森のそばに住む姉妹
普通の姉妹の目線です。
その日、私たちは森に山菜を摘みに出かけていました。
この森で採れる山菜にはいろいろなものがあります。
小さいものや、くるくると先が巻いたもの。大きくなる前の芽。
いろいろあるけれど、だいたい柔らかいものが食べられる山菜です。
本当は柔らかくてもエグくて食べられないものがあったりと、もっともっと細かくて難しいんだけど、私にはまだわかりません。
きのこは山菜よりも少し難しくて、毒がしっかりあるものがあります。
そういう難しいきのこは知っているものだけを取る事が大切です。
毒のない、食べられるものをしっかりと覚えてからじゃないと危なくて、とても取りには行けません。傘が窄んでいて、茶色くてツルツルしている小さいやつという特徴だったならそれを厳守。
似ているけれど、これかな? というものには手を出さない。
特に、少し大きくないかなと思うものには注意が必要だったりします。他の種類のきのこがそういう風に育ったりするからです。
きのこを採る時は冒険をしない。
これが鉄則です。
まぁ家に帰ってから一度、お母さんが間違えて採っているといけないからと目を通して、食べられないものを避けるんですけど。
そういった、お母さんに教えてもらった事をお姉さんらしく妹に教えながらお日様の登り切る前の明るい森の端っこを二人で歩きます。
「おねー、これはー?」
後ろからついてくる妹は、私とお揃いの茶色くウェーブのかかった長い髪を揺らして、私のお下がりのシャツに上着とスカートを履いています。
森に行くのだからズボンにしなさいと言ったのだけれど、どうしてもスカートが履きたいと言って聞かないので怪我をしないように下にズボンを履かせたので少し暑そうです。
「これは微妙だからやめておいたほうがいいね」
「はーい。あ、おねー。あっちに何か生えてる」
すぐさま採りに行こうとする妹の手を掴んで引き止める。
「こら、あっちは行っちゃダメ。お母さんにも言われてるでしょ」
妹の向かおうとしたのは森のちょっと奥側。
この森は私が生まれるよりもずっと前、おばあちゃんも子供の頃におばあちゃんから聞いたというくらい前から神の住まう森として崇められています。
そしてまた、どこかに魔神様の実家があるとも聞かされています。
普通の人間は、この森の奥へは入ってはいけないと小さい頃から聞かされて育ってきました。
話によるとその昔、今はもう無くなってしまった王国のお姫様が病に罹ってしまったのだそうです。
その病はお姫様の髪を白く染め上げ、視力を奪い、耳を奪い、果てには四肢の自由さえも奪うという恐ろしいものでした。
その病を治す為には森のどこかに生えている、ガラスのように透けて見えるという見た事もない空色の花がどうしても必要だったのです。
王様は治す術がある事に安堵して、直ぐにその花を採りに行かせようとしました。
ですが、そこで王様は一つ思いついてしまったのです。
その花の咲く森は当時からすでに、古く人々に大切に崇められていました。森に生きるはずの木樵すら、この森の木には手を出しません。そう代々言い伝えられてきたからです。
その為、国に隣接しているにも関わらずこの森は領土の拡大に晒されることなく姿を保っていられたのです。
ですが今回は姫の為だという建前を得ています。
これに乗じて、花を探すという名目で兵を大量に派遣し、森を削り取ろうと画策してしまったのです。
王様の出した兵は花を求めて森を探し回ります。
千人もの兵が歩いた森には、道が見えるほどに草花が踏み固められました。
行く手を遮る木立は払われ、芽がつき始めた枝は折られ、大木が一千年かけて柔らかくした土は根ごと踏み固められ、痛めつけられてゆきます。
王様は上機嫌に鼻歌を奏で、一日が経ちました。
まだ兵士は誰も戻っては来ません。
王様が天気のいい空も下で昼寝をし、一週間が経ちました。
まだ兵士は誰も戻っては来ません。
やがて二週間が経とうという頃に王様は焦りだしました。
姫の目が見えなくなっていたからです。
けれどまだ兵士は誰も戻っては来ません。
焦れた王様は家来十人を供に自ら森へと入って行きました。
森の入り口からまっすぐに奥へと続く、踏み固められた道を王様達は進みます。
入ってきた森への入り口が見えなくなり、森の木々がその背の高さを増してゆくにつれ、切り倒された木の数は減ってゆきます。
斧傷だけを付けられてもなお切り倒されることない立木が増えてきた頃、気づけば踏み固められた道が途切れ出しました。
そこには兵士の姿は一つもありません。
千人いた兵士が一人もいないことや、ここまでの道のりがたったの数時間だったことに納得のいかない王様は辺りを探し回り始めます。
すると、すぐ近くに兵士達の痕跡を王様は目にすることになりました。
王様の目前に現れたのは、近くまで寄らないと森の木々に隠されて見つけられない小山のような盛り土と、それに刺さる巨大な鉄の塊で出来た十字の形をした物と千本の剣でした。
王様は、どう見てもお墓に見えるそれに恐れを抱きました。
王様は墓前に跪き、森と兵士達にひたすら謝り続けていると一輪、手向けられた花を目にします。
それは王様が本来探していた、青く透けた花でした。
これは有名な昔話で、絵本にもなっています。妹もその絵本で読んでいるので森の怖さは知っているはずなのに。
絵本だといまいち身に染みないのでしょうか。
それとも落ちが弱いのかもしれません。本当の落ちはもっと恐ろしく、それに合わせて話自体もずっと恐ろしくて、子供でなくとも泣いて怖がります。
さっきの話は絵本での話なのです。
これは一度、うちのおばあちゃん直伝の怖い怖い語り口の、恐ろしい森のお話を聞かせてあげなければいけないのかもしれません。
それはもう恐ろしくて、私が聞かせてもらった時は森に近付かないどころが目を向けるのさえ嫌がったものです。
妹を怖がらせるのは本心ではないのですが、仕方ありません。
もし怖がりすぎたならば、これもおばあちゃん直伝の楽しくて優しい森のお話をたくさん教えてあげるので心配はありません。
森は怖がりすぎても親しみを持ちすぎてもいけないのです。
「でもおねー。あっちに行くと妖精さんに会えるよ」
昨日の夜、森の妖精と花畑と人間の子供の出てくる楽しい話をしたのは失敗だったかもしれません。
教えてもらう話には、ちょうどいい怖さの話がないから家に帰ったら作っちゃおうかな。
「妖精に会う前に怖〜いのがいるよって教えたでしょ〜」
そこで妹を擽ると妹が可愛い高い声を出して笑います。
「きゃはは、おねーいかない!いかないからやめー!」
「よし、わかったならやめるよ。ほらいこ」
妹の手を引いて今日はもう家に帰ることにします。籠はそれなりにいっぱいになりましたので。
二人で手をつないで家へと帰ると、お母さんが待っていてくれました。
「おかーさんただいまー」」
妹に籠を渡すと笑顔で駆けて行きます。
頭を撫でられ、はしゃいだ妹は家に入ると手を洗ってズボンを脱ぎ散らかして階段を駆け上っていきました。
妹は二階の窓から森を見るのが大好きなのです。
「おかえり、おねーちゃん。大変だった?」
そう言ってお母さんは私の頭も撫でてくれます。
「平気よ、あの子いいこだもん」
するとお母さんは笑顔で「知ってる」と答えたので、私も笑顔になって二人で笑い合いました。
書きたいとこまで終わらない!




