師匠心配してないといいけど
もうすっかりと慣れたこの暗い穴の中で、僕たちは今日二回目のご飯を食べていた。
最近は食べ物の種類も一個増えて、かつてない栄華を誇っている。
トンネル掘りの最中、削った土から木の根が顔を出していたので、頑張って土を崩して引っ張ると、根っこには豆の鞘がくっついていた。早速鞘を開けてみると空豆っぽかったのでそれを彼女に渡しておいて、ご飯の時に食べてみたのだ。
それからその豆はレパートリーの一つとなった。
僕が手に持った緑色の豆はもう無い?と聞くと
「らぁ〜!まるぁあるぅお!」
彼女がまだあると辿々しい言葉で答えた後、取りに行ってくれる。
彼女の言葉はだいたい感覚とか、言葉の繋ぎ方とか目線、仕草から理解できていたと思う。が、彼女が僕の話す言葉を話そうと頑張っているのだ、負けている訳にいくかい!
ということで覚えたよ、ことば。
「ゆゆら、るるりぃあるぃ?」
「!!わらぁば!りらすてぃる!」
「ん〜、なんでぇ?」
いまいち通じていない、まだ完全じゃ全然ないらしい。
そのやり取りは片言でまだ少しおかしな言葉を話し、と酷いながらも自分と同じ言葉を話したことに対する喜びを白薔薇は表していたのだが、彼は話の繋がりがわからず首を捻るのだった。
ご飯を食べ終わったので、また土を削る。
今はもう、いちいち剣で掘らなくていいのでしゃがむことも減りラクチンだ。
ただ前の土壁を切りつける。縦横斜め、突いて薙いで、ひたすら剣を振る。
こんな事をしていると昔を思い出す。
師匠の動きを真似ていたあの頃。今と違い十五分程の間、集中して考え続けながら振っていたのにも関わらず、懐かしさからか思い出してしまう。
「手豆を作らない、柔らかな手でいなさい。些細なことで、なにを気づかれるかわからないよ」「自然体で動けることが大前提。それを意識したらダメ、できなくても意識することでもっと出来なくなるからね。今までの君を忘れないでいなさい」
何か違和感を感じるたびに、師匠が言った言葉たち。
ごめんね師匠。今思っくそ守ってないや。
でも穴の中だからいいよね師匠。
師匠は迫力があって強くて気持ち悪いくらい優しく、強くあろうとする様子が透けて見えるわかりやすさがかわいい人だった。
いつだったか師匠が腕に大きな怪我を負った時に僕が泣きながら応急処置をして、大きな師匠を背負って先生のところに連れて行こうとした時も、怪我した師匠の方がなだめていた。
「大丈夫、怪我をして痛いのは普通のことだよ。怪我をしていないのに泣いている君の方が心配だよ。いつもの君に戻ってくれる方が私は嬉しいのだけどなぁ」
「だづで、師じょうが、じじょゔがぁ」
そんな師匠とのことを思い出しながらずっと穴を掘り続けたので随分と長い間休むことを忘れていた。
疲れて手を止めた時、つい首を回し背伸びをして背筋を伸ばし両腕を大きく上に伸ばした。
洞窟の中で剣を片手にしたまま。
天井にスッと切れ目が入った向こう側から、ドッという音とボコッという音が立て続きに鳴り、天井から久し振りのお日さまの光と崩れた元天井が降り注ぎ、あと高い女児の悲鳴が響いた。




