猫、暮らす(裏面) その1
この猫?は、何を言ってんだろ…
てか、なんだっけ… この状況…
昨日の夕方、車に牽かれそうになった白猫を助けようと、無我夢中で車道に出た所までははっきり覚えてる…
それからなんだか体が軽くなって、ふわふわと浮いていくと、マンションの三階くらいのベランダの欄干に、この猫?がいたんだ
足を組んで、右手にタバコを持ちながら…
それから確か…
僕が牽かれてた!!
猫?に、もうすぐ死ぬって言われたんだ
天国がどうとか、地獄がどうとか…
そして、羽根の生えた白と黒の二匹の何かがやって来て…
この猫?がやっつけた?
そのあと、変な光に包まれながら、救急車の音を聞いた気がする…
『生き霊になったであるか?
随分と残念ニャ医者に当たったニャ』
それで今、意識がはっきりとした時、僕は玄関で女の人を見送る猫?の後ろに立っていた
いや… 浮いていた
そして振り向いた猫?に、そんなことを言われたんだ
僕はどうなっちゃったんだ…
『肉体に還るが良い
さ迷っても何もニャいである』
猫?が言うには、どうやら僕の体は、意識が戻らず病院で寝たままらしい
外傷はなく、猫蘇生のおかげで問題なく元気になるはずなのだと
僕の意識が戻らないのは、医者が無理矢理起こさないせいか、僕自身が起きるのを拒んでいるからだと…
別に死んでも良かったんだ…
『馬鹿である』
少しムッとする僕を尻目に、そう言った猫?は…
は?
な、な、な、なにそれ?
『これか?
猫の科学力も大したものであろう?
キャットサイエンティスト共が作った擬態である』
キャット?
マッドじゃなくて?
『日光浴で充電できるであるし、最新式では、ルンバとかいう生物に乗っているだけでも充電できるである』
玄関で女の人を見送った姿勢のままの猫から、まったく同じ猫?が分裂した
今までの人生で一番驚いた
『着いてくるでニャい』
見送る姿勢のままの猫を置き去りに玄関の扉をすり抜け、女の人の後ろを着いていく分裂した方の猫?は、僕の方を振り返りそう言う
そんなこと言ったって、しょうがないじゃないかぁ~
『それは誰の真似であるか?』
僕はどうやら喋れない
体は確かにあるんだけれど、浮いてるし動けない
動くのは首と目だけで、見る、という行為しか出来ないみたいだ
だけど、僕の思ったことを猫?は読み取っているのか、会話は成立している
壁はすり抜けるし、すれ違う周りの人にも見えていないんだろう
“生き霊”と言われたことが、段々と飲み込めてきた
猫?の後ろから離れられないことから、生き霊と言うより、この猫?の守護霊になったみたいだ
『そんニャ格式の高いものではニャい』
こいつ口悪い…
なんか… どうでもよくなってきた…
やることも無いのでツッテットットッと歩く猫?を観察してみる
白いからバニラだと言っていたのに、口周りからお腹にかけてだけが白く、背中側は茶色よりも灰色に近い毛色で、首から尻尾にかけて少しずつ濃くなっていく完全なツートンカラー
その猫背の背中には、うっすらと黒の虎模様
俗に言うサバトラ
前足と左後ろ足が白く、右後ろ足にだけ茶色な丸い斑点がある
アメショーに近いが純血な猫ではなく、いろいろ混ざった雑種のようだが、どちらかと言えば洋猫の様な楕円に近い丸顔
目の横にある歌舞伎の隈取りの様な上下のラインが、大きな目を更に大きく見せ、鼻は黒い
普通に見かけたら、美男子の様にも美女の様にも見え、パッと見では性別はわからないけど、話し方からしてオスなんだろう
何処といって特徴のない猫?に見えるのだが、しいてあげるなら尻尾…
尻尾がカクッと曲がった、鍵尻尾と呼ばれる形
しかも二回曲がっているため、数字の4みたいになっている
ばあちゃんが言ってたな…
鍵尻尾は幸運の猫だって
ばあちゃんとこの猫も同じ様な鍵尻尾だったっけ…
『それは何処の猫であるか?』
ん?
音々古島って言う田舎だよ
『名前は?』
確か… よね子
『悟りの大ババか…
猫が多い島であろう?
僅かニャがらに君と吾輩にも繋がりがあったであるか
縁とは不思議である』
悟りの大ババ?
『百知のよね子
ムスペルヘイム辺りでは有名である
「よね子が来た!!」と叫べば、あの辺りの悪魔は有り金放り出して全力で逃げ出すであるよ』
なにその二つ名と武勇伝w
ひょっとして、鍵尻尾の猫は、ケットシーとかいう妖精なの?
『シェイクスピアか…
あやつのせいで誤解されている様であるが…
君は馬鹿の上に、記憶力もニャい様だニャ
吾輩は猫である』
そんな口の悪い猫いないよ




