オレンジの放つ花
オレンジちゃん目線です。
ヒュルルルーと鳴る私の創り出した球は、周りに生えている木の背よりもずっと高いところまで上がると昼前の青い空の下、そこで上がるのを止めた。
「止まっちゃったよー?」
「終わり〜?」
王様と神様が私の服の裾を引っ張り尋ねてくるけれど、ここで終わりな訳はないよ!
このあと球は大気に混ざるエネルギーと共振して、空いっぱいまでその数を増やした後に、連鎖して大爆発を起こすのだ。音はそれほど大きくないが、光が空を覆うところなんかは見応えがあって面白いと思ってくれるだろう。
何の説明もせずにこんな派手なものを今、打ち上げたのはもちろん理由あっての事。昨晩、王様と神ちゃん以外で話し合い、為された神ちゃんの安全対策としての事だ。
一緒に暮らすようになってそれほど経たないのにも関わらず、神ちゃんは危ない目にちょくちょく遭っている。
私の知っているものでは、木っ端に襲われた時。
あの時は危険に自ら足を突っ込んでいたけれど自分でなんとかしようともしていた。心配要素が増えただけだったけれども。
あとは毒魚を舐めた時。
これは又聞きなので詳細がよくわからない。
とにかく神ちゃんが度々危機に陥るのは対応が追いついていないからだ。
例えば神ちゃんはじゃんけんで後出しのグーしか出せないようなもの。いや、どちらかといえば出す手が無いのだ。
ならば手を増やせばいい。
話し合い五秒でたどり着いたその簡単な道理をもとに、私たちお姉さん連合は神ちゃんのできる事を増やそうと各々得意な事を持ち回り教えていく事に決めた。
順番が面倒なので、もちろん全員いっぺんに教えてもいいのだけど、絶対一斉に喋って喧嘩するのが目に見えている、と昨晩ケンカしたのでじゃんけんと綾取りとにらめっこで仲直りをしながら順番を決めた。
そうしてやってきた一番初めは私の番。
神ちゃんに、やってみたいと興味を持ってもらえる事は何かと考えて、空に打ち出したのがあの球だったのだ。
「まだだよ、見ててごらん」
私の声に反応を示したかのように球は奏でる高音を震わせ出す。
ビバちゃんを抱く王様と神様は少し口を開いたままの顔で空に浮かぶ球を見て、神ちゃんは何も喋らずに口を閉じ、目を釘付けにしている。
思惑は違わなかったようだ。
「ほら、これからどんどん……あれ?」
なんかいつもと違う感じがする。んー?
空に浮かぶ球はいつもとそんなに変わらない。なんだろ?
その原因はふと見た神ちゃんで解決した。
「ちょっと! 神ちゃん出てる!」
違和感の正体は音だった。
普段は空からしか鳴らない紫電の弾ける音が下の方からしていたから変な感じがしたのだ。
「神ちゃん! 神ちゃん!」
空の球に夢中の神ちゃんの手からは弱くて細いが紫電が飛び散る。
「こら、話を聞きなさい!」
神ちゃんのふとももが少し危ないというのに揺さぶろうとも神ちゃんは全然話を聞いてくれない。肌でぱちっと弾けたりすると痛いのに。
仕方がないので神ちゃんの目を両手で塞いでみた。あれだけ見る事に集中しているのだから、そこを邪魔してみたのだ。
目を塞ぐと神ちゃんは目を閉じたようで、手のひらに神ちゃんのまつ毛がさわさわと触れる。
「まつ毛長いね、神ちゃん。……聞いてる? 神ちゃん」
目を閉じた直後、神ちゃんの指先から放たれる紫電は少し勢いを増すと、またまつ毛が手のひらを撫でてから紫電は止んだ。
「オレンジちゃん、見えない〜」
神ちゃんは不服そうにそう言い、目隠しをしている私の手をぺたぺたと叩いた。
「神ちゃん、指からパリパリって出すのは
「そう! オレンジちゃん、僕もあれやりたい! 出し方教えてね!」
目隠しを解いて話を聞こうとしたけれど、神ちゃんが話の途中で興奮して私の手を振っておねだりしてくる。
出し方も何も、もうすでに出てたんだけど何を教えればいいのか迷う。教えてってできない人かやったことない人が言う言葉じゃない? そうでもない?
「あのね! 指の……」
空の球に変化が起きはじめた。
言葉を出しかけで声を留めた神ちゃん。手からぱりっと出してまた危ない事にならないように、しゃがんで背後から神様ごと抱っこすると神ちゃんの手を握り、三人で同じ空を見上げた。
空に浮かぶ球はその場を動かないままで音だけを激しくさせていたが、球の付近に小さな新しい球がぽつぽつと生み出され始めてきている。
神ちゃんはもちろん、王様も神様も白群も真紅もみんなみんな始まった空のショーを見つめてくれていて、もう少し派手にしようかな、とそんな事が頭を過った。
上空で新しく生まれた小さな球は弱々しく、吹けば消えそうに見えるけれど、あの高さにあって空を背景にしながら目で見えるレベルの光な時点で、だいぶ高位のエネルギー体だったりする。
あれ一つで、このあいだの木っ端なんかを全体まとめて一網打尽はさすがに無理だけど、一本丸ごと焦がすどころか消し飛ばすくらいにはエネルギーが高いのだ。
次第に小さかったつぶつぶは、足りないご飯を求めて球同士の間隔を凄い勢いで広げつつ、大本のお母さん球と同じ程までに大きくなっては、周囲に伝播するように増える勢いを増していく。
その勢いは空を攻め滅ぼさんばかりだ。
「さあ、そろそろはじまるよ」
「はじまるの? 終わりじゃないの?」
頭上で球達が大合唱を響かせる中、神ちゃんが握った私の手をにぎにぎ揉みながら問い返してくる。
「うん、終わりなんだけど、その終わりが今から始まるんだよ」
その時、空でその終わりの始まりが顔を出した。
内包した圧力を解き放ち、始めに上がった球を一つ中心にして放射状に、紫電の花弁が大輪の花の如く空気を食む雷鳴を轟かせ、青空に花開いた。
「うわっ、凄い音!」
「雷みたいね」
「でもきれいだね」
ちょっとびっくりした神様に、王様と神ちゃんがそれぞれ感想を話している。
雷華は色こそ多種に鮮やかではないが、造形は万変で単色でこその濃淡の美しさがある。
嘗て人々に、死の御璽と呼ばれただけはある。
雷火の花弁の端は離れていく周りの子供達に届いているようには見えなかったが、力の切っ掛けはちゃんと受け渡され、次の開花が始まった。一つ目の単独と違い、タイミングのずれた重なり合う雷鳴の反響が大気を叩く。
バトンを受ける縦横無尽に空を征く子供達は、溜めた砂鉄に指を差し入れた時、弾かれ逃げるのと同じように、横はもちろん上へ下へと範囲を広げているので合唱はドーム状に空を埋めていった。
その音と光は自乗されてゆく。
「ねぇ、オレンジ。ちょっと低すぎない?」
空を指差す漆黒の言う通り、安全を確保するにはちょっと高さが足りなさすぎるかも。ドーム状でみんなが集まるこの場所は被害がなさそうに見えても、半球には形成されていないことを考えると脇から開花の端が降りてこないとも限らない。
「そうなの?」
私の手を揉み解す神ちゃんは些かの不安もない声で、少し眠そうでさえあった。
「ちょっとだけね? 大して問題ないよ。あれくらい弾くし。
でもどうしていつもより低くなっちゃったのかな」
高度が低いことを考えて、低いという言葉から無意識に足元を見る。
ああ、そうか。今日は神ちゃん達に見せることを念頭に置いていたから無意識に低くしていたのかもしれない。
「ちょっ、落ちる! なんかここまで落ちてきそうな気がするよ、危なくない? オレンジ」
白群が焦りというか、はしゃいでいるのか目で花弁の一片を追って言う。
「大丈夫だと思うんだけど、いざとなったら弾いちゃってよ」
「よしっ、わかった。みんな迎撃するよー」
白群の声掛けにみんながそれぞれに返事を返す。
手の届きそうなほど近い事による迫力の増したショーはその後、私たちに降り注ぐ事無くその姿を楽しませた。
途中、少し怖かったのか王様が、神ちゃんと神様を囲う私の腕の間に潜り込んできた。
そうして一塊になっていると、一人また一人と私にくっ付いていき、終いには全員で団子になって昼の空を観ていた。
一度データが飛んだものを書き直したはずなのに、時間はかかるし少し違うしで、やっぱり書く事って難しいです。




