たくさん大人がいる部屋
面倒になった猫が部屋の全部の荷物を残らず穴に落とし込み、あっという間に片付けが終わった。
押したり投げるのも面倒と言って穴を広げた為なのだ。
「あー……」
「気にするな、要るものがいつまでも埃をかぶっているなんておかしいのだ。 ならもともと要らぬものだったのだと考えればよい」
気の抜けたお姉さんを、猫が言うと微妙な感じの言葉で気遣っている。
けど結構、猫の言ったことは素晴らしいと思う。 師匠に聞かせたいくらいに。
埃ごと綺麗さっぱりになった部屋を出た。
気を取り直したお姉さんが「使いっぱなしの教室の身代わりとして申請しなきゃいけない」と言うので全員で先生がたくさん集まって仕事をしている一階の部屋へと向かっているのだ。
そこには先生の先生もいるらしい。
ぴょこぴょこ歩く猫の後を追いかけて部屋へと近づくと、次第にたくさんの声が聞こえてきた。
『今年入った子らは元気とやる気に満ちていていいですな』
『まったくですよ、うちの担当学徒達はダラけが見え隠れしていてどうにも気が入っていなくてね』
聞きとれたのはおじさんとおじさんの会話。 他にも女の人やお兄さん、いろんな大人の声とガヤガヤザワザワな気配が、 人の暮らす音がする。
「ほら、行くぞ。 それとも入らずに待っておるか?」
え、行かないという選択肢があるの?
それって待ってたらここで楽しいことがあるって事?
「うーん、どうしようかな」
「中に居るのは知らぬ人間ばかりだしな、子供は良くても大勢の大人など怖かろう。 平気か?」
「なんだ、じゃあ行く」
「そうか」
猫はあっさりと納得してドアを押す。
このドアにもノブがなく、ただ押すだけでガチャリと音を立てて押し開いた。
こっちのドアはノックしなかったけどいいのかな、鍵みたいな音がしたから入れる人が決まっているのかも。
「貴様ら! 元気に仕事をしておるのかの!!」
猫が声を張り上げた。
その猫の声に部屋に居たたくさんの大人は居住まいを正したり、立ち上がる人が居たり。
そして全員が声を揃えて「おつか「はようごさいま「主任!」」」」」
うん、雰囲気だけ全員揃って猫に挨拶をした。
「よいよい、元気で何よりだ。それといつも言っておるが、困り事はちゃんと申すのだぞ。 手遅れにならなければなんとでもなるからな」
さっきゲンコツを食らった猫とは違う猫かと思えるほどに雰囲気が違う。
これはどうしたことか。
ちょっと聞いてみようかな。
「ねえ、ミトラルカちゃん」
「どうしました?」
声に気付いたミトラルカちゃんが僕の方へと視線を下げてくれる。
「猫って偉いの?」
「うーん……そうですね、偉いと言うよりかは頼れるマスコットって感じですかね」
「主任ってゆうのは?」
「一応役職です。 けどほとんど愛称みたいに呼んでる人が多いですね」
「へぇ」
ピカチュウみたいなものか。
「主任、何の御用でこちらに?」
若めの男の人が猫に丁寧な言葉で尋ねる。
猫に話しかける大人ってちょっと可愛い。
「うむ、わらしがさっき授業で使った部屋が使えないので別の部屋を使ってもらおうと片付けたと伝えようと思っての。 しかし、わらしは用が無い時は来てはいけぬような言い方だの?」
「そういうわけじゃないですけど…… だって、主任は用でもないと普段ここに立ち寄ろうとしないじゃないですか」
「バカな。 そんな事はないのだぞ? この前も来たではないか」
猫は男の人の言葉を良しとしない。
でもそこで若いお姉さんが、猫とお兄さんの話に割って入った。
「や、それは私が「お菓子があるよ」って釣ったから来たんじゃない」
「ふむ……そうだったかの」
「そうですよー」
猫は居心地の悪さからほんの少し、ぱっと見わからないくらいに少しだけいじけた。
「それより見ない方を連れてますね。 一体どちら様です? 紹介をして頂けますとありがたいんですが」
猫に近い席に座るおじさんが、黙って立ったままの僕たちを手のひらで指し示して猫に尋ねた。
おじさんが口にした事で周りの大人たちも口々に興味を口にしだした。
少しザワザワとする部屋の中は主に僕と白薔薇、あとはミトラルカちゃんに視線が集まってくる。
水色ちゃんはちっちゃいので離れた人と近くのおじさんたちには見つけられていないみたい。 たぶん老眼なの。
猫は僕たちを紹介する。
でも紹介の仕方が少し雑。
ミトラルカちゃんを指差して「これはお前たち知っておるだろう、ミトラルカなのだぞ。 忘れっちゃったのかの? ジジイの孫で小僧の娘なのだ」と説明した。
その猫の言葉を聞かされたみんなが混乱しているうちに、続けて僕のことを「ミトラルカの恩人のちこく人間なのだ」と、そして白薔薇のことは「おばけなのだ」説明する。
最後に水色ちゃんを指差して「シャツなのだ」と言った。
猫のそんな説明に大人たちはみんなハテナを浮かべるばかりでちっとも理解が進まない。
それでもそういうものかと無理やり胃の腑に落とした人たちが幾人かいた。
それは若い人ばかりでおじさんやおばさんにはあまりいないみたい。
特におじさんが多いところを見ると、頭の若さってあるんだな実感した。
部屋の中はさっきよりも少しザワザワとうるささが続く。
そこで部屋の奥にあった目立たないドアが開かれて、そこから髪がものすごく長い子供が出て来た。
髪が長すぎて、頭の両脇で大きなお団子にして纏めているのにまだ長い。
「ちょっと騒がしいぞ、何があった。 また主任が原因か?」
「あ! すみません、騒々しくしてしまって。 それと原因は御察しの通りです」
奥の扉の近くに座る男の人と子供の会話が聞こえてくる。
それは僕に聞こえたのだからもちろん猫にも届き、反射のように反論の声を上げた。
「なにおう! バカを言うものではない!! 声を出してうるさければ、それは声を出した者がうるさくしているのだ! どこにわらしの所為な部分がある!」
髪の長い子供はその猫の言葉を聞きながら「悪いね、通しておくれ」と断りを入れながら歩き近づいてくる。
そして猫の目の前までやって来た。
「相変わらず訳のわからないへりくつを言うね、主任は」
「わからぬのはお前とわらしの考え方が違うからなのだ。 一人一人違うのだから多少は仕方がないの」
「そうだね、間違ってはいない。 けどね、毎回毎回似たような問答はどうかと思うよ? 生き物っていうのは成長や整合性を取れるようになるはずだからね」
「うむ、わかるわかる」
「わかってこれかい」
猫と子供は長い間一緒にいる友達みたいな感じ。
子供の言葉が年寄りくさいせいかな?
「で? こちらさんはどちらさんなんだい?」
「えー……さっき説明したからもうめんどくさいのだ。 えーっと……ふむ、みんなわらしの友達なのだ」
「そうかい、なら私とも友達だね。 これからよろしくね」
うん、わかりやすい子供でいいね。
僕は子供と「よろしくー」と手を握り合い、また一人友達が増えた。
早めに書き始めたはずなのに、また月曜日。
おかしい。 途中で思いついたこれとは関係ないことをことを半日ほど書きなぐり続けたからかな?




