地面から生えた腕
引き続き月白目線です
オレンジの真似は、予想通りとはいえ神ちゃんが上手に出来たので、あとはいっぱい神ちゃんが使って熟れるだけです。
オレンジほどに扱うのはかなり無茶ですが、使えば使うだけ扱いは長けていきます。絵が下手な人が練習すると上手くなるのと全く同じことです。
オレンジは神ちゃんがあっけなく取っ掛かりを掴んだことに半分つまらなそうにしていますが、これからする神ちゃんとの練習に思いを馳せ、楽しみにもしているようでした。
「月白ちゃーん! はやくー!」
そして今日は、私の順番。
ウキウキ顏の神ちゃん達が、少し私から距離を置いた場所から大声で私に声をかけてくれます。
少し距離を置いているのは私がお願いしたから。
「はーい。今やるよー!」
森の中の、下草まで光の届く木々の疎らなこの場所までみんなで集まりやって来て、今から始めるのは私の一番得意なこと。お友達を呼ぶことです。
私は早速、天気のいい青空へと両手を上げて、手のひらを空へと向けます。
「おいで!お空の子ー」
歩きながら空を撫でるように腕を動かして、沢山の空の友達の欠片に呼びかけます。
「起きて!大地の子ー」
地面を足で踏み鳴らし、ポンポンと篭る音で、土中に眠る大勢の友達の欠片に呼びかけます。
円を描く様にくるくると私が踊りながら友達の寝覚め待っていると、神ちゃん達は私と同じようにその場で踊り始めました。
神ちゃんがクルリとその場で回れば、神ちゃんの背中にくっつく神様は飛ばされそうになってしがみつき、神様のスカートがふわりとシワを伸ばして広がって、柔らかにまあるくなって。
それを見て王様がその場でクルッと回ると、王様のスカートは大輪の一枚しかない丸い花びらの蕾みたいに勢い良く窄まり、小さく緩く開いては、また逆回りに窄まります。
王様がふふふっと笑い、神様がえへへっと笑っているのを見ていると、神様の方がお姉さんには見えません。
ああ、宵闇が王様に抱きついて頬擦りしています。
辛抱堪らなくなったのでしょう。
他のみんなも神ちゃんの頭を撫でたりしています。
あああ、狡い! 私も撫でたいのに!
少しやさぐれ気分でも、いつもと同じに次第に私の踊って歩いた円上の軌跡からは見えないほどの小さく弱い光の綿毛が次々と空から降り注ぎ、大地からも立ち上ってきました。
この儚げな綿毛の一つ一つが私のお友達。
私以外には見えたり見えなかったりするミステリアスなお友達です。
このお友達は寝ているとき、この世界にははっきりと存在していないようで、星屑のようなキラキラしか見えません。
でも私が呼びかけると、キラキラは目を覚まし出しポワポワした綿毛に膨らむので、案外私にもこの子たちのことを寝ている時までは見えていないだけかもしれませんけど。
「さあ! みんなと遊ぶために手を伸ばして、足を踏み出すのよ! 怖がらないで出ておいで、可愛い私のお友達!」
その私の声と共に星屑の様な私のお友達は、その煌めきを燦然と、みんなに見えない強い光で瞬いて目眩しをした後、赫きを残したまま、その姿を地面から破砕音と共に顕現せしめました。
恥ずかしがり屋のこの子たちは、そのままだといくらキラキラの欠片から目覚めても、ほとんど誰にも見えません。なので、周りのみんなと触れ合う時は周りの物を使います。
「きゃー!」」
もう既に見慣れている白群達、大人組は平然としていますが、そのそばの神ちゃんは大きな瞳を輝かせて跳ねて喜んでいます。興奮で無言で跳ねる神ちゃんの後ろからは楽しそうな神様の声が聞こえて来ますが神ちゃんに隠れてほとんど見えず、見えても舞う髪先やスカートの裾くらいです。
逆にこの光景を何度か見たことのある王様は悲鳴をあげると、そばにいた宵闇の後ろに隠れてしまいました。
なぜか王様はいつも、ビックリさせた訳でもないのに私の友達に対して悲鳴を上げてしまいます。
だんだん慣れてきているし、王様自身、別段嫌いな訳でもないらしいのですが、王様はどうしてもはじめはいつも悲鳴からです。
神様の歓声と王様の悲鳴、そして神ちゃんの歓迎のもと、地面から生えてきたのは岩石と水晶と雲母で出来た右腕でした。
「なにこれ! おもしろい!」
生えた右腕に神ちゃんが走り寄ると、何の躊躇いも無く抱きつきました。
「神ちゃん、もし危ないものだったらどうするの。気をつけなきゃダメよ」
私の言葉に神ちゃんは不思議そう。
「何で危ないの?」
「硬いし、大きいし、何より神ちゃんはあの子達……あの腕を見たことがあるの?」
「無いよー?」
「じゃあ危ないかもしれないでしょ」
「ん〜? 何で危ないの?」
神ちゃんには何も伝わりません。
「えーっとね、知らないものは危ない可能性があるのよ? 例えばそこに生えてるキノコがあるでしょう」
私はそばの木の根元にに生えていた赤く色鮮やかなキノコを指差します。
「うん」
「どういうキノコかは知ってる?」
「赤いの」
「それから?」
「……?」
神ちゃんは首を捻ります。
「そのキノコはね、毒があるの。知らないで食べちゃったり触ったりしたら危ないよね」
「…うん」
「知らないってことは危ないことも危なくないことも両方起こるかもってことなの。ゲンコツするけどいいですかって誰かに聞かれても神ちゃんは嫌って言うでしょう?」
「うん、嫌」
「神ちゃんが危ないかもしれないものを触ったりするのは、ゲンコツしてもいいですかって言われたことにいいよって答えるのと一緒よ。いいよって言っても、もしかしたら本当にはゲンコツされないかもしれないし、本当にするかもしれないの。相手次第よ。だから知らないものには無闇に触ったらダメよ」
「そっかー」
神ちゃんは話に頷きながら、地面から生えた腕の拳を摩りました。
「それも危ないかもしれないのよ?」
話をわかっていなさそうな神ちゃんに諭そうとしましたが、やっぱり首を捻って不思議そうにしながらも、神ちゃんははっきりと私の目を見て一つ確信のもとに口を開くのです。
「月白ちゃんのお友達なら大丈夫なの」
本当はわかっていないのかもしれません。
本当に世界をよく知らないのかもしれません。
けれど私はその言葉に信頼と納得を感じてしまったのです。




