楽しそうな授業
窓の外からしゃがんで覗く、猫の授業を子供達と一緒に聞いていると意外と楽しい。
たぶん学校ってこんな雰囲気ではないかなと思うのです。
「先生! 呪文の授業はしないのー?」
襟足がちょろりと伸びた男の子が一人、手を挙げて質問をしました。
襟足くんの質問に対して、猫は考えるような唸り声を上げてから口を開いた。
「呪文なんて時代遅れなのだよ。一言一句間違えてはならぬ上に間隔も重要になるからの。非常時は疎か、なんでもない時でも失敗することが多いのだ。学徒なら道具を使って賢くスマートに、なのだよ」
その猫の言葉に思わず疑問を発したのは襟足くんじゃなかった。綺麗な姿勢で椅子に座る、右手のシュッと伸びたメガネでおさげの女の子なのです。
「では道具がなにもない時などはどうすればいいんですか? 知識だけでもあれば、いざという時違うと思うんですけど」
女の子は見た目通りに賢げなことを言う。
その言葉に対して、猫はチッチッチッと左の前足を振り振りした。
仕草からして猫はもしかしたら人差し指が一本立っているのかもしれないけど、もこもこの手を見てもちょっとわからないのです。
「生半可な知識なんて無いも同じなのだ。それこそ、そんなものは魔法なのだよ」
猫はフフンと鼻を鳴らした。
「えー、なんだぁステッキ振りかざして呪文唱えないのかー」
頭に付いたおっきなリボンが空でも飛べそうな女の子が猫の言葉に残念そうにしてる。
すごい大きなリボンなので風に煽られそうなのです。髪の毛持ってかれそう。
「ステッキなんてものを持っていたのならそれで地に陣を描いた方が確実なのだ。ステッキなんてそもそも呪文唱えるのにはいらないのだよ」
「そっかー」
「そうなのだ」
猫と子供達の授業は何の為になるかはよくわからないけれど、すごく楽しそう。僕も手を挙げてみたいのです。
おし、ちょっと関係者に話を聞いてみよう。
開いている窓のすぐそばの席に座っていた、なんか黄昏れてて猫の話を聞いていないふうの長い茶色の髪をした男の子をちょうどいいやと服の裾を引っ張ってみる。
すると男の子はなぜか一回天井を経由してから視線をこちらに向けた。
髪の毛が獅子舞の様にバサっと持ち上がったのです。
「おや、美しいお嬢さん。どうされました? わたくしめに出来ることでしたら何なりと……取り憑いているおばけのお嬢さんまで美しいですね。素晴らしい」
しまった。
人選を間違えたっぽい。変な子供なの。
けど僕から接触したんだし、いいか。
「これって僕たちは混ざってもいいやつ? 僕もハイハイって質問とかしてみたいんだけど」
「もちろんよろしいですよ。個人の席などありませんので、空いている私の隣にどうぞ」
良かった。
変な子供の受け応えが普通な事と、混ざっても問題ない事の二つの意味で。
ダメだと言われたらこっそり混ざらなきゃならなかったのです。
僕は隠れていた窓の下から遠慮なく立ち上がり、窓枠を跨いで中に入る。
結構高さがあるせいで、跨げずに片足をかけてお腹を擦るように乗り越えて中に入った。
少し窓枠にあばらのところをコリコリと当ててしまい少し痛い。
ジャンプしたら良かった。
「お邪魔しまーす」
そっと音を鳴らさないように床に飛び降りて、変な子の隣の席まで歩く。そして、椅子がギココと鳴らない様に気をつけて腰を下ろします。
白薔薇はフワフワと動かない様になんとなく抱きしめておいた。
「こら、遅刻なのだ? ちゃんと始めから居ないと置いてきぼりになるのだぞ。 気をつけるのだよ。でもまだ大したことは話してないから今回はいいか、なのだ」
僕を見つけた猫に注意されたけど、これってまた来てもいいって意味だよね。やった!
「それにわらしの話はそこで聴いていたしの。次からは遠慮しないですぐに入るのだぞ」
猫が僕が入って来た窓を指差して、そう付け加える。なんだ知ってたなら隠れた意味はなかったのか。
僕はメガネ女子を真似してスッとまっすぐに手を挙げる。
猫は「はい、そこのちこく人間」と僕を指してくれた。
「なんでそこに隠れて居たのがわかったの? 見えてた?」
すると猫はハーと溜息を吐いて、口元を前足で隠して咳を一つした。
「わらしのことを追っかけておいて何を言うのだ。なんで入ってこないのかの、と少し思っていたのだが、それは個人の自由なので放っておいただけなのだよ」
「そっか」
「そうなのだよ。よし、続きを話すぞ。と言ってもまだ始まっていないのだ。これから話すことでどこでも気になったら皆、ちゃんと質問するのだぞ。理解することは学ぶ者にとっての義務だからの。わからぬものを放っておいたらダメなのだぞ」
「はーい!」
あれ? 皆、と言われたのに僕しか返事をしないぞ?
不思議に思ってみんなを見てみると、全員がこっちを向いていた。
隣の変な子はさっきからずっとこっち見てるけど。
白薔薇はまだ唸ってる。よし、僕の名前はアレじゃないな!
「さあ、授業を始めるのだよ! 今日は電気式をするぞ。出来ることが増えるのは、たーのしーのだよ」
猫はそう言ってぴょこぴょこと跳んで踊る。
やっぱり楽しそう。
混ざったのは正解だなと頷いて、師匠の笑い顔を意識しながら僕は笑みを浮かべた。




