師匠、しがらみがうっとい
城で仕事した次の日。空は晴れ渡り、絶好の散歩日和になった。
こんな晴れた日にはうちの子と、よく散歩に行ったものだ。
公園に行ったり喫茶店で甘いものを食べたり、絡んできた馬鹿をぶっ飛ばしたり。
はあ……
さっさと先へと進みたいのにノリスケが取っ捕まってしまった。
確かに犯罪行為はしたし、以前から捕まる理由には事欠かないのだが、此度は意味合いが違う。
見た目、この国のお姫さんになったノリスケを王城関係者の誰かに見られてしまったため、城からの迎えが来てしまったのだ。
昨日この先必要なものをホテルに荷物を置いて身を軽くしてから、晩飯食いに行くついでに買い物に行って、次の日に出発。とか、しなけりゃよかった。大して必要な荷物もなかったのに。
「姫様、ご無事でしたか!」
「無事じゃねぇっーの。いっぺん死んでるわ。なんなら今現在死んでる最中だわ」
「姫様! どうしたのです、その口の利き方は!」
「姫じゃないし。ほら見てみ、羽根羽根」
ノリスケ達がなんかワヤワヤやっているのを、俺が城に行っている間にノリスケが待っていたホテルのロビーに設えてあるソファーに寝転がりつつ、横目にして大して何も考えずに声を当ててみているが、俺はちっとも興味も関心も湧かない。目に入って事実として認識しているだけで、それだけ。
言葉がさっぱりなのでそれも致し方ない。
見ていると、どうにも柵が付いてくる感じだし、もうノリスケを置いて行っちまおうかとも思ったが案内がなくなるのは避けたいのでこう、如何ともし難い。
柵とは本人以外にも絡み付く、玄関に張られた蜘蛛の巣みたいなもののようだ。まったく、見えづらい上に取りづらい。なんとも面倒だ。
「はあ、世は並べて事も無し……世が変わったのにな、何なんだ……それともやっぱり違うのか……」
漸くノリスケ達の問答が終わると、ノリスケが声をかけてくる。
「すみません。いきなり私達の長話でお待たせしておいてなんですが、ちょっくら話つけてくるのでもう少し待ってて下さい」
「えー……ま、いいや。あんまり先を急いて焦っても碌な事にならないだろうし」
そう言って俺はあくびをしながら伸びをした。
「ありがとうございます。本当はしらばっくれようかとも思ったんですけど、ちょっとダメだったし嫌だったんで、あちらさんが望んで目的地に行くのにサポートして貰おうかなと」
ノリスケが言うには、おそらくこの世界に甦りを齎しただろう神に、この間会ったのだそうだ。
「凄い人達、ともすれば神と呼ばれる人達が「神ちゃん」と呼んだ人がいたんですよ。タイミング的にも神という呼ばれ方にしてもピンとくるのがその人だけなので、会ってお願いしてみようかと思います」
しかもその神と会ったのはうちの子からの手紙を託された場所での事らしい。
「私、死んでますでしょう」
「ん。この女の子がな」
俺はノリスケを指差す。
「そうです、私ですね。で、私はここのお姫さんって言ったと思うんですけど、私が猫さんに同行するのにあちらさんが待ったを掛けて来たので「私死んでるんで神様の所まで行って生き返ってきます」って言えば納得しないかな、と」
うん。こいついまいち喋りが下手だな。喋りと言うより下手なのは纏め方か。
鳥だから仕方がないのか、元々あんまり賢くない方なのか判断に困る。正直俺からしたらどっちでも変わらないからどうでもいいが。
「話をつけるってそれか。早めにな」
「はい」
俺の結構明け透けな言葉にノリスケは普通に返事を返してまた戻って行った。ノリスケに思うところはないのだろうか。
それとも俺が思うほどには素っ気無くもないのだろうか。
ノリスケの後付けの用事は結構いい方向に進んだ。
あのまま急いで出立していたら徒歩での移動だったはずなので、大して進めていなかっただろう。だが、ノリスケのお蔭で移動手段を手にすることができた。
その移動手段、まあまあ四角いボディに黒ベースのカラー、ライトは付いておらず、大き目なタイヤを履いたエンジンカー。それに今、俺とノリスケが二人揺られてパレードの如き見世物になりながら、国外へと続く大通りを挙って道の脇を固めた国民に見送られ声援と共に送り出されている。
声援は大勢の声が混ざっている時点で判断がつかないのだが、そもそも何を喋っているのかわからない。何事かを声高らかに叫ぶ奴がこれだけいるのは、はっきり言ってまあ怖い。なるべく見ないで意識もしないでおく。
「案外あっさりだったな、話し合い」
揺られる車の上でノリスケに話しかける。因みに民衆に手は振っていない。
「そうですね。所詮俗物ということなのかもしれませんが、簡単に纏まってくれて良かったです」
これまた手を振ることをしないノリスケが言うには、一悶着あるかと思われた話し合いの場で、この国の判断は始め、ノリスケを据えることを良しとしていた。だがノリスケの提言により、それよりもノリスケが神に携わり、姫自身を生き返らせてもらうということを選んだ。
それはこの神に直接復活させてもらう行為自体が益になると考えたようだからだ。
直に復活してもらうことで、何も知らない他人から見ればノリスケが神とのコネを持っていると映ると踏んだのだろう。
神に選ばれるという選民思考がベースになっていそうだが、それは俺が襲い崩したあのおっさんらの思考と何が違うのだろう。同じに思えるのは俺の考えが浅いからだろうか。
後ろを振り向けば、俺らの後ろに続く見送りの為出てきた屋根の上に手摺の付いたバスのような白い車両の上に乗る人間が周囲に笑顔と手で愛想を振り撒いている。
そこに混ざって乗る偉そうなおじさんが、声には出さないが目と表情で手を振るようにこちらに促してきた。ノリスケの方には口パクで恐らく「姫!」などと吼えている。隣のノリスケは後ろなど見もしないのにだ。俺に伝えろとでも言うのだろうか。
そんなものはもちろんと無視して前に向き直り、だらりと身体の力を抜いた。
「だるい、何なんだよこれ」
「あー、そですねー。車と旅費貰ってきたからかなー?」
俺とノリスケはだらりと空を見上げた。
運転手不在の車はエンジンを低く唸らせて人垣の付設された大通りを進む。理屈はさっぱりわからないが、この車は運転手がいなくとも道を違えず勝手に進んでいく。謎すぎてちょっと気持ち悪いのだが、自分で運転するのはだるいのでありがたいから文句はない。
不安がなくもないが、自分の運転よりもノリスケに任せるよりもなんとなくマシな気がする。
もういい! 考えてもわからぬ! 楽だから構わぬ! 謎技術、どんと来い!
いざとなるまでは任せた!




