質問
「あ、あんた! 今のは何!!」
ミトラルカちゃんは見ているだけで、何か言ったりしなかったけれど、エミが声を上げた。
「今の? 今のは紺碧ちゃんだよ。 ね、しろ」
紺碧ちゃんを知ってる白薔薇に同意を求めたけれど、どこ吹く風で靴下に夢中。
僕の声は届いてないようす。
……と思ったけど、白薔薇は無言でそばに寄ってきて僕の背中に自分の背中を合わせた。
普通なら寄りかかり合うような体勢なのに、白薔薇が軽い上に浮いているので傍目からはリュックを背負っているみたいに見えそうな気がする。
落ち着くからいいけど。
「いや、名前とか言われても知らないし! そうじゃなくって何が起こったのか聞いてるの!」
名前は大事なのに。
何にでも、今あることを当たり前に思う人はいつも本当は大切なことを蔑ろにするのです。
これはいけない。
傷は浅いうちに何とかって師匠も言ってたからね。
治すのかトドメ刺すのかは忘れたけど。
「あのね、紺碧ちゃんはこう……フワって、フワって空気に潜るの。 透明? えっと、周りが見えたりする、それが紺碧ちゃんなんだよ」
「どういうこと!? まさか視認出来なくなる術式を展開している人がいつもあんたの側にいるわけなの!?」
むー…… 紺碧ちゃんの名前は、こういうものがキラキラして関わって出来た素敵なものなんだよと、僕が本に教えられて出て来た自慢のものなんだよと伝えたかったのにうまく出来ない。 悔いが残るの。
「そこにいるんですかっ!」
エミが僕の前の何もない場所に、虫の触覚みたいに手をワサワサ探りながら紺碧ちゃんに声をかけた。
そこに紺碧ちゃんはいないんだけどな。
「エミ、紺碧ちゃんに何か用事?」
「用事があるかって? 当たり前じゃない! 不可視化の術式なんて全然上手くいってないものを目の前で見せられたのよ、気になるじゃない!」
そんなエミの言葉にミトラルカちゃんが反応した。
「え? でもエミ、他人の創った技術を無遠慮に見せろって言うのは恥ずべき事なんじゃなかったの? そう前に聞いたことあるけど」
ミトラルカちゃんの言葉を聞いたエミは少しばつが悪そう。
けれど気を取り直して、また言葉を紡いだ。
「それはそうよ。 でも他人に堂々と見せているんだから、もしかしたら聞いたらヒントくらいもらえるかもしれないじゃない」
「ん? でもそれって恥は恥なの? それはいいの?」
「学問なんてそんなもんよ」
「それじゃあ「恥ずべき」なんてことは、わざわざ言わないほうがいい事なんじゃないの?」
「そうね。 ご大層な矜持なんて生き物の本質とはかけ離れた、ただの恰好つけよ。 恥ず事を気にせずにいられるのならば、学徒である人間は口にすべきではない……と私は思うわ。 私の理想ではね」
「あれ? でもそれって」
「そう、遅いか早いかだけで結果的にはどちらにしろ恥はかくことになるんだけどね」
へぇ。 なんだかよくわからないところもあったけど、エミの言うことはいかにも師匠が言いそうな言葉だ。
師匠はよく「強くなるのには、遠慮と道理は要らない。 要るのは無遠慮と得心よ。 但し得心するための道理は必要だけどね」と言ってたから、似てるんだろう。
特に理不尽チックなところが。
「で、それでそのコンペキちゃ……いえ、コンペキさんはどこに? 姿を現して欲しいのだけど。 あんたからも頼んでくれない? 近くに居るのでしょ、コンペキさん」
エミが少し丁寧な言葉遣いになった。
なのに何でか僕に対しては無遠慮に聞こえるから不思議だ。
「行くとこ行かなくていいの? 建設は?」
「良くないけど良いのよ、ちっちゃな疑問よりも目の前の利よ!」
エミが何か張り切っているのはいいんだけれど、肝心の紺碧ちゃんはお家に帰っちゃって居ないのだけどな。
どうしようか、透明になるヒントを僕が知っていれば簡単だったんだけどね。
あれ? 紺碧ちゃんは透明にならないからヒントなんか知らないかもしれない。
じゃあエミの欲しいヒントは手に入らないのか。
「残念、エミ。 紺碧ちゃんはもう帰っちゃったし、ヒントは誰も持ってないかもしれない。 後で聞いてみるから建設しよ、建設」
「何で少し残念そうなのよ」
エミは納得がいかない様子で、食い下がる気満々の口調で言う。
理由も言ったのに、まだ諦める気はないみたい。
「それと変なこと言ったわね。 帰っちゃったしってどういうこと? 帰ったも何も近くには居るんでしょう? でなきゃあんたの家はここの近くにあるってことじゃない。 ……え、そうなの?」
「さあ?」
「さあ? さあってどういう事よ。 自分の家くらいわかるでしょうが。 どうやって来たのかは覚えてるでしょ、なら近いか遠いかくらいわからないはずないじゃない」
そんなこと言っても、そうなんだから仕方がない。
説明しなきゃなのかな。
自分の泳いだ小星の海とかを説明したら、なるほどねってわかってくれるといいけどな。
ゴールデンウィーク、途切れまーす




