戻れない場所1
「下がれ!」
「進め!」
「・・・・・前へ・・!」
交差し合うふたつの陣の声に
ケルレンは、少しずつ焦りを感じる。
(まだなんだろうか?)
チラリと視線を送るとやっと此処に居るといった感じの
イェニセイ族後継リューランと
リューランの代わりに命を下す
旧オタル族総領チョイルン。
押されている
連合軍の方は3つ以上の部族が寄り集まって1万余の状態
いっぽうイェニセイ族はイェニセイ族一部族でほぼ一万の状態、
命令系統はイェニセイ族の方が早く素早く動ける
そこが有利な点と考えていたが
どちらかと言えばイェニセイの方が崩れている。
ケルレンは、もっとも戦況が見える本陣の大将の近くにあって
イェニセイ族が押されているのが見て取れた。
(連合の物資は・・・・セレンゲは?)
巧妙に隠されているようだ
相手に私達の本当の兵の数が知られていなくて
思い切って攻められない内にと思っていたが
そうも行かないようだ・・・・・
・・・何処に・・・・・何処にある・・・・?
考えて・・・・・そして血の気が轢きそうになった頭を強く振る。
何処に・・・・ハンガイ族の者達が何処に隠れるなんて
フールン達が何処に物資を隠すなんて
私には
分かる。
分かってしまった。
額から流れ落ちる汗をそのままにチョイルンの顔を見上げ
ゴクリと唾を飲み込む。
(往生際の悪い・・・・・!)
「・・・あ・・・ね・・・・・チョイルン・・」
すぐに振り向くチョイルンにけれど何も言えなくて
けれど旧オタルの小さな集落で待っているだろうレンヤンの
小さな頼りない手を思い出して迷う。
「・・・・・・ケルレン・・・・?・・・・・・・
・・・・・・良いのよ?」
「・・・・・・・・・」
チョイルンの妹を包んで許してくれようとする笑顔に
一度決心したくせに迷う自分にケルレンは激しい自己嫌悪で
強く唇を噛み締めた。
フールン・・・・・どんなことになっても・・・
敵になっても・・・・大好きだよ・・・
ずっと・・・
ずっと・・・・・・・・。
「付いてこれるだけで良い・・・
・・・私に付いて来て!」
もう戻れない所へと馬を進めた・・・
もうあのハンガイへ戻ることは出来なくなる所へと
ケルレンは進んでいった。