第2話「闇魔導士たちのクエスト」
昼食を終え、宿屋を出た二人はギルドへ行き、クエストを受けた。
唯一残っていた依頼は、「遺跡でのお宝捜索」だった。
これは難易度が高く、これまで誰も受けてこなかったクエストだ。
ドーネクトは「残っているなら何でもいい」との理由で、迷わず選んだ。
◇
「いや~、こんな遺跡で一回冒険するのが、子供の頃からの夢だったんだ!」
壁も床も黄土色の石で造られた遺跡内を、二人は松明を手に進んだ。
普段、人が立ち入ることができないその場所で、ドーネクトは子供のように笑っていた。
「無邪気でなく悪意に溢れながら笑っていますが、遊びに来たのではありませんよ」
助手のダーケストが、冷たく指摘した。
「わかってるわ! 何だよ、『悪意に溢れながら笑う』って?!」
「わかっているなら結構。ですが、こういう遺跡にはあらゆる場所に罠が仕掛けられています。気をつけて下さいね」
「それもわかってる! 俺は昔っから、魔導書の次に遺跡発掘の本も読んできたんだ! 遺跡のことで、わからないことなんてないからなっ!」
自信満々に言うドーネクトは何気なく、壁に手を当てた。
すると、壁の石が突然奥へ引っ込むと、彼の顔の前に数本の槍が一斉に現れた。
「ギャアッ!」
「……言ったそばから、引っかかっていますね」
「い、今のは、お前が話しかけるから油断したんだ! 今後は引っかからん、絶対に!」
いつものように、助手へ責任転嫁しながら進むドーネクト。
すると数メートル歩いたところで、急に道がなくなった。
「あぶねっ!!」
落ちたと同時に自分の体を、魔法の球体で包んで浮かんだ。
下を見ると、鋭く尖ったトゲが数本、床に仕掛けられていた。
球体の力で道に戻ると、やはりダーケストから注意を受けた。
「典型的な罠ですね。そもそも、ここだけ床がないことに気づきませんでしたか? ちゃんと、道も見て歩かないと」
「やっかましい! お前が指摘するから、前を向いて歩いただけだ!」
「責任転嫁は今に始まったことではありませんが、理由になっていません」
助手に言われ、ドーネクトはより機嫌を悪くして進み始めた。
また穴に落ちるのは嫌だったので、今度は下を向いて歩いた。
すると……。
ゴン!!
ちょうど曲がり角の壁にぶつかった。
「本当に、下だけ向いて歩いたのですか……?」
「お前が『道を見て歩け』って言うからだろ!! だいたい、何でここで急に曲がり角なんだ!? 遺跡と言えば、もっとまっすぐな道が続いているもんじゃないのか?!」
「ここで、あなたの理想論を出されても困ります。現実の遺跡と、あなたの想像の遺跡は違うのですから」
「お前がゴチャゴチャ言うから、さっきから失敗続きではないかっ!」
「壁の槍と床の穴はともかく、壁の激突はあなたの過失でしょう……。そうでなくてもあなたは、毎日失敗しているというのに。何なら、生まれたこと自体が失敗と言ってもいいぐらいです」
助手からの容赦ない毒舌に、ドーネクトはますます腹を立てた。
「だったら見てろっ! この俺が、フィーヴェで最強の闇魔導士だってことをなぁ!!」
ドーネクトは手から黒い魔法弾を出した。
魔法弾は、瞬く間に巨大化していった。
「な、何をするおつもりですか?!」
さすがに、ダーケストも焦り始めた。
「こんな罠どもに引っかかるぐらいなら、遺跡ごと吹っ飛ばしてやる!!」
次の瞬間、ドーネクトは巨大化した黒い魔法弾を暴発させた。
石造りの遺跡は簡単に崩れ始めた。
「よっしゃ! これで邪魔な罠も作動せんだろう!」
得意げになるドーネクト。
やはり、ここでダーケストが水をさした。
「お宝はどうするのです……?」
「……あ」
助手からの指摘で、ドーネクトは自身の行いを後悔した。
しかし、彼らは簡単な白魔法しか使えないので、遺跡を直すことができなかった。
結局、ほぼがれきと化した遺跡を探し回る羽目になった。
ドーネクトとしては、これで罠も作動しなくなるはずだった。
しかし、一部の罠は残っており、部屋一面のサイズの鉄球が転がって来た。
そうでなくても、半壊して狭くなった遺跡で迫って来る鉄球は、本当に命の危険さえ感じられた。
二人の合体魔法で鉄球を壊すが、同時に周囲の壁を崩してしまい、また道が塞がれるという悪循環にもなった。
そんなこんなで、お宝を見つけるのに五時間はかかってしまった。
「もうダメだ。ベッドで寝たい……」
体力も魔力も残りわずかなドーネクトは、へとへとになりながらも、遺跡の奥にあった宝石を抱えて歩いていた。
もちろんお宝にも罠が仕掛けられていたが幸い、遺跡が半壊した影響で作動せずに済んだ。
「自業自得ですよ。あのまま、まっすぐ進んでいれば三倍ほどの早さで攻略できたというのに。魔法で遺跡を壊したりするから」
「お前の指摘がうるさすぎるからだろう!!」
「何でも私のせいにしますね……」
ダーケストが深くため息をついたところで、辺りに邪悪な気配がした。
歩いていた森の中に、無数の魔物の群れが現れたのだ。
「見事な踏んだり蹴ったりですね」
「そうでなくても疲れてるのに……」
「おそらく、遺跡に潜んでいた魔物が外に出て来てしまったのでしょう」
「最悪だ……。もう俺、魔力残ってないぞ」
一匹の魔物がドーネクトに襲いかかる瞬間、ダーケストがその前に出た。
「はぁっ!!」
いつもより野太いかけ声を出しながら、魔物に強烈な蹴りを食らわせた。
蹴られた魔物は待っていた群れと激突し、将棋倒しのように後ろへ倒れていった。
「武術があって良かったです。あとはお任せを」
ダーケストは魔物へ向かって、ファイティングポーズを取った。
「お、おう。前から思っていたが、お前は最高の助手だぞ!」
「おだてる暇があるなら、色んな意味で強くなって下さい。そうでなくても私の人生、あなたの助手になってから、黒歴史なのですから」
「悪かったなぁ!!」
毒を吐きながらも、ダーケストは武術で魔物たちと戦い始めた。
ドーネクトも生意気な助手への怒りもあり、わずかに残っていた魔力で小さい魔法弾を出した。
それを放つと偶然、群れの親玉に直撃した。
「あっ……」
ドーネクト、ダーケストだけでなく、魔物たちも開いた口が塞がらなかった。
◇
魔物を倒し、二人はギルドへ戻って行った。
ギルドのスタッフはボロボロの二人を見るなり、驚きながらも対応した。
「あ、あの遺跡をクリアできたのですか……? あそこ、罠も魔物も多いので、みんな挫折していったんですよ。こちらのお宝、依頼者様へお渡ししておきますね。ありがとうございました!」
スタッフにお礼を言われると、ドーネクトはこれまでの苦難がウソのように気分を良くした。
「フン! 闇魔導士の手にかかればこんなクエスト、余裕だ!」
「罠に引っかかりまくった上、不注意で壁にぶつかってブチギレた挙句、遺跡を半壊させておいて余裕なのですか?」
「半壊……?」
ダーケストの横槍に、スタッフは思わず素っ頓狂な声を出した。
「お前は余計なことを言うなっ!!」
ドーネクトのツッコミで、スタッフだけでなく、他の冒険者も白い目で二人を見た。
以後、ギルドでは「歴史的建造物に関する依頼は、闇魔導士禁止」という暗黙のルールができたのであった。




