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まいごは今、異世界  作者: heina
ほぼ家出中に家出編
78/120

迫り来る片付け

「うぬぬ…… 次の授業で使うからまだ片付けられぬのだ。 片付けをしないのは仕方のないことなのだ……」


 猫が涙を袖で拭きつつ、ようやく返した言葉がそれだった。

 ゲンコツが落ちた箇所をさすっていないところを見ると、涙はタンコブができるほどの力は入っていなかったけれど、叩かれたという事実から心が傷ついてこぼれ出たみたい。


「それならそれで許可は取ってあるんですよね。 この部屋は他に全く使わないという訳ではないことは主任もわかっているはずですもんね」

「そぅ、それは……だの」


 吃(ども)る猫を確認してからのお姉さんの行動は早かった。

 そもそも行動に躊躇いが無いお姉さんはこうと決めたらまっすぐに進むので、すごく師匠を思い出してしまう。

 僕はちょっとさみしくなった。


 お姉さんは先ず猫を連れて、普段は使うことのない荷物が疎(まば)らに置かれている埃臭い近くの同じ広さの部屋の片付けを始めた。


「主任は荷物運ぶの下手くそなんだから、穴空けてください。 要らないものを処分するための穴だから、圧縮でも滅却でもいいです。 あ、転移は跳ばした先に迷惑がかかるからダメですからね」

「転移式なんて現状履行不可なものはそもそも無理なのだ」

「はいはい」

「ちゃんと聞いて欲しいのだ」


 猫はプツプツと何かを言いながら部屋の真ん中に立ち、力一杯に場所を広げに荷物を押した。

 ずりずりと押し広げ終わると、猫は部屋の中央の床に足の爪を突き立てる。


「では今回は滅却にするのだ。 危ないから条件付けで生き物が入れないようにするのだぞ」


 猫が床を踊ると爪痕が軌跡を描かれていき、そのまま床が内側にめり込んでいく。 それはそのまま渦巻く黒と紛れる紫色の大穴へと成長していった。


「出来たのだぞ」


 猫は足の下にある穴に落ちず、浮かんでいる。 猫はバランスボールに弾かれるような弾力を以って見えない何かに阻まれて落ちることなく空中に留まっているみたい。


「ぽいんぽいんなのだ」


 猫は空中で二度跳ねた後で飛び降りた。


「はい、お疲れさまです主任」


 お姉さんは要らないと判断したものをパパッと出来たばかりの穴へと放り投げていく。

 ポンポンと放り投げられていくのは難しくて読みづらそうな表紙の厚みのある本や古い紙束。

 ちょっと楽しそう。


「お姉さん、お姉さん」

「ん、どうしたの?」

「お手伝いしたらダメ?」


 楽しそうでやりたくなったのでお願いしてみると、お姉さんは笑みを浮かべながら困った顔をした。


「手伝いですか…… うーん、ありがたいんですけど一応はいるもの、いらないものの線引きがあるので難しいですね。 ごめんなさい、でもありがとうね」

「ううん。 平気」


 そっか、残念。 僕じゃあ何がいるのかわかんないから仕方ないや。


「いいではないか、どうせ全部捨てるのだ。 ほら、こうポイっと」


 猫が足元の紙束を一枚摘むと、チラッと見た後でくしゃりと丸めて穴に放った。


「まあ、ほとんど要らないんですけどね……って、今主任何捨てました?」

「ん? あれか。 気にするな、ただの剪定外方の初期暗喩なのだ」

「はあっ!? ちょっ!」


 お姉さんが這いそうな勢いで猫の元へと駆け寄ると、猫の摘んだ紙の残りを急いで確認しだした。


「……うーわ。 マジじゃないですか……」

「何か問題でもあったかの?」

「……本気で言ってます? 」

「おう」

「えぇ……」


 お姉さん、本気で引いてる。


「なんなのだ! もうあれは解読済みであろう」


 猫のその言葉にお姉さんは一つため息を吐き、諭すような語調で猫に答えた。


「あのですね、主任。 コレは書いた人がアレなのでこんな書き方になっているので解読が必要だったんですよ」

「ふむ。 アレとはアレだな、性格がひねくれてるということだな。 自分以外にわからぬように暗号っぽく書いたのだものな」

「人が直接的にならぬようにと……いいですけど。 で、その解読したものを後世が引き継いで現行のものがあるわけですけど、あれ微妙じゃないですか」

「うむ。 効率が下手くそなのだ」

「はい。 で、そのことに疑問を持った人間が「もしかしたら、はじめの解読に間違いがあったのかも」と言い出したのが三ヶ月前で……」

「ああ、そいつがこれを探していたということかの?」

「ええ。 ですが、それでなくても初期案を捨てるとか無いんですけどね」

「ふーん、そんなことないと思うがの」

「いや、ですが……」


 猫がポンと捨てた残りの紙束に手を置いた。


「コレは考え方が基本的にパーな所があるのだ。 読み解き方以前に元ネタの流れは見たらわかる。 別解などないぞ、もともと使えぬだけだよ」

「主任が言うならそうかもしれませんけど……」

「後な、何でもかんでも取って置いても部屋が汚れるだけなのだ。 片付けはせぬとな」

「主任には言われたくない言葉ですし、研究者の言葉でもないですね。 多面的な考察に他分野の資料は必要でしょう」

「他分野の人間がそんなもの理解するのにどれほどの時間がかかると思っているのだ。 人の集まる場所で学べるのなら別視点での刺激は他人から得るべきなのだぞ?」


 うーん。

 とにかく僕はここにいても出来ることはないってことでいいのかな?

 つまらないことだ。

 猫とお姉さんの話を含めて。

日曜日に間に合わないし、短いし。

次は早めに書き始めねば。

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