紐で登る、少し浮く
トンネル上部にぽっかりと空いた穴から注ぐ陽の光がスポットライトの役割を担い、静かにとぐろを巻くロープを照らし出している。
その格好良さに注目していたのは僕らだけだったらしく、既に王様は使え無くした紐をもう一度探してもらっていた。
目の前に落ちているこのロープを上までぶん投げたほうが早そうなものだが、王様の「もう一回」の声に一人残らず離れて行ってしまったので今更言っても誰もいないのだ。
上の子達が改めて探しに行ったといっても一度見つけているから今度は早く、すぐさま帰って来た。大体十三秒くらいでパーカーの襟ん所のやつみたいな紐が降りてくる。
本当にどこかに紐取りに行ったの?嘘だぁ早いよ。てか細。
「いいよ〜、紐掴んでぇ」
上から声がかかって来たので、まず王様が紐を手に巻き付けてから掴み、試しに引っ張ってから壁面に足をかけた。グンと紐を引き、一歩壁を上がると上から声が上がる。
「来たぞー!踏ん張れー!」
その声が聞こえて直ぐに王様が壁を引き摺り上げられてゆく。
ザリザリと音を上げて結構な早さで土の壁に擦り後がついているけど王様、服土まみれじゃない?壁に足かけた意味はなんだったのかな即行転けたのかな。壁を歩くように行くんだと思ってたわ。
荷物のように王様は引き上げられて、壁を登り切ると一瞬姿が見えなくなった後、ヒョイと顔だけ出した。
「今から紐下ろすから〜登、あれ〜?登ってくる〜?」
ふむ、さてどうしよう。どうする?
「ど、する?」
思うままに彼女に声を掛けてみた。そもそも掘ってほしいと願ったのは彼女なのだし掘るのも急ぎって訳じゃ、ないよなぁ。頼まれたのは偶々僕が訪ねて来たからだし。
その掘削依頼主はさっき王様が引き上げられている時からじっと抜けた天井から空を見つめている。
何か思うところでもあるのかなぁと思っていると、そっと静かに言葉を「なんか行けそうな感じ」と発し、そして二言目ははっきりと聞こえる声量で。
「行ってみよ?」
と小首を傾げた。
地上に上がる旨を王様に伝えると、先程と同様にパーカーの紐がスルスルと降りてきた。
紐を片手に取り、掌に巻きつけてキュッと引っ張ってみると駄目な感じがした。紐の強度云々の前に痛い。細い紐は掌に食い込んで体重など掛けたら凶悪に締め付けることを予感させた。すごいな王様、痛くなかったのかな。
手が強いのか、あほほど軽いのか。いや、軽いは軽かったけど常識内だったな。
少し考え込んでいるうちに、さっきの引っ張りを合図と受け取り「引っ張れ〜」と、間延びした掛け声と共に紐が引かれてゆく。まずい、このままでは悪辣な痛みが!
すかさずもう一方の手も紐に巻きつけた。ぎゅっと腕を畳み、顎の辺りに引き寄せる。
痛い!既に痛い!体浮いてないのにもうだいぶ痛い!
プルプルしていると後ろから抱きつかれた。もちろん相手は一人しかいない、彼女だ。
きゅっとしがみつくように掻き抱き、懸命に足をパタパタさせて上へ上へと押し上げてくれている。
嬉しく感じると共に手の痛みが引いていく。気の持ちようとかじゃなく実際に痛くない。
不思議な感じがする。理由はすぐにわかった。抱き付かれている胴廻りには圧迫感も何もほぼ感じないのに浮いているからだ。身体自体が上がっていっている感覚。
吃驚していると地上に手をかけられる距離まで来ていたので自力で直ぐに上がり、頑張ってくれた彼女の頭を撫でた。薄っすら赤い顔でてれてれしてくれる。可愛い。




