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まいごは今、異世界  作者: heina
ほぼ家出編
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夢のふわふわししょ

 少しウトウトっとしていると二度寝しちゃう寸前に着替えをそれぞれが一通りづつ持った真紅ちゃんが声をかけてくれました。

「寝るのはいいけど下着だけだと風邪ひくからなんか着なさいな」」」

 ああ、そういえば薄着だったな、とは思うけど白薔薇が温かくてネムイ。

「お布団……」

「おふとぉんて何? ……ま、二人でくっついて寝てるぶんには風邪も引かないからいいか」」」

 よくない……けどねむい……あぁ、ダメ人間になる。昼に寝てるやつなんてダメ人間なのです。

 師匠もタカシにそう言ってたからね……


 眠気というのは殆(ほとほと)強力なもので、渾身の抵抗は柳に風というふうにあっさりと僕は眠りに落ちてしまいました。晴れてダメ人間の仲間入りであります。

 馴染み始めた眼下に広がる火山帯からわかる、ここは夢の中。

 たまに夢で来られるジメジメな空の上でありました。

「あら、お昼寝? でもお昼寝にしてはまだ早いからお寝坊さんかしら」

 あの日にバスで会ってからは、こうしてたまに夢の中だけで会えるお姉さん。

 僕の頭の中だけで「パンツのお姉さん」と呼んでいる、汗でペタペタするパンツを新しいパンツに替えてくれたあの優しいお姉さんです。

「あら、もう「あります」は止めにしてしまったの? せっかく面白かったのに」

 ぬぬ、ダメ人間を少しでも取り繕おうとしたのに。パンツのお姉さんには考えただけの事まで伝わっちゃうのです。

「できればパンツのお姉さんってのも止めて欲しいのだけどな」

 でもパンツさんだって初めて会った時とはしゃべり方が違うのです。

「そんなに違う? あとパンツさんはさすがに嫌よ」

 もう、パンツさんは細かいのです。パンツさんじゃなければなんて呼べば良いのです。

「それはいろいろあるでしょ。例えば「綺麗なお姉さん」とか」

 ぷぷぷ、パンツさんは面白いことを言うの。

「面白くないよ! 実際にわたし今、面白くないもの!」

「むー、わかったの。違うふうに呼ぶからね。もう行こう?」

 機嫌が直ったけれど何て呼ぼうかな。

「うん! それなら良い。ええとね、そろそろ毎回いろんなところへ、なにしに行ってるのかはわかってる?」

 呼び名を考えているとよくわからないことを聞かれました。

「? ……遊びにだよ?」

 けれどお姉さんは首を振ります。

 初めて会ったあの日から、夢の中でお姉さんに会ったときは必ず遊びに出かけていました。お姉さんの言う色々なところとはそのことです。

 でもなにしにってなんだろう。ちょっと思い出してみます。

 えっと、二回目に会ったときは海に行ったのです。

 お姉さんと二人で服を脱いで、海で泳ぎを教えてもらって楽しかった!

 お姉さんの言う通りにすると、僕の犬掻きはずっと早くなるのです。コツは水を掻くときに、指の先に一瞬モヤモヤを捉えること。

 指先のブルブルで水と手をつなぐ感じです。

 この夢を見た日は起きてる時は穴掘りをしていたのだったかな。

 お姉さんが言うには、ここは海ではなくて、お風呂らしいのです。

 それなら裸も納得だなと思いました。

 お風呂なら、どこかに栓があるのかな。

 そしてその次の夢、三回目はすごく大きな図書館で遊びました。

 僕の三倍くらいの高さの本棚がずーっと十歩くらいあいだを空けて道のように両側に並ぶ、床にまで本が置いてある通路と空気が冷たくなるくらいに高く広い天井の図書館はちょっと暗かったのでした。

 この図書館には他に人が居なくって、とても静か。

 本棚の向こうに行ける道はないのだけれど天井は本棚の向こう、そのずっと先まであるので細い図書館じゃないのだと思うの。

 眺めながら本棚のあいだを歩いているとお姉さんが本棚に向かって手を振りだすので、どうしたのかなと僕がお姉さんの周りをくるくると回って観察していたら、本棚の上から音も無く、僕の頭に柔らかい四つ足が乗っかって来たのでびっくりしてしまいました。

 頭の上に乗っかったのは白くて毛足の長い柔らかい毛に包まれた、長い耳が空へ向かってすっと立つ、光に弱そうなつぶらな蒼目に片眼鏡をした生き物でした。

 僕の頭の上からそのふわふわを抱き上げて、まじまじ見たうさぎ似のふわふわ。どうやって眼鏡をかけているのか不思議で、指で触ってみたい僕にお姉さんがこのふわふわのことお教えてくれました。

 お姉さんはこのふわふわのことをししょと呼びます。

 このししょさんが他にもここにはたっくさんいて、本の埃を取ったり本の破れたところを舐めて直したりすると教えてくれました。

 ししょに僕が「偉いんね」と褒めるとししょは「ムゥ、ムィ」と低く鳴くので可愛かった!

 ししょは僕の手の中から耳で床に積み重なる本を指します。

 そこでお姉さんを見上げると僕を見て頷きますが、一体どういうことだろう。

 僕はししょを床に降ろすとさっきの積まれた本の一番上にある本のページを開いてみました。

 その本に書いてあったのは「ぽ……これ……るな」といった風に半分以上が読んだことのない字で綴られていてさっぱり内容がわかりません。

 僕の勘だと美味しくないゴボウみたいな植物のことが書いてある気がします。

 そうやって本を読んでいると、また頭に四つ足が乗っかって来ました。

 もう、と頭の上のふわふわを掴むとそれはやっぱり真っ白なししょで、片眼鏡が無くなった替わりに立派なカイゼル髭を蓄えていました。

 この日の夢ではそのあと、たくさんのししょが出てきては頭の上に乗ってくるのを避けながら、本の片付けをほんの少しだけ手伝いました。

 おかげで避け方と重いものの持ち方を思い出しました。

 確かに前に、師匠が同じことを言っていたのですよ。


 そこでようやく、会ってからの夢を思い出していた僕はお姉さんに何のために遊びに行ったのかを答えられる答えを見つけました。

「わかった。わかったよお姉さん」

「うん、ずいぶん思い出してたね。ほとんど司書のことだったけどね」

「もうお姉さんには言わなくてもわかってると思うけど」

「ううん、全然わかんないよ」

 あれ? おかしいな。お姉さんには言わなくても伝わるはずなのに。

「そういう意味と違うよ」

「? じゃあ言うね。綺麗なガラスをね、拾って投げるとガラスが一個減るでしょ? それを投げるときに、ちょっとだけすごい人になれるって「うん、違うね。もっと思い出してみて?」

 あれ?違うのか……

 図書館のあとも二回、遊びに行った時のことを思い出すと、夢の不思議に気づきました。

 それは起きたらほとんど覚えてないんだけど、夢の中だと夢を思い出せるという不思議。

 忘れたのに夢だと思い出せるなんて、まるで起きてるときと夢の中が違う僕みたいだなと思いました。

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