大きくて何もしない
月白ちゃんが僕に頬を寄せて「あの子はびっくりしただけよ、嫌だったわけじゃないからね」と優しく笑いました。
その笑みは完全に年上のお姉さん。
うぬぬ「おやつの時間だよ」って言われて「わーい」って跳ねてたはずなのに、これは一体どうしたことだ。
……おやつだよって今言ったら跳ねるかな。
「おやつだよー」
「んふふっ、どうしたの? お腹すいちゃった?」
耳元で囁いたからか月白ちゃんが擽ったそうに笑いました。
うーん……
「立たなくていいよ! 座って座って!」
僕が悩む横では月白ちゃんが声が届くように大声で、大きなお友達にお願いをしています。
大きな優しいお友達は少しの間を空けてから、ゆっくりとその身を大地に降ろしはじめました。しゃがんで、両の手を地面に置き、そのまま三角座りをするのかと思ったら僕達と王様達のいない方へと足先をずりずりと押し下げて、腕立て伏せをするような体勢になろうと持っていきます。
たぶん、座っただけじゃまだ高いと思ったのでしょう。その優しさの両足蹴りが地面をガリガリとすごい音を立てながら森の木々を纏めてなぎ倒していきます。
そして優しさの余波の土煙が凄く立ち昇っているけれど土煙はちっとも僕らの方へは流れてきません。
目の前でうつ伏せて寝転ぶ巨体は見上げている時には感じきれなかった上への高さを、蹴り纏められた木々との歩いていける地上での距離という形で思うよりも高かったのだと実感されました。
けれど土煙の動きの方がちょっと面白い。
モコモコと輪郭のない土煙がだんだんと細くなろうとしているような気がします。
そこで頬に圧力を感じるままにクイと右を向かされます。
「ほら、神ちゃん見て。……どお?」
未だ抱き上げられたままに月白ちゃんからほっぺを突かれて見た「どお」と言われたでっかいお友達は、人の形はしているけれど、高いところから降りてきた陽の光を翳らせる目の前のその頭には、目も口もありません。
どこも見ないその顔には、腕と同様に含んだ原石がいくつも顔を覗かせているだけです。
口があるとしたら口端の辺りにある原石から覗く緑色を見つめていると、決して近づいてこなかったもうもうと上がる土煙が生き物の様にうねりだして空を蛇が泳ぐようにくねりながら遠ざかっていくのが目に入りました。
ああ、お別れかと思えば、僕は自然と土煙を見送るために手を振ります。
土煙は反応をすることもなくそのまま立ち昇っていくけれど、別のものがこの僕の手に反応を示しました。
反応したのは大きなお友達の身体ではなく顔でもなく、顔に埋め込まれた原石から覗く宝石。
それらが一つ一つバラバラに明滅を始めたのです。
「わ、綺麗。けどもっと光が多いと楽しそうなのになぁ」
泳ぐ土煙と目の前の大きなお友達に意識を持って行かれている間に、いつの間にか側までやって来ていた王様達の中から漆黒ちゃんが誰に話すでもなく感想を漏らします。
「そうだね、綺麗。だけど宵闇の髪を毎日見てるからこのくらいの方が意外に新鮮じゃない?」
「えー、私の髪だっていつもピカピカたくさん輝いてるわけじゃないもん。この子にだって負けないんだから」
さらりと髪を撫でた紺碧ちゃんに、撫でられた宵闇ちゃんが負けん気を出したけど、真紅ちゃんが宵闇ちゃんを追い抜きざまにぽぽぽんと頭に触り一言。
「いや、別物でしょ」」」
「えぅーん?」
この場合の別物はいい意味だと思うけど宵闇ちゃんに伝わっているかは微妙な気がする。
宵闇ちゃんに顔を押し付けたまま歩いている王様は肩の上のビバちゃんには髪を喰まれ、水色ちゃんにはお尻をぺろーんと撫でられているけれど押し付けたその顔は上げません。
オレンジちゃんと白群ちゃんは何かを二人で話していたので、二人に向かって手を振っても気づいてもらえませんでした。
そうやってみんなのことばかり見ていたら月白ちゃんにほっぺたを指でぐいーっと押されて大きなお友達の方へと視線を戻されました。
「もう。ほら、見て見て。神ちゃん、出来そう?」
出来そうってなんだろう?
僕は月白ちゃんの目を見ながら首を大きく右に傾げてみせます。
じっと見つめてくる月白ちゃんの瞳を見て、これは伝わってないなと感じた僕は、もう喋ればいいのだけれども楽しそうなので声に頼らずに動きで伝えることに拘ることにしました。
目を瞑って、首だけでは傾かない角度まで体も使ってぐいーっと地面が真横になるまで傾けてみます。
そろーっとどうかな、伝わったかなと薄めで確認。
あ、ダメだ。月白ちゃんの顔がバランスを取るために反対に向かって遠ざかってる。
体の角度を元に戻して考えます。
角度じゃ伝わらない、うーん。
首が勝手に右に傾いていくのを感じた時に、ハッとして左に。
「ふふっ、楽しくなっちゃった?」
月白ちゃんは笑うだけ。やっぱ右だからじゃないか。
わかってた、わかってたよ?
だから白薔薇、僕の顔に伸し掛からないで。落ち込んでないから励まさなくて良いの、頭は撫でなくてもいいから。
仰向けに月白ちゃんの腕の上で押し倒されたので、白薔薇を抱きしめて離さずにいれば宙に浮かぶ感覚を楽しめた。
「どう? どんな感じよ」
オレンジちゃんと話していた白群ちゃんが月白ちゃんに僕の頭の上で何かを話しかけているけれどなんのことだろう。
「うーん、やっぱり見えはしないみたい。見えないと難しいかも」
「ふ〜ん、じゃあすぐすぐは無理?」
「神ちゃんがやるぶんにはね。でも友達になっちゃったみたいだから、この子達が勝手にやるんじゃない?」
「へぇ、なら良いじゃん。自分でやるよか良いと思う」
なんのことを言っているのかがわからずに白薔薇の頭の陰から話す二人を見ていたら、僕の視線を見つけた白群ちゃんが笑顔で僕の頭を撫でてきました。
今日はよく頭を撫でられる日なのです。
なんとも言えない話の進まなさ。




