ぴかぴかどん!
猫がしぶしぶだけど、終わったら掃除をする約束をしたら女の人は帰っていった。
近くの女の子に話を聞くと、たまにしか後片付けをしない猫のせいで今来た人が掃除をする羽目になるのでこういうことは結構あるそう。
怒られても仕方ない。けど、どうしてさっきの女の人は床に直接描いてることがわかったのだろう? 丁度よく来たけど。
そこで待機してる……?
「よそ見してたらダメなのだぞ」
女の人が出ていった戸を見ていたら、猫に窘められた。
猫の言う通りなので、ちゃんと猫の描いた模様を見なければ。
……なんか変?
猫は歪んでしまったところはもちろん、そこに繋がる周りの部分をも大きく消してから描きはじめました。でもそれを見ていると、なんか変な気分になってきたのです。
もやもやする。もやもやもやもやする。
別に猫の描いている模様の意味が理解できているわけでもなく、ここそこが間違っているといった訂正ができるわけでもありません。そもそも間違ってはいないと思う。
けれど僕の心はもやもやもやもやするのです。
「よし、描けたのだ。今から動かして見せるから、みんな危なくないところまで離れるのだぞ」
もやもやしながら見ているうちに猫は模様を描き終えたようです。
僕の感じているもやもやは一体なんなのか。それが永遠の疑問に思えるほどに猫の描いた模様は素敵な出来上がりでした。
丸いわけでもないのに四方八方にバランスの根が張られて、すごく安心できる落ち着きを放っています。
「もうちょっと離れるのがいいのだ。これは少し派手目だからの」
猫が子供達を少し離れたところへと押して回り、周囲二メートルくらいの空間を作りました。
「みんな、ちゃんと見ているのだぞ。きっと綺麗なのだ」
猫が尻尾を立てゆらゆらさせながら近づき、模様の端に手を置く。
置いた手をキュッと捻り、模様をいじった途端に模様全体に流れが生じ始めた。
動き出すと猫はシュッと後ろに飛んだ。
勢いよく飛んだせいで止まれずに、子供達にぶつかりそうになって慌てていると、ぶつかられそうだった女の子が受け止めてくれていた。
受け止めてくれた女の子はさっき描くものを渡していた女の子だった。
猫が女の子に抱かれたまま、手を合わせてお礼を言っている様子から僕は模様に目を移すと、猫の言う通りになっていて凄かった。
模様は全体にまんべんなく流れを行き渡らせては、ぐるぐると中身を回している。細かくなったところに流れていくと、そこには余った流れの力が外へと弾けて小さく電気が迸る。
全体で回り続けているためにパチパチと弾けるスパークは終わることがない。どころか、次から次へと弾けるためにどんどんと規模が大きくなりつつある。
周りからは子供達の感嘆の声が聞こえる。
「スゲー!」
「綺麗……」
「うわぁ」
みんな様々な言葉だけど気持ちはおんなじ。僕もおんなじです。
ところが一人だけ様子が違う子がいます。
猫です。
「……ヤベ」
猫の口からは静かにそんな言葉が漏れた。
子供達の声とパチパチと鳴る電気の弾ける音で少し離れた猫の小声の一言なんて聞こえるはずはない、気のせいかなと思っていると、慌てて降ろしてもらっている猫の様子から信憑性がうまれた。
そして猫は床に足を擦り付けて、足の爪と共に床に傷を付けながら弧を描いた。
その間も模様は子供達と共にどんどんと白熱度を上げていく。
弾ける電気が空中のその範囲を広げて末端のきらめきをより精緻に精密に。
子供達はそれを見て盛り上がる!
「わわー! スゲー、あれスゲー!」
「きゃー! 見て見て、あそこ綺麗! すごく細かくて凄い!」
「わあー! ほら、見て見てしろ! 葉っぱみたいだよ!」
「ヤベー、ちょーヤベー!」
「危なくない? 危なくない!?」
「平気なとこまで下がったんだから大丈夫でしょ」
電気を放ちつづてけいる部分が赤熱してきた。
少し焦げた匂いもする。
「下手こいたのだ! 好き勝手に描いてたら安全弁をちょっと忘れてたのだ!」
「何やってるんですか先生!」
「仕方なし。わらしでもそんなことはあるのだ。皆も失敗してもあまり気にするな。その場のリカバリーと次さえしっかりしておくが良いのだ」
猫の足元で爪痕が模様を描き終えて、その効力を発揮した。
その瞬間に電気を飛ばし、赤熱を帯びた模様は床を抉り取って爆散。
鬩ぎ合いさえ見せずに、爪痕の模様から延びたモノが爆散するカケラ一つ残さずにその場に押さえ込んだ。
残ったのは綺麗な模様が焼き付いた焼け砕けた床と焦げた匂い。
「何の音ですか! 今のは!!」
「……何でもないのだ」
「主任!!!」
そして怒声と半泣きの猫の声だった。




