交錯
康祐が、ユミ家の洗い物を手伝っている。
「僕ひとりで、大丈夫ですよ。おばさん」
「ちょっと、カラ拭きしてるだけだから」と、隣に立つユミの母。
「康祐君のお祖父さん、最近見ないわね」
「部屋で、寝たり起きたりしてます」
「あら。そうなの?」。心配げな表情で、訊ねる。
「病気って訳じゃ、ありませんから」
「うん」
「この前、九州一周してきて」
「そうだってね」
「はい。『今後は、こういうことも必要なくなる時代に、なるだろうが、最後の挨拶のつもりで』って言って」
「……」
「仕入れでお世話になってる窯元さんや、陶器屋さんを、回ってきたみたいです」
「そうなのね。……」
「今、その旅の疲れを、癒しているんだと思います」
「……」。うんうん、というように、頷く。
「今、ウチがこういう商売のやり方をできてるのも、『洗い物は、後でまとめてやればいいように』って、康祐君が十分過ぎるほどの食器を揃えてくれたお陰だものね」
「いえ、そんな。……」
「おまけに、洗い物までやってもらっちゃってる」
「……」。いえいえ、と言うように、首を振る康祐。
「ユミの担当なのに。……」
「ユミちゃんには、本当に何度も、色々助けてもらってますから」
康祐の言うことを聞いていないように、ユミの母は続ける。
「ユミが粗相して、割ったり落としたりしてる食器の補充、康祐君、そぉ~っとやってくれてるでしょ?」
「……」
「ホント、有難うね」。しみじみとした声音だった。
「ウチは、おじさんやおばさんのお陰で、いつも美味しいご飯を頂けてます」
「粗末な賄いよ」
「そんなこと、ないです」
「そんなことあるわよ。それに、最近はあまり、ウチの賄い、必要としてないみたいだし」
「いつまでも甘えてる訳には、いきません」
「なに、ナマ言ってるの!」
ペコッという仕草で、康祐が頭を下げた。
「それに、いつも宅配便を受け取ってもらって、とても助かってます」
「なんてこと、ないわよ」
「お祖父ちゃん。昼寝しちゃうと、目が覚めてもしばらくは、動けないみたいで、……」
「そうよねぇ。分かるわ。……」
「『ご用の方は、チャイムを押してください』っていう看板、ドアに掛けっぱなしで」
「うん」
「最近は、開店休業中の店みたいになっちゃってます」
「……」。うんうんと言うように、している。
「お祖父ちゃんが築き上げた店、閉店させてしまうのは惜しいから。……」
「……」
「お得意様も、たくさんあるし、……」
「……」
「ご迷惑も掛けられないし、……」
「困ったことがあったら、何でも言いなさいね。康祐君」
「はい、ありがとうございます」。洗い物の手を止めて、深くお辞儀をする。
「店は、ショーウインドー代わりとして、営業はホームページでって、考えてます」
「ふぅ~ん」
「お祖父ちゃんに、静養の必要ができたら、……」
「偉いねぇ、康祐君は。……」。それに引き換え、我が娘は、という言葉を飲み込むユミの母だった。
「終わったら、お茶でも飲んで行きなさいね」
「はい。でも、今日は、帰ってまず、お祖父ちゃんの様子を見て、……」
たどたどしく言う康祐に、
「困った時は遠慮してないで、本当に何でも言うのよ」。言い聞かせるように、優しく言うのだった。




