自分なりの洗濯を
月白目線です
昨日のオレンジの雷華はとても派手で、王様も神様も神ちゃんも喜んでいたのだけれど、肝心の技術供与はあっけないほどにすぐ終わってしまったようです。
神ちゃんにこういった一芸をみんなで教えてみようとなった切っ掛けから考えてみれば想定内なのですが、教えてみて出来た人が今まで少ししか居なかっただけに神ちゃんは珍しい子なのかもしれません。
切っ掛けとなったのは真夜中の話し合いの数日前。水色と紺碧と神ちゃんと私、月白の四人で洗濯をしていた時。
頑固な汚れと水色が闘っている時のことでした。
「ぬん、ぬん! どうだ、コンニャロ」
目の前に自分の背丈ほどもある大きな水の玉を空中に浮かべた水色が、腕まくりをして水の玉に腕を突っ込み、頑張ってブラウスの襟刳に付いた薄い黒ずみを揉みくちゃにしています。
型崩れなんてなんのそのです。
水色は毎回洗濯をしてくれていますが、洗濯するようになった切っ掛けは、みんながおねだりをしたからです。
桶に水を貯めて洗濯をすると、ずっとしゃがんだままで大変なので、洗濯はいつも水色に手を貸してもらっているのです。
「なんでいつも水色は最初水だけで洗濯しようとするの? 濡らしても綺麗にならないのよ」
先ずはじめに汚れのひどいものだけを手で洗うとはいえ、わざわざ大変な方法を選ぶ必要はありません。
でも私は口に出して言いはしましたが、本当は分かっているのです。
水色のこれは趣味なのだということを。
「もちょっと! 今度のはなんか、いけそうな気がするから!」
「そなの」
私は楽しそうな水色を、傍まで転がって来てもらったちょうどいいコロンとした岩に腰掛けて眺めます。
紺碧は全然洗濯が始まらないので、手元に作った空中の波紋から盥を落とし、また別の波紋から水を盥に流し込むと、洗濯物を一枚手に取り先に洗濯を始め出しました。
紺碧はしゃがむのがやっぱり嫌だったようで、目の前に作った波紋と盥の直ぐ真上に作った波紋を繋げて、立ったまま洗濯を始めます。真ん前に出した紺碧の手が足元の盥の中で泳いでいるのは少し面白いです。
まだやらなくても、洗濯は水色が満足したら、全部を大きな水玉に投げ込んで、水玉の中で洗濯物を泳がせて一遍に洗っちゃうので見てても平気なのですけどね。
私たちは洗い担当ではなく、洗濯物を投げ込む係なのです。
飽きずに汚れと闘う楽しそうな水色を見ていてわかるように、私たちは楽しいことに貪欲です。
水色みたいにいつもやる事が決まっている娘も今は三人くらいいます。
何気にいつも頑張っている紺碧の家事全般も、楽しくて仕方ない趣味だったりします。
飽きてやめる娘と新しく始める娘のサイクルで廻ってはいますけれど、いつも誰かしら何かして楽しんでいます。全員が何も趣味がないことはここ最近はありませんね。
私たちがこう、貪欲なのは生きることへの必死さが薄いからだと思います。
これはずっとダラダラして生きてきた代償なのですね。
必死で生きると無駄は削ぎ落としたくなるもののはずなので、多分そうです。
ふと見遣れば、神ちゃんは夢中になっている水色を見つめていました。そして見つめた後、自身も腕まくりをはじめます。
神ちゃんはシャツを一枚手に取ると、水色の真似をはじめました。
でも神ちゃん、そのシャツは真っ白で汚れてるとこないよ!
私がそれを口に出す前にシャツは水玉に突っ込まれてしまいました。
しばらく二人が洗濯物を揉んでいるのを眺めていると、ようやく水色が一先ず諦めて水の玉の中へと洗濯物を泳がせ、手を水から出します。
「うぬぬ、てごわい。仕方ない、いつもの奥の手だ」
今日も洗濯物に勝てなかった水色の手からは、いつもの奥の手が生み出される準備がはじまります。
手に残った水を目の前の大きな水玉に擦りつけ、片目を瞑って手を持ち上げると準備は終わりです。
このいつもの奥の手というのは、泥で汚れた手を水で洗い流すような手のことです。つまりは効果抜群な普通のことの事ですね。
水色が親指と人差し指を摘み合わせると、合わせた指先からはパチリと雷の跳ねる音を皮切りに、ポポポと音を立てながらじんわりと水が放たれだしました。
水は指先に留まり宙で球になってゆきます。
この奥の手、水色が言うには少しの塩がポイントらしいですが、おそらくそれは手作業全部が出来た上でのポイントです。
パッと見ているだけでも水色の奥の手は、五つの事を並行作業して出していることが見受けられますが、やらなければならない作業はもっとずっと細かく、多いのでしょう。
水を出したり、分け分けしたり。雷も出ていますね。わたしにはちょっと無理。でもこれがいつもの洗濯で、水色の普通のことなのです。
そうやって出来た奥の手を手に、水色はブラウスの黒ずみを落としにかかりました。
奥の手はみるみる黒ずみを薄くしていきます。
「ふふふ、さすが奥の手。まさに必殺技なのだ」
水色が暗く笑い、勝ち誇ります。
因みに水色ならこんな奥の手を使わなくとも、黒ずみ自体を操り、持ち上げることもできるのですがそれはちょっと違うのだそうです。前に暴虐がなんとかって言ってましたから。
水色が悪い笑みを湛えているのを眺めていたのは私だけじゃなかったようで、いつからかまた水色のことを神ちゃんがじっと見つめていました。
神ちゃんは服が濡れることなど構わずに、自分が水につけて揉んでいたびちゃびちゃのシャツを抱きしめて、瞬きすら忘れています。
「神ちゃん、お腹冷やしてコロコロしちゃうぞ」
私が神ちゃんに近づくと、思った以上にびちゃびちゃで、足元には水溜りが出来ているほどでした。
そして不思議なことにその水溜りは今もその大きさを勢いよく拡大し続けているのです。
その水の発生源はもちろんシャツなのですが、水玉から出して、幾らか経っても流れ落ちる水の勢いは止まらずにいます。
シャツから水が流れ出続けるのを見て、ようやくそこで私は神ちゃんが、手から水を出すところまで水色を真似していることに気がついたのです。




