王様は泣かない、怯えただけ
「怖いと思うことは大切だけど、気にしないことも重要よ。もし、危なくて怖いものが目の前にあっても、怖くて体が動かないと死んじゃうでしょう?」
あの日、師匠はそうやって褒めてくれた。
何をしていた時だったのかは朧げで、抱き抱えられていたくらいしか覚えていなくて。
さっぱり意味もわからなかったけれども、褒められると嬉しいものなのでした。
けれど時間が経てばわかると思っていた師匠の言った言葉を、僕は未だに飲み込めていません。
僕には師匠の言う怖いという事がよくわからなかったから。
木陰によって、浴び続ければ暑すぎる熱線を程よく遮るちょうどいい陽射しの中で会った月白ちゃんのお友達は、ツルツルでゴツゴツのイケメンでした。
力強い腕が下草を跳ね除け大地を突き破り、僕の背よりも大きく聳え立っています。
その腕は太く頑丈そうで、土色の硬そうな光沢のない肌触りの良い本体に所々に煌めきを覗かせる何かの原石を嵌め込んでいて、おしゃれだった。
ちょっと小さいけれど地面から生えているという事は、月白ちゃんのお友達は地球ってことかも。
「はじめまして地球!」
元気よくあいさつしたけれど、地球は何の返事もくれません。
ぴくりと動こうともしないのです。
そっか、いつもそばに居たはずなのに、はじめましてとか言ったから怒ったのかもしれない。
「いつもありがとうね、地球」
感謝の意を示してみたけれど、これまた反応がない。
おかしい。何かを間違えている。
思いつく事となるとアレかな、呼び捨てとか馴れ馴れしかったかな?
それとも何にありがとうと言ったのかわからないから困惑させちゃった?
あれこれ考えていると、月白ちゃんが僕の頭をサラサラと撫でました。
「神ちゃん、ちきゅうってなに? 名前?」
あれ、ご存知ない。
僕はちょっと自慢げにしゃがむと、地面をパシパシと叩いた。
「地球!」
「地面のことをちきゅうって呼んでるの?」
地面のこと? 地球が? ……違わない、合ってる。
「そう、地面のこと……」
そう返したけれどなぜだろう、確かに地面は地球で合っているのに哀しさを感じてしまう。
「この子はちきゅうじゃないよ。神ちゃんがくっついてるから困ってるだけの優しい私のお友達だよ。このまま出てきちゃうと神ちゃんが怪我したら困るからって止まってるだけの優しい子」
僕はまだイケメンに抱きついたままで月白ちゃんに顔を上げます。
「だからちょっとこっちおいで。ほら」
月白ちゃんが両腕を広げてしゃがみ、迎えてくれました。
「ほら、この子も腕だけだといくら話しかけても声も届かない。立ち上がるまでこっちで待っててあげて」
「うん」
僕が月白ちゃんに近寄ると、月白ちゃんは軽くはないだろうに僕の事を簡単に抱き上げて歩き始めました。
初めて会ったときにはこんなに力強い印象はなかったけれど、近頃の月白ちゃんは背が高くなったように感じます。これは月白ちゃんだけではなく、他のお姉ちゃん達も同様に、初めて会った頃とは少しづつ変わってきているようです。
よりお姉さんらしく強くてしっかりとしてきているので、僕としては少し置いてきぼりを感じて寂しさが付き纏い、少し息苦しい。
こうやって少し悄気ているそんな時は必ず白薔薇が僕の頭を優しく触ります。
それは顔に出しても出さなくても、関係なくいつも優しく触るのです。
そういえばお姉ちゃん達とは違って白薔薇は会った時ほどたくさん話さなくなりました。
それと反対にくっついている時が多くなりましたけど。
一番小さいのに、お姉ちゃん達みたいにお姉さんぽい事はしないのに、なぜだか初めて会ったときから白薔薇は一番お姉さんぽいのです。
「ごめんね、もういいよ。起きて、私のお友達」
僕を抱っこする月白ちゃんがイケメンに声をかけると、大きな腕の肘が曲がって平手で地面をゆっくりと叩きました。
腕の周りの地面に亀裂が入って盛り上がり土煙を上げて肩が、そして背中が地面から放り出してきます。
「おっきー」
見上げるほどの上半身に僕は思わず口を開けてしまいます。
月白ちゃんと白薔薇は全然気にならないのでしょうか、横目にするくらいで僕の頭やほっぺたを触ることの方に熱心です。
僕が元いたみんなの集まる場所では王様が怯えて大変みたい。
宵闇ちゃんにしっかと抱きついているのを周りのお姉ちゃんたちに宥められて、王様の肩の上からはビバちゃんが頭を王様の耳のあたりに擦り付けて慰めようと頑張っていました。
そうしているうちに足まで脱け出たイケメンは立ち上がり、その威容を晒すのです。
「月白ちゃんのお友達大っきいねー。ジャンケンしよー!」
僕は月白ちゃんに抱き上げられたまま手をグーにしてイケメンに向かって伸ばします。
「はいじゃーんけーんぽい!」
僕はグーを出したけれどイケメンは動いてくれませんでした。
「なんでー? やだったー?」
そこでまた月白ちゃんはまた僕の頭を撫で、ふふっと笑ったのです。
書く時間取れなすぎて、話が十分くらいしか進んでない!




