第4話「見知らぬ世界」
魔法で外に出たドーネクトとダーケスト。
彼らは広がる景色を見て、絶句した。
コンクリートで固められた道、立ち並ぶ鉄製のビル、大画面で流れる映像、走る鉄の塊……どれもこれも、故郷・フィーヴェにはないものばかりだ。
「な、何じゃこりゃぁーーー?!」
叫ぶドーネクト。
助手のダーケストも、物珍しそうにキョロキョロと見回した。
別のことが気になっていたのだ。
先ほどから自分たちに注目し、札のような形をしたものをこちらへ向ける人々。
紙より分厚いそれは「カシャッ」と音を立てるものもあった。
「ダーケスト、これはどういうことだ?!」
「私の方が聞きたいです……」
冷静に返しながらもダーケストは、人々が口にする言葉を聞き逃さなかった。
「ドーネクトとダーケストだよね? この前、DLCで配信された!」
「クオリティ、めちゃくちゃ高いね」
「ドーネクトのローブとか、よく再現できてるね」
「ダーケストの冷たい表情も、いい感じじゃない?」
二人の顔はすでに知られていた。
しかも、「クオリティの高いコスプレイヤー」だと思われていた。
「とりあえず、ここを離れましょう」
ダーケストはそう言うとドーネクトを引き連れて、人が滅多に来ない裏通りへ避難した。
◇
「あの穴、変だと思ったが、まさか異世界に飛ぶとは……。帰る方法を探すぞ!」
ドーネクトは、少しずつ落ち着きを取り戻しながら言うと早速、魔法を使った。
ところが、手から光が出るだけで、他には何も起こらなかった。
「あれ?」
ドーネクトがもう一度、手を掲げて魔法を使った。
先ほどと一緒で、手から光が出るだけだった。
「どこにも行けないだと?! 魔力は十分にあるし、移動魔法は一度行った場所へ行かせてくれるんじゃないのか!?」
見知らぬ世界に来ただけでなく、魔法まで効かない。
ドーネクトは再びパニックになり始めた。
「あいにくですが……」
ダーケストが声のトーンを落としながら、口を開いた。
「我々の魔法では、帰れないかもしれません」
「はぁっ?! 何でそう思うんだ?!」
ドーネクトは納得できず、声を荒げた。
それでもダーケストは冷静を保ちつつ、決定的なことを言い出した。
「……ここは、リアリティアかもしれないからです」
淡々とした返しに、ドーネクトは唖然とした。
「リ、リアリティアァ?! ここが? あの『存在はしているが、行けないと言われる幻の世界』の?!」
「はい。未知の景色と言い、人々の会話と言い、間違いありません」
「じ、冗談きついな……」
「街の者たちは、すでに我々を知っておりました。ここでは我らは、娯楽の一部になっているようです。街で札のようなものを向けている方々が、私たちの名前を言っていたのが決定的です」
「お、俺ら、有名人なのか?! まいったなぁ~」
驚きつつも、どこか嬉しそうに照れるドーネクト。
「照れている場合ではありません……。顔が知られているなら、迂闊に動けません。ちょっと失礼!」
ダーケストは急にドーネクトのローブを取ると、フードをかぶらずに着用した。
「これから、こちらで生活するためのものを調達してきます。今の格好を隠さなくては、危険です」
「調達って、ここの通貨は持っているのか?」
「我々には両替の魔法があるでしょう。フィーヴェのお金に魔法をかけると、こちらの通貨になるはずです」
「お、俺はどうすればいい?」
「ドーネクト様はここにいて下さい。ローブを取ったのですから、先ほどのように騒がれることはないはずです」
「じ、じゃあ――」
取り残されるのが不安なドーネクトが聞き続けていると、ダーケストがさえぎり、まくし立てた。
「とにかく、待っていて下さい。まずは買い出しが大事です。先ほどからあなたのローブで嗅覚を刺激される私の身にもなって下さい」
「定期的に洗ってるわ、失礼なっ!!」
ドーネクトが声を荒げてつっこむと、ダーケストは返事をせずに駆け出して行った。
約三十分後、ダーケストは両手に荷物を抱えて戻って来た。
「お待たせしました」
袋には、リアリティアの衣服や食料が入っていた。
ドーネクトはローブなしで待たされ、すっかり凍えていたので、先に着替えることにした。
◇
二人は公衆トイレで、リアリティアの衣装に着替えた。
先に出て来たダーケストは、灰色のチェスターコートの下に黒いシャツを着て、黒いパンツに黒のショートブーツを履いていた。
続けて出て来たドーネクトは、黒いトレンチコート、灰色の襟付きシャツを着て、黒いパンツに灰色の革靴を履いていた。
「サイズも問題なさそうでよかったです。これからですが、リアリティアで生きるための術を身につけましょう。すぐに帰れないかもしれないので」
「うむ。……それよりもだな、ダーケスト」
「何でしょう?」
「見たか、リアリティアのトイレ?! 便座があったかかったのだ! あれは魔法か!?」
「用まで足したのですか……?」
別のことに興奮するドーネクトに、ダーケストは早くもうんざりしていた。
「もったいない! 俺は生きてきた中で、あんなに温かい便座は生まれて初めてだっ! お前も座って来い! 今なら人もいないから!」
「あなたの肌が触れた便座に座れと……? 触る……いえ、見るだけでも不快だと言うのに」
「『見るだけでも不快』って何やねん?!」
見た目はリアリティア仕様になっても、やはり中身は変わらない二人であった。




