はしゃぐ妹と不安そうな大人達
私が手を洗っていると二階から妹の呼ぶ声が聞こえてきました。
「おねー!花が咲いてるの!」
「どこに〜?」
返事をしながら手を拭いて、妹のいる二階への階段を登っていきます。
「あっちの森のうえー」
「もうそろそろ花の時期も終わるのに、珍しいわね」
この森には、低い場所に花を咲かせる木がそんなに多くはありません。
お母さんに言わせるとたくさんあるらしいのですが、私には見つけられないのです。
大抵の木は、ずっと上の方に小さく花を咲かせるので、近寄っても花は全然見えません。花を見るのなら、家の二階からが一番綺麗に見えるのです。
ですが、もうそろそろ暑くなる頃。
花が咲くには少し遅く、この間からの暖かな日に咲いていた花達は既に落ちてしまい、今はもう次の命の種を紡いでいるところです。
どんな花が咲いているのかウキウキしながら階段を上がっていると、登り切る手前で外から小さな雷の音が聞こえました。それも重なった、幾つかの雷の音が聞こえてきます。
「あら、外は晴れているのに雷が聞こえる。昼前から夕立ちでも来たのかな」
夕立ちは雨がありがたいので喜ばしいことなのですが、雷はいけません。
家に落ちれば危ないし、森の背の高い木に落ちても火事が起こってしまうかもしれないからです。
「わっ、わっ。おねー、早くっ! また花が咲いたよ! 今度はさっきよりおっきい!」
「うん? どれどれ」
妹の隣から覗いた窓からは晴れ渡る青空の下に走る消えかけの光の花が、霞みそうな程遠い森の先で咲いているのが見えました。
「うわ、綺麗だね。雷かな、あれ」
窓枠の下縁を掴んで、足をパタパタさせる妹は「へー、雷なのに怖くないねー」とすぐに消えてしまう、光る花のあった空から目を離しません。
妹は少しも不思議に思っていませんが不思議な形の雷です。雷は普通、下に落ちるはずなのに、あれは花びらみたいにたくさんの雷が上にも横にも伸びていて私は見たことがありません。
「変な形の雷だね」
私の言葉に妹は首を傾げます。
「? 下から見たらああいうのじゃないの?」
「横から見てるんだから下からじゃなくない? 私にもよくわからないけど……」
「雷のもとがむこうにあって、こっちに落ちてきてるんだと思うよ」
妹は、昔は私にもわかっていたはずの自信と根拠をもとに言い切ります。
ですがもう私にはいまいちよくわかりません。
そんなことを話しているうちも雷は、次々と音を残して光っています。
雷で出来た花は一つ咲くと消えて、そのすぐ後に花を増やしてまた咲いてを繰り返していて、どんどんと大きな花束みたいになっていく。その大きさはもう雲を追い越しそう。
その光景に私は目を奪われて、妹は髪を揺らしてお尻を跳ねさせてはしゃいでいます。
窓の外もだんだんと騒がしくなっていました。
下の方から慌てるおじさんと、近所の大人達の声が聞こえてきます。
「おい、もしかしてあれって! 村長! 村長はどこに御出でか!」
「村長なら自宅にいるんじゃない? でもどして村長?」
「わかった!俺呼んでくるわ」
「いや、サリ。覚えてない? あの話。あたし達が子供の頃に村長が話して聞かせてくれたやつあったじゃない」
「はー」
「くはは、サリ。相変わらず抜けてんな」
「煩いし、黙れしおっさん。それよか思い出せないから、なんの話だったか教えてよミル」
「仕方ないなぁ。ほら、あれだよ。サリがめっちゃ泣いて大変だった話があったじゃない。業突く張りおじさんの森の神様とのケンカの話」
「えーっと……森でキノコを食べられるだけ食べて、キノコが嫌いになった、あの……?」
「それで泣く奴いなくない? ケンカもしてないし。ちがうよ、えっと。貴様のような生き物を人間というのならば、私はその全てを滅ぼそう。たとえ幼くとも、いずれ貴様になるのであればその者は人間なのだ。ってやつだよ。思い出さない?」
「あー……? おじさんの娘が死にかけたやつ?」
「そう!多分それ」
近所のお姉さん、サリさんが話している話は私は聞いたことがありません。
ですが、どうやらあの雷はそのお話に出てくるものとそっくりのようです。
下からは、あれがお話の神様のものなら、もしかするとまた誰かが良からぬ事を仕出かしたのかもと相談をしています。
いつの間にか私達の後ろには不安そうな顔をしたお母さんとお父さんがいて、私達の頭を優しく撫でてくれました。
お父さんの撫でてくる大きな手を頭で押し返して笑う妹と対照的に笑う両親を見ても、私には不思議と不安は感じません。
私にはあのたくさん咲いていく雷の花が不思議と楽しそうにしか見えないのです。
大人達の会話が長すぎたので煩わしいとバッサリ切ったら話短い!
もっと上手いこと出来ないものか。




