出来上がったマネキンは部屋の床にふわりと降り立つと、周りを見回した。
その作り物のような、姉さんに似たなにか。だけど僕は目を離せなかった。
マネキンと僕の視線が合う。
すると、作り物とは思えない程に、頬を染め、羞恥に顔を晒して、そのマネキンは叫ぶ。
「なんで私裸なの?! 紀人?!」
最後までお読みいただきありがとうございます。
まだまだ投稿していくので、続きも読んでくれたら幸いです。
次回も、乞うご期待。




