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まいごは今、異世界  作者: heina
ほぼ家出中に家出編
80/120

だまし

 子供の友達発言が受け入れ難かったのか、また部屋がガヤガヤと煩さを増してきたので子供が少し不機嫌になった。


「なんだい、言いたいことがあるなはハッキリお言い。 幸いにして本人が目の前にいるんだから手間も省けるだろう?」


 端々にトゲの生えた子供の言葉に大人たちは静まり返った。

 言いたいことはないらしい。


「ちょっとお客人らを連れて出かけてくる。 あとを頼むよ」


 子供は返事を待たずに扉を潜って出て行ってしまった。


『私の友達はみんなついて来なさい。 少し面白いところに案内するよ』

「ほう、興味深いのだ。 行こうではないか」


 ついてこないなと思った子供が扉の向こうからそう声をかけてきた。

 猫はスキップしながら子供のあとを追いかけて行く。

 僕も白薔薇とミトラルカちゃんの手を引いて、頭には水色ちゃんを乗せ後を追う。

 スキップはしない。



 子供が面白いところに連れて言ってくれると言ったけれどどこへ行くんだろう。

 ゲンコツお姉さんは「仕事が残っているので」と言うのでここでお別れ。

 行くのは僕と白薔薇と猫とミトラルカちゃん。 そして子供。

 笑顔で手を振れば、お姉さんも可愛い笑顔で振り返してくれた。

 いつも笑っていればいいのにと思ったけど、楽しいこともないのに笑う人はそんなに好きじゃないことに気づいて言葉には出さずにそのままさよなら。


「お仕事頑張って!」


 お姉さんニコリ。

 うん、やっぱり笑い顔ステキ。


 お姉さんとは反対方向へと踏み出した通路にはやっぱり荷物がたくさんあって邪魔だなと、今日何回も思ったことをまた思う。

 猫に「捨てたら?」と足元の荷物を指差して聞いたら子供が「勘弁してくださいね」と牽制してきた。

 少しだけあの部屋の荷物を全部捨てたことは大丈夫だったのか気になったけれど、もう遅いので考えるのはやめておこう。


「私は学徒長を任せられています百々目樹(とどめき)鰲赤(ごうせつ)と呼ばれる者です」


 廊下に置きっぱなしの荷物を避けたり踏んづけたりしながら先頭を歩く子供が唐突にゴツい名前を口にした。


「名前という訳でもないので好きに呼んでくれていいですよ。 呼びづらいので、最近はもうあんまり呼ばれることも少ないですし」


 呼ばれてたらそれが名前じゃないのかとも思ったけど、僕もあだ名がそのまま名前とは思えないから違うんだろう。

 名前ってむずかしい。


 ん?


 おかしい。

 なんだ百々目樹鰲赤って。

 言葉を翻訳していたはずなのに名前までイメージできている。

 これって翻訳?

 絶対違う。

 こんなへんてこりんな名前がすんなり聞き取れるとか絶対、変。


「どしたの?」


 白薔薇が頻(しき)りに首を捻っていたので心配して声をかけてくれた。

「大丈夫、なんでもない」と返事をしようと口を開こうとした時に、頭の中を白薔薇の口にした「どしたの」が巡(めぐ)る。

 間抜けに口を半開きにしたままなのもわかっているけどそのままに、思考の沼に浸かってゆく。


 おかしいのだ。

 いつからだろう。

 白薔薇の話す言葉がそのままに受け取れる。

 基本的な言葉の捉え方は変わっていないはずなのに、いつからか白薔薇の言葉がその位置に座っている。

 なんでもない普通の言葉として。


 ミトラルカちゃんの言葉も猫の言葉も少し考えて不便を無くしていたはずなのに。


 僕の日本語はちゃんとここにある。

 だけど違和感なくその隣に白薔薇の言葉が座っていることにしっくりときている。 そのことに違和感がない不和感。


 そんな変な心持ちを表情に滲ませたままいつの間にか歩みを止めていた僕はほっぺたが白薔薇に左右同時に押されて、口がクチバシのようにとんがった。


「本当にどうしたの? お腹すいた?」


 心配そうな声で白薔薇が尋ねてきたので、今は置いておこう。

 ミトラルカちゃんも黙って頭を撫でてくるし。

 少し離れてしまった子供と猫との距離を白薔薇とミトラルカちゃんの手を引いて荷物を踏んづけて追いかけた。



「ほら、ここですよ」


 辿り着いた先は建物の外。

 でもいつの間にか陽は落ちて、まっくらです。


「おいこら、何も見えぬのだ。 何にも楽しくないではないか」

「おかしいですね、灯りがついてません。 お休みでしたかね」


 外には月も星明かりもない。

 昼にはよく晴れていたのに日暮れから曇ったみたい。

 猫が言うほど何にも見えないわけじゃないけど、確かに暗い。 今出てきた建物の窓から漏れ出た光のおかげでうっすら確認できるくらいには明るいけど。

 雨は降ってないみたいだけど、風が湿り気を帯びて寒い風に生温さを与えたみたいで生き物みたい。

 どこか蛇みたいな感じなの。


「ところで」


 子供が前置きをして僕を見た。


「貴方達は一体どういった生き物なんですか? 普通の人間にはどうも見えませんけど」


 僕はもうこれ見よがしに首を捻って見せて「何を言うておるのだ?」感を見せつけた。

 イメージの中では猫がお手本として同じポーズをとっている。


 それでも子供は納得を見せない。

 ハッキリ言えば、なんて言えばいいのか返事に困る。

 まだ自分でわからないことを聞かれても答えられないから言葉でなくわかりやすく困ったぞアピールをして見せたのに。

 もう、「人間だよ〜」って言えばいいのかな。それ普通? 言い訳みたいでおかしいと思うんだけど。

 そう思ったから敢えて喋らないでの行動だったのに納得してもらえないとは。


「……ゴシックストローベンハウスとはもう顔を合わせましたよね」


 子供はゴスさんの名前を出したのでもちろんと頷いた。


「あの子からの伝言があります。 「頭を撫でた時に手のひらにくっついた髪の毛を勝手に調べてごめんなさい」 だそうですよ。あの子は貴方を理解したと言うことなのかしらね?」


 子供が要領の悪い言葉を繋げる。

 調べたからなんなのか。

 そんなの次にあった時に自分で謝ればいいだけなのに。 伝言、いる?


「別にいいよって言っておいて。 その前に自分で会うかもしれないけど」

「そう? 優しいのね」


 子供との問答が少しめんどくさい。

 そう思ったのは僕だけじゃなく、猫も同じだった。


「ええい、要領の得ないことばかりなぜ言うのだ! いらん遠回りをするな、ばか子供」

「あのね、ばか子供ってなんだい。 侮辱にしても雑すぎるでしょう」

「知らぬ! それよりも楽しいこととはまさかこれのことではあるまいな。 何にもないではないか!」


 猫は暗くなって見えないどこかを指し示して、興奮している。


「あのね、主任」

「断固抗議するのだ! のう、ちこく太郎」

「ちこく太郎?」

「そこはいいのだ、抗議するかしないかが今は大事なのだ!」


 興奮する猫を見て思うことは一つだけ。

 やっぱり名前とあだ名は違うものだなーと感じるということだけだった。

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