師匠、仕事する
「無理とはあれか。技術面か?それとも心理面なのか?」
「技術面での話でしたが、そうですね。心理面がありましたね」
やべ、藪蛇ったかも。
「あのですね、今の私を見てもらうと分かりやすいんですが、読み込みはほぼ無制限なのに対して再生は私の体積に制限食らっちゃうんですよね。読み込めば体が大きくなって、逆に再生するとその分の体積が必要になります。読み込みに関しては大きくならないでも出来るんですけど、再生はちょっと無理です。なので大きなものを再生するのは準備がいるってのもありますが、抑そんなでかい奴を私、読み込んでいないのです」
違った。
「それにそうですね。心理面、心の内としては私がそこまでする理由もありませんし、はっきりと面倒いです。ですがまあ付き合いますよ、私。報酬を要求してなかったので埋め合わせとは別に擦り合わせましょうね」
違ってなかった。
けど仕方ない、ノリスケがついてくる理由が無い以上なんらかの取り決めはしておかないといけない。その時になって困るのが目に見えている。
「そうだ、直近の話になるんですけど乗りのもはですね、なんとかならなくもありません。報酬としてやってもらいたい事はありますが」
持ってつけたような言い方をして、ノリスケがニヤけた。
調子こいてる感じがムカつく。
「それと言っときますけど、でかいドラゴンはいますが私の知る限り飛べませんよ」
こいつ。
ノリスケのやってもらいたい事とはノリスケ自身の事柄、姫の国に関する事だった。
ノリスケが読み込んだ姫は国の第二席の重臣が中心となった謀反にあったのだが、難なくそれは取り押さえられその重臣の死をもって終息したのだという。
それならばなんの問題もなく、この状況もあり得なかったのだが、そこで発覚したのが病原菌由来だとされる王家筋の発病。病は突発的に表層に現れ、呼吸器系の異常の後に呼吸困難による絶命を起こす。潜伏期間は不明で凡そ十九時間から一ヶ月までの開きが確認されているのみ。感染は報告されていない。
そしてそのゴタゴタも解決せぬうちに次は生き返り騒ぎが起こり、件の重臣が蘇ったかと思えばそれを機にと重臣一派が「我らは神に選ばれた、我の望む道こそ神道」と宣い、勿論死人を幽閉していなかった城内では死体置き場から蜂起が勃発。病によって指揮系統が弱っていた部分が多岐に有利に働き、これを成功させてしまった。
姫は危機を察した臣下によって直接の危機を脱するものの脱出後、発病。お付きの人二人を伴うも感染を恐れて姫自ら離れ死亡。そして現在に至る。
その上でノリスケは俺に現在城を占拠する中心核を潰してくれと依頼してきたのだ。
この地域の人間は死んだり生き返ったり忙しない。
因みに忌避すべき病原体は摂食感染なので汚染自体は平気なうえ、大気中だと2時間で滅菌するのだと菌の残骸ごと読み込んだノリスケが教えてくれた。見えない事を考慮に入れなくてよくなったので助かる。
「それが報酬になるなら吝かではないが、なんでわざわざお前がそんなこと頼むんだ?」
「私が読み込んだ姫の記憶を感じているうちにそうしたくなったんです。そうだ、それとは関係ないけど姫さんの再生がうまくいったのでちゃんと自我がありますよ。私の身体から切り離すとさすがに死んでいるのでただの死体になっちゃいますけど」
「話でもしろってか。まあいいや、わかった。さっさと先に行きたいから今から行ってくるけどいいな?」
「はい、構いません。国までは私も同道しますね」
現在俺は城に侵入するべく姫さんの国の王城門前に来ている。
ノリスケはホテルに置いてきた。
はじめノリスケは自分が出て行けば色こそ違うが同じ顔立ちなのだから、騒ぎが起こるはずなのでその隙にと言っていたがあまり有効に働く気がしなかったので止めさせた。今頃はふて寝でもしているかもしれない。
ともかく今回の作戦は潜入と制圧なんだけど、頭を押さえた時点で終わりなどといった案件ではないので潜入しての一撃離脱では完遂が難しい。
なのでしかたない、端から片付けていくしか安全マージンが確保出来そうもない。幸い人数がそこまで多くはないので実行可能なこの作戦にした。
隠れて一人ずつだと時間がかかりすぎて騒がれて警戒されたら面倒。そこで速攻で攻めることにしたのだ。
やる事が関係者を軒並み潰して頭まで行くというこの行為を作戦と呼べるかは少々の疑問が残るが。
「俺はオンオフの人なのだ」
ここからの行動理念を口にするのはいつもの前準備。
王城門へとおっさん達が持っていた残りの小玉スイカ爆弾を投げつける。すると二人いるうちの一人の門衛が向かってきたのでそれを率いて一旦離脱する。
人混みに紛れて「貴様、爆発物を投げつけるとは何事だ!」と追いかけてくる門衛を引き離し、王城門へとこっそり戻ると、一人残った門衛の死角から内部へと潜入した。
門内に兵はおらず人材不足は深刻なのだと感じさせる。少人数しかいないというのは練度もクソも無くなるのでアホかなと思う。勢いだけで行動したらうまくいったのだろう、後先がなさ過ぎる。
人のいない外庭を突っ切り主塔へと入り込むと女中が一人、湿った手をエプロンで拭っているところに鉢合わせた。
事前にノリスケに聞いておいた城の内部構造によれば女中が出てきたのは洗い場。皿でも洗っていたのだろうが、今の時分にはなんとも緊張感がない。
「おい、そこのお前!」
敵地潜入中に声をかけたのは振り向いてもらうためだ。別に言葉が通じないのだから何でもいいのに、わざわざ呼びかけてしまうのは何故なんだろうか。
俺の声に振り向いた女中の顔をよく見る。
わざわざ顔を見るのはノリスケの指示だ。なんでも今回謀反を起こしたのは一族なのだという。で、血族には特徴があるのでそれを見極めて打ち倒せと。
それ以外は拘束された者であるらしい。なんともわかり易い事だ。
そして肝心の特徴は極太眉。太眉ではなく極太だと念を押してきたので相当太いのだろう。女性はもちろん男にも眉を整えられたら見分けがつかないだろうと提言したが、こちらでは眉を剃る文化がないのだと。
眉剃りって文化なのか。
俺の声に振り返った女中は細眉だった。
放置でもいいが伝わらない言葉で、洗い場に篭っているように言ってから先を急ぐ。
目標までのルートになるべく人員が配置されているように進むには主塔三階からパラスへと向かうのが高効率だという話なのでその通りに進んで行く。
敵に先制されるのを避けるために重心を下げて、音を抑えて駆け足。不意に普通に歩いてまた駆け足。
これを繰り返すと予期しないところでの効果が期待できるから昔から仕事の時はこれ。結構使える。
まあまあ綺麗な城内で女中と別れてから3階までの道中に会った人間は三人。その何れも会敵。
彷徨いてたデブいおっさん、哨戒しているのか室内で武装していた青年、痩せぎすで眼鏡の文官ぽい青年。どいつも脅威度があまりにも低かった為、いまいち真剣になれずに思考を別のところに飛ばしながら殺さない程度に締めつつ先を急ぐ。
「ストレスになってきた。こいつら何言ってんのかワカンねぇし、目が怖ぇしで。あー、うちの子抱っこしたい!」
自分の事を神だと思ってる系イカレポンチを踏みつけ、ここ最近の不満を放出した。
周囲は広く色の濃い色彩で彩られたドンジョン。そこに敷かれたワイン色の絨毯には眉毛に特徴のある人間がそこかしこに転がっている。
まあ、転がしたのは俺だが。
ノリスケの依頼通りの結果に、とりあえず一息。
心が落ち着いてから部屋を見てみれば天井際の高い場所に色鮮やかな神棚がズラリと並んでいた。
入り口側にオレンジ、水色、黒、うす緑。対面の窓上に濃紺、白、赤、三日月の付いた黒。
埃の被っていないところを見ると大切にされているのだろう。手入れが為されている様子だが、一体なんの神なのだろう。
少し気になった。




