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まいごは今、異世界  作者: heina
ほぼ家出中に家出編
68/120

猫の授業は進まない

年が明けちゃった……

明けましておめでとうございます。

 猫はシャツの右と左のポケットを上から触り首をひねると、そのまま少し傾けて耳の中を手でちょこちょこと触った。


「はれ? どこに行ったのかの?」


 猫が胸のあたりをポンポンと叩いて探していると胸ポケットに行き着いた。


「んー! あったのだ」


 猫は胸ポケットから何かを取り出そうとするけど、うまく取り出せない。それでも胸ポケットに手を入れようとがんばる。ポケットよりも手の方が大きいせいで入らないのだ。

 首を左右に何回か捻りながらポケットと戦っていると、ふと猫はスッとまっすぐ前を見てからピョッと逆立ちをした。

 逆立ちで体を揺すったりぴょこぴょこ跳ねた後でフラフラと片手で耐えながら空いた片手で胸ポケットをチョイチョイといじる。すると猫のシャツの胸ポケットから黒い欠片がコロンと落ちて、猫のアゴに当たって跳ねると床に転がった。

 猫は地に足をつけて落ちた欠片に飛びつき、しっかと両手で拾う。


「黒いのしかないのだ……」


 猫が拾った欠片を見て悲しそうな顔をした。

 それを見かねたそばにいた子供が席を立ち、猫に白い欠片を渡してる。

 渡された欠片と渡した子供の間を行ったり来たり視線を通わせているうちにその子供は席に戻ってきた。席へ帰るときに見えたその子の顔は優しい面差しをしているのが見えたから、猫は好かれているのだな。

 猫はハッとしてその子の机にスリッパを脱ぎ捨ててよじ登り、肉球で頭を撫でてお礼をしてから机を飛び降り、スリッパを突っかけてから元の立ち位置に戻って一つ頷いた。


「さ、始めるのだよ。まずは、わらしが実際にやってみせるからの。目で見て、そこから感じたことを好きに質問するのだ。やり方もちゃんとみるのだぞ」


 猫も子供たちも何にも持っていない中授業が始まったけれど、ただ見ていればいいのか。簡単なの。


「まずはおさらいなのだ。厳密には同じ結果じゃないけど、同じ目的を目指す方法は結構あるのだよ。例えばー」


 猫は履いたばかりのスリッパをポイポイと脱ぎ捨てて裸足の足で一歩踏み出し、右の爪先を床に触れさせた。


「と、その前に。 今からやるのは今までやったことのある火気よりも水気よりも危ないのだ。勝手にやってもいいけど、理解出来てない部分があったらやったらダメなのだぞ。練習するなら最低限を超えてからなのだ」


 猫の瞳が真剣味を帯びて、黒目に鋭さを増す。

 床に触れたまま喋っている間、動かさなかった足先をタシタシと踏みしめてまた一つ頷いた。


「見えない子は近くに来るのだぞ」


 そう言った猫はその場で、足で確かめていた床に這いつくばって白い欠片で床に直接線を引き始めた。

 猫から遠い席の子供から疎(まば)らに席を立ち、寄っていく。

 隣の子供は立ち上がる様子がないけど、僕は気にしないことにして猫のそばで見られる場所を探しに席を立った。

 わらわらと集まりだした子供たちの背でよく見えないから、どこかないかなと思いながら白薔薇を抱きしめたまま近づけば、子供たちは道を開けてくれる。

 嬉しいけれど、もっと自分たちの勉強に貪欲でもいいと思うのに。

 それでも僕も見てみたいので「ありがとう」とお礼を言いながら微笑んで通してもらった。お礼を言うと子供たちはみんな照れてる、かわいい。

 開けてもらった道を通り抜け、そばまで近寄って見た猫は尻尾を立てて、ゆらゆらと揺らしながら床に綺麗な模様を描いている。手足に力が漲った四つん這いで夢中になって猫が描く模様は、手で描いているとは思えない滑らかさとバランスの良さで職人技を感じるのです。

 猫はみんなが見つめる中で、すでに描いたところを踏まないようにぴょんぴょんお尻を跳ねさせながらどんどんと描き進めていく。

 もう少しで始めに描いた線と今の線が繋がるかという時に、誰も見てなかった引き戸がバチコン! と音を立てた。

 突然に音がしたせいで何人かの子供がビックリしてちょっとジャンプ。

 その音には猫もビクンッと反応してしまい、線が歪んでしまった。


「なぁー! なんなのだ、なんなのだまったく!!」


 猫が音のした方を睨み付けると、そこには髪をシュッと纏め上げた出来る女の人の見本みたいな人がいた。


「こらっ、なんのつもりなのだ! わらしの授業を邪魔しに来たのかの!」


 猫の言葉にその女の人はため息を吐きつつ、やれやれという顔と仕草をした。


「邪魔したいわけじゃないけどさ、主任。なんでまた床に直接描いちゃってるわけなのさ」

「実際にやって見せた方が覚えることが少なくて済むのだ。なんで他の人は訳のわからぬ単語を使いたがるのかの?」

「それはいいよ。私も思うし。ま、テストじゃ点は取れないけど。てか、そうじゃなくてさ、主任はいつも描いたら描きっぱなしで掃除してくれないでしょ。ならやめてって言ってるの!」


 そうか、猫は後片付けしない派なのか。それは叱られても仕方ないな。


「一回使えば焼き切れて使えなくなるから危なくないのだぞ?」

「そうじゃなくて、片付けないとだめだって話なの! そのままにしてたらどんどん汚れるでしょ」


 猫は首を捻って理解を示さない。


「お前が今いる通路を見るのだ。汚(きちゃな)いぞ? ならそっちと変わらないのだ。気にすることないのだ」

「それがダメだから来たんでしょ!」


 部屋に、出来る見た目の女の人の声が響いた。

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