靴と空中とはだしうろつき
暖かな焚き火と無表情のラリー、そして周りの景色そのものが揺らめいて景色の色がぐにゃりと混ざり音が遠ざかっていく。
今は宵闇姉さんにしがみついて、みんなでお出かけをするところだ。
紺碧姉さんが連れて行ってくれるのでとても楽ちん。待っているだけでマーブル模様の景色が目覚めた様に動き出し意思を持って目指す色、形に戻ろうと動き出す。
一人実行する紺碧姉さんは大変かもと見てみると、半分寝ていた。これをすると眠くなるのか、ただ眠いのかが微妙なラインの顔をしている。どっちだ。あ。
「お姉、気絶しそうなの?」
抱きついたままの宵闇姉さんにふと過ぎった不安のままに視線と合わせて問うてみる。
「へ?わっ、どうした!大丈夫⁈」
「んにゃ、ちょっと眠いだけ。平気平気。ほら、もう着くよ」
驚いて尋ねた宵闇姉にのんびりと返す紺碧姉。要らぬ心配の様で良かった。
次第に景色に緑色が減っていくと同時に音が帰って来だした。葉擦れの音や虫の声、獣の鳴き声のかわりに久々の街の喧騒とシャババという水音が聞こえはじめる。
水滴の弾ける音とともに視界がハッキリとするとそこには人々の営み豊かな街並みが広がっており、活気にも満ちていた。
今いるここは街の中にある公園で、さらに噴水の中だった。頭の上から降り注ぐ水は見えない屋根があるのか、周りに避けながら陽の光を浴びキラキラと落ちていく。
足元がぷよぷよするので何かと思い目をやると水面に立っていたので、しがみついていた姉さんから離れて片足を上げて踏むと音はしないけどぱるるんとふるえる足元。
あまりの楽しさと初めての体験に集中して飛んだり跳ねたりしていると、悲しげな気配を目端でキャッチした様な気がした。
いつもならほっぽらかしにしてしまった白薔薇が拗ねたシュチュエーションなのだがそれはない。今は一緒に跳ねてる。ちなみに王様も跳ねてる。
くりんと姉さん方のほうを向くと、誰かと抱き合ったり話しをしたりしていて忙しない。
そしてその傍らには、気のせいではない証拠に幼子が佇んでいた。
寂しそうにスカートを掴む小さな女の子。ぴょんと噴水を飛び降りて、近寄り躊躇うことなく頭を撫でると少しだけ悲しい雰囲気が薄れた。そのまま撫でていると王様も近寄ってきて撫で始める。白薔薇は僕の頭の上に顎を乗せて少しだけ心配そうな顔をしていた。
三人で慰めると女の子は次第に笑顔を見せてくれた。
「おねえちゃんたち、だあれ?」
「私たちはただのお買い物客ですよ」
問いに王様が答えるが、そういうこと?
いや、それより王様いいこと言った。そうだよ買い物だよ、買い物。
一番近くにあった一本角がキラリと光る白群姉のお尻をぽんぽんと叩く。
「ひゃ!なになにっ!」
振り向いた白群姉に手を振る。
「なんだ〜びっくりした、神ちゃんかぁ。どしたの?」
「お買い物行こう。おいも冷める」
「冷めないよ〜。でもそうだね、やることは先にやっちゃおうね」
柏手のように手を叩き、破裂音を鳴らして声を上げる。
「みんな!買い物の時間だっ!散れ〜‼︎」
その声に合わせて話し中にもかかわらず全員が「わ〜」と散らばっていく。姉さん方は勿論、なぜか集まった人たちも粗方みんな散っていったが、そういうノリに慣れているのだろう。後発でお年寄りもゆったりと散らばり、スカートを掴んでいた女の子も母親に連れられて歩いて行く。その後ろ姿にばいばいと手を振ると、手を振り返してくれてとても可愛かった。
「みんな行っちゃったね。何か買いに行きたいのは山々なんだけどお金無いのよね」
「大丈夫ですよ。私お財布持ってます!」
王様は胸のところにある大きなポケットに手を突っ込むと可愛らしいがま口の財布を取り出し得意満面。
「王様のお小遣いを使うことないのよ?大丈夫、私がなんとかしちゃうんだから!」
王様を制し、一文無しを体現するが如という失礼が似合う白薔薇がなんの根拠もない自信を漲らせる。
こうして三人は揃って歩き出したのだが、端から見るとちびっこ二人と、大して変わらないが頭一つ分大きいもう一人だけなのでなんとも心許ない。一人はふわふわ浮いてるぶん余計に。
この頼りない順に年長者のパーティは本人たちには一切の不安などないというポジティブさだけを掲げ持ち、歩いて行く。
三人はお店を目指し石畳の道を歩くが、民家民家木、民家民家公園民家民家と目指すものは現れてこず、人通りもないので今のところただのお散歩。
「さすがにね、思うわけよ」
「な〜にがぁ?」
定位置の背後から、いつも通りに首に腕を回した白薔薇が上機嫌で訊き返す。
「森ならね、土と草とで平気だったんだけれどね」
「平気って何がです?」
「ほら、僕裸足なのよね」
王様が裸足の足を見て「あぁ」と唸った。
「私も裸足なのよ?お揃いは嫌?」
「お揃いは好きだけど、僕飛べないからなぁ」
「かんたんよ。こう!こう!するの」
背筋をピンとしたりして飛ぶ感じを伝えようと白薔薇が頑張る。
「こう?ん?えいぁ!」
背伸びするも全く地面から離れない足。それを見ながら横で王様もちっちゃく背伸びしていた。
靴の事はどうでも良くなった三人は背伸びを繰り返して歩いていると、ようやく住宅地から抜けて中通りに出た。中通りはさすがに人通りが多少あり、少し賑やか。
ちなみに大通りは先ほどの噴水広場のある公園に連なっていて、中通りを過ぎ去りさらに裏通りを過ぎてしまうとあとは疎らに民家が建っているくらいで実務上は街中扱いだが、言うなれば街の外に出てしまう。つまり三人は下町ルートを来ているのだ。真っ直ぐ行こうとこの先に店はない。
中通りを横切るか、右へ行こうか左にしようか立ち止まり考える三人。三人は考え事をするときは唇を触る癖があり、端から見て仲良し度が上がっていた。
と、そこへ三人に声が掛けられた。
「お嬢ちゃん、どうしたの。足を怪我してしまうわよ」
突如かけられた声は見知らぬおばさんのもので、エプロンで手を拭きながら突っ掛けをカラコロとリズム良く鳴らせて近づいてきた。
「気をつけて歩くから平気なの」
「ダメよ、こっちにいらっしゃい」
手を繋がれておばさんに大きな水槽のある店舗に連れられ歩いてゆく。王様はあとについて歩き、白薔薇は元よりくっついているので当然一緒に向かう。
「あなた靴はどこにやっちゃったの?」
「なくしたの」
「どこでなくしたの?」
「寝てたら無かったの」
「外でお昼寝してたの?」
「外じゃないよ、バスで寝てたの」
おばさんはそれを聞いて「バスって何かしら?」と不思議そうに呟いて曲げた人差し指を唇にもっていった。
店の水槽には少し藻の生えた緑色系統の水で満たされており、少しくすんだ色の魚が悠々と泳ぐ。その横を通り抜け店の中に「こっちよ」と通された。
「ここで待っておいで、うちの子が小さかった頃のがまだあったはずだからそれを履いて行きなさい」
「いいのですか?」
「子供が大人に変に気を使うことないわ。気にせず持っていきなさい」
頭にポンと手を置いてそう言うおばさん。
「ありがとう。けど僕、子供じゃなくて大人だよ?」
「あはは、そうね」
一つ笑っておばさんは奥へ引っ込んでいった。
戻ってきたおばさんの手にあった靴は少し余裕があったがちゃんと履けたので、頭を下げて改めてお礼を言い、貰い受ける。
「こんにちは、おばちゃん」
店先からお客さんが入ってきたのでおばさんは「はいはい」と向かうのでお暇しようと後をついて歩く。おばさんはやって来たお客さんの注文を聞くと水槽の魚を網で掬ってぱぱぱっと捌いてお客さんのところへと持って行った。
三人は掬うところとぱぱぱっとのところ、お客さんに持って行くところをうずうずとした目で見つめている。
そこで三人のお買い物の時間は終わりを告げることになった。




