こんにちはおうさま
響く声と突然の光に驚いて彼女は僕の首筋に飛び付き、キュッとしがみついた。
彼女の方を向きつつ剣を手放し、抱き留めるとすぐさま悲鳴の主が上から落ちてきた。悲鳴の方へと顔を上げた時にはすでに目前まで迫ってきているところ。
僕が反応して動いたのは少しだけ。んや、動けたのは。
後ろに半歩、下がりかけの半身にして頭への直撃を避ける。
落ちてくる小さな影を受け止めたいがそれだとしがみついている彼女に当たってしまう。仕方なしに左腕で彼女を抱き込み遠ざけ、目前の人影をなるべく身体をくっ付ける様にしながら片腕で抱き捕まえて、膝のクッションで勢いをなるべく殺す。
でも無理。そのまま三人で地面に崩れ落ちた。
湿り気のある掘り立てのトンネルの中は土埃は立たず、頽れる際の篭った音が響く。
「あたた、平気〜?」
落ちてきた小さな影が平気そうな声を出したのでホッとした。
「平気ヨ、あなたダレ?」
まだ少し慣れない言葉で気遣われたのでこちらも、と彼女が怪我をしていないか確かめながら覚えかけの言葉で答える。
落ちてきたのは声通りの小さな女の子だ。落ちた時の勢いを止められずに顔から地面にいったので少し土が付いている。
そこへ、降り注ぐ日差しの方から声が降ってきた。
「おうさま〜、平気〜?」
「お〜さま〜?痛くした〜?」
「返事しれ〜い、王様〜」
「「おうさま〜」」
次々と声がかかる。大勢じゃなさそうだけれどなんかガヤガヤしてる。
「大丈夫だよ〜。登るの大変だから〜紐ない〜?」
王様との呼びかけに答えたのはもちろん落ちてきた少女。上に向かって声を張り上げている。
上から「わかった〜」との声が複数響くと急に静かになった。全員で向かったのだろう。
紐を取りに向かっているその間に、ちゃんと少女との挨拶の続きが返ってきた。
「ごめん、話の途中だった。外の人、かな?あなた。はじめまして。
私は、んと、王様ってみんなから呼ばれているよ。そっちの人も初めまして、ってなんだ、神様じゃん」
僕の後ろを覗くとそう彼女を見つけて言い放つ。
「神様?」
「そうだよ、うちらの神様。てかここら辺にはうちらしか住めていないからこの土地の神様って言ってもいいのかな」
「神様?キミ神様?」
ぐるりと振り返って彼女に問うてみる。
しかし、彼女はフルフルと首を振って否定を表した。
「神様って何?何をするもの、何をしたもの、何ができるもの、その全てわからないから違う」
すると王様が口を開く。
「またそれ言う。神様は自分は違うって言うけれど、神様が神様だから神様なんじゃなくてみんなが神様だと言えばそれは神様なんだよ?まぁ迷惑な話かもしれないけれど、うちのおとんのおかんのおかんのもっとずっとずっとおかんかおとんの頃から神様って呼んでるからなぁ、今更だよ」
「神様ナニスル?」
わざわざ神様って呼ぶってことは何か意味があるのかと、少ない語彙しかないなかで質問した。
「ん?何する?
あぁ、そう呼んでいるだけで別に困ったら助けてとか、そゆんじゃないよ。何かしてもらうとかじゃなくて言うなれば“何もしない”が望みかな。まぁ出来ればだし、こっちの勝手な話だから気にしなくていいんだけれど」
勘の良さで的確に受け取ってくれて、ちゃんと答えてくれた。
それにしても小さいのに随分と確りとものを言うものだ。さすがあだ名が王様。
俄かに頭上が騒がしくなってきた。紐探し組が戻ってきたようだ。
「おうさま〜、ひもあった〜。投げるよ〜」
「いいよ〜」
「て〜い」
ポーンと紐が纏まって落ちてきた。
「登るの!全部投げたらダメ!」
王様が声を張りあげた。




