焼き芋
一人でしゃがみこみ花を弄っている間、お姉二人は木と話をつけています。
どうやらここが目的地らしく木が立ち止まり、先程からわさわさ枝を揺らしまた何かを伝えようとしていますがもう私は結構です。
知らん知らんとよそ見をしているうちに話が進み、丁度這い蹲り花の中心部を食い入るように見つめていた時にそれは聞こえました。
「滅っべぇ、ぼけが〜っ!!」
裂帛の言葉の後に爆裂の音。強めの熱風に、焦げた焼き芋の匂い。
振り返るとそこには花畑を放射状に切り取った焼け野原に、そこに聳える炭の塔。いや、塔群。
焼け野原の始まりには蹴り抜いた右足に僅かな紫電を纏わせ、片足で立ったままのオレンジ姉さん。
傍らにはしゃがみ、花を摘んだ姿勢の水色姉さんが空いた片手で顔前を扇いで顰め面をしています。
「な〜ん、焦げ臭〜い」
「えへへ、悪いんね。我慢出来ねかった」
水色姉さんに軽く詫びつつようやく足を下ろすオレンジ姉さん。
「神ちゃんもごめんね、平〜気〜?」
朝から少しカチカチしていたオレンジ姉さんの口調が、発散したからかいつもの感じに戻っていましたが今はそれよりも大事なことがあります。
そう、お芋の匂いがするのです。
ほぼ焦げの匂いしかしませんが、微かに優しい甘みを台無しになるまで手を加えたあの懐かしい匂い。ずっと昔に師匠が作ってくれた九割炭塊の焼き芋、あの時嗅いだ匂いがします。
ふと潤んだ左目を手の甲で拭い、発生源の焼け野原に駆け寄ると、より強く匂う箇所を探し歩いてみる。
「どした?ここ臭いから向こう行こ?」
水色姉さんが声を掛けていますが、それに少し待ってと片手を上げる。強く香る地点を見つけ、しゃがみこんでいると僕の背中に水色姉さんが両手を肩について負ぶさり顔を覗き込んできました。
白薔薇は僕の傍で興味深そうに僕の手元を覗き込んで楽しそうにしている。
「ここ、ここなん」
一帯のそこここから匂いが出るスポットがあったので、指で香りのする地面の一つを指してみます。
「ここがどうしたの?コゲコゲで何も無いよ?」
「お芋、焼き芋の匂いする」
首を傾げて「焼き芋?」と疑問符を浮かべる水色姉さんと指差した先の地面を掌でペシペシと叩いている楽しそうな白薔薇。
その叩いているところの何故かパリパリの土を上のコゲごと板を剥がすように退かし、ほんのり温かい地面に穴を掘ってみる。
思った通りに赤い皮の芋が地中から顔を出した。パッと掘り起こし土を払って芋を割らんと力を入れるとパキッと音を立てて固い生芋が割れた。
「それが焼き芋?匂いは…あんまりしないね」
「これ、焼き芋と違った。焼けてない芋。ただ芋」
「ははぁ、これがただ芋なのね。それで、ただ芋ってなに?」
残念ながら伝わらなかったようだ。
まだちょっと言葉難しい、他人の知らないただの芋類ってなんて言えばいいの?
どうやら一面に群がるこの青っぽい紫色の花が全てこの芋の花らしい。焼き芋臭のする地面の殆どが上っ面を完全に焼かれて、焼け野原では見る影もなかったが、いっぱいあるし多分これだろうと青々とした花の根を掘り起こすと芋がくっ付いていた。花すら枯れる前にこれ程にしっかりとしたお芋が生るとは、地上部が枯れる頃にはどれだけのものが採れるのかドキドキする。
焼き芋期待ゾーンに真っ黒焦げか生焼けのお芋しか見つからなかった事に少しがっかりしつつも、うちに帰ってみんなで焼けばいいかと十三個の芋を手に入れるために一つ掘り返しては隣に積んでいく。
「よし、あと一つ」と言ったところで掘り返した芋が弾け飛んだ。
実際には周りを囲む森の間から延びた木の根が鞭のような軌道で花園の半ばまでを打ち砕き、地面を隆起させ土煙を舞い上げたのだが僕的には芋が吹き飛んだのだ。




